カクヨムで中堅作家やってたら学校一の美少女にバレて、なんか付き合うことになった件 〜最高級お嬢様()と放課後喫茶店でダラダラ仲良くする日々って良くないですか?〜
第5話 女性は男性の何を見て、魅力的かそうでないかを判定すると思う?
第5話 女性は男性の何を見て、魅力的かそうでないかを判定すると思う?
「桐島くん、私とお付き合いして頂けないかしら。
見返りに、貴方の元カノになってあげるわ」
「元カノ!?まだ付き合ってもいないのに!?」
「それが貴方にとって最大のメリットになるのよ。
なぜなら……」
クスリ、と愉しげに笑いながら。
左手でその艶やかな髪をかきあげて、透き通るほど白い耳を露出しつつ。
黒雛アスカがその、メリットとやらを話そうとした時。
「ほいよ。チーズケーキお待ちどうさま」
間の悪いことに、喫茶店のマスターがやって来て、テーブルの中心にハーフホールのケーキを置く。
一体いつのまに注文していたのか。
とても美しい焼き色で、濃厚だがどこか爽やかな薫りが鼻腔を満たす。
淡く香るのは……レモンを使っているのかな?
見ただけで絶品とわかる代物を前に、思わず喉が鳴るのを感じてしまうが……。
「あら、妙なタイミングでスイーツが来てしまったわね。
折角だから頂きましょう。
ここのケーキはどれも素晴らしいけど、中でもスタンダードなチーズケーキが私のイチオシなのよ」
「い、いや。ちょっと待って!
確かに凄く美味しそうだけど!話の途中だろうが!
せめて、そのメリットとやらを話してからにしてくれ!」
「あらそう?折角だから出来立てを賞味して欲しいのに。
あんなナリのマスターだけど、見かけによらず、仕事の繊細さは折り紙付きなのよ。
味にうるさい私の両親も、ここの料理だけは手放しで讃えているわ」
いや美味しいんだろうけどさあ。
と、思いながらふとマスターを見る。
……外見は黒雛の言うように、恐ろしくイカつい。
190以上はありそうなタッパに、明らかに素人ではない体の厚み。
40歳は過ぎているだろうに、ザンバラの金髪とびっしりと生えた口髭。
ていうか、なんで喫茶店のマスターが腰に極太チェーンを巻いてるんだよ……。
見た目は完全に悪役レスラーの真壁刀義じゃん。
戦ったら間違いなく2秒で殺される。
そんな強面が、カウンターの奥からじっとこちらを監視している。
早く食べろということだろうか。
た、食べます!ありがたく頂かせていただきます!
観念して、自分の皿に取り分けたケーキを口に含むと……。
「……!
めっっっっっっちゃくちゃ美味しい!」
なんだこれ!?
マジでめちゃくちゃ美味しい!
口当たりから、甘味の具合いやら鼻に抜ける香りやら、喉越しに至るまで、今まで食べて来たチーズケーキと全然違うわ!
「いや、マジでめちゃくちゃ美味しいわこれ。
完全に人生で1番美味しいチーズケーキだわ。脳が直接悦んでる。
うそ、なんだこれ。素材とか?素材からして他のと違う感じなのか?何がどうなってこうなってるんだよ。ヤバい」
「ふふふ。
語彙が死んでるわよ、桐島くん。それでも小説家なの?」
心なしか黒雛が嬉しそうだ。
自分の推しが褒められてるの見ると嬉しくなるよね。わかる
いやマジ美味しいわ。コーヒー単体でも絶品だったけど、このコンボはヤバい。
ふとキッチンの方を見ると、強面のマスターが満足そうに微笑んでいるのが見えた。
……意外といい人なんだろうか。
そういえば実物の真壁刀義も実は凄くいい人だって噂があるしな。
そもそも悪役レスラーはみんな人間ができているという説もある。会社の立場から見れば、できた人間が相手じゃないと、刃物や凶器を預けられないとかなんとか。
ていうか真壁刀義もスイーツ好きなんだっけ。
……スイーツ好きというか、甘味くらいしか感じられないというか。
その辺の詳細な事情を調べると、胸が悪くなる危険があるので、Google検索などはしないことをお勧めする。真偽も不明だしね。
ていうか、そんな事はどうでもいい。
「いやさ、黒雛。
ケーキがおいしいのはわかったから、そろそろ本題に入って欲しいんだけれど」
「そうね。私とお付き合いするメリットについてだったわね。
唐突だけど桐島くん。あなたは、この高校生活3年間の中で自分に彼女ができる可能性はどのくらいだと思う?私を除いての話よ」
「……?」
本当に唐突だな。
質問の意図がわからないけれど……どうだろう。
控えめに行って、うーん、…… 50%位か?
ほら、なんだかんだ言ってね。
漫画とかアニメとかでも、高校生ともなると出会いがあるものだしね。
今のところ脈のある女子はいない、というか男子とすらコミニケーションが取れていない状況だけれど。
まぁ高校生活は3年間もあるんだから、何かしら何とかなるでしょ。
空から美少女が降ってくるなんて事は無いにせよ。
日常の何気ない一場面から、僕の良さをわかってくれる女の子が現れるとか。
とは言え、あまり高い数値を出すと馬鹿にされるかもしれない。
40%、いや…… 30%位で回答してみるか。さすがにへりくだりすぎかな?
「ゼロよ」
にべもなく黒雛が言い放つ。
「な…… ゼロって事はないだろう!?
3年間だぞ!?何かしら、何かしらあるかもしれないじゃないか!」
「そうね。
確かにこの世に絶対は無いものね。
桐島くんに彼女ができる可能性もあるわ。明日地球が爆発する可能性もあるし、宝くじが当たる可能性だってゼロじゃないもの」
いやそんなレベルかよ。
僕だって、漫画みたいに突然訳ありの美少女達が冴えない男を気にかけてくれると思っているほど馬鹿じゃない。
フィクションと現実の区別をつけているつもりだ。
でもさ、ちょっと位いいことがあってもいいじゃないか。
辛い辛い中学時代を乗り越えて、苦労して勉強してこの学校の特進コースにまで入学したんだぜ?
こう、ご褒美的な。楽しいイベントの1つや2つ用意されていても罰は当たらないだろう。
それに、僕だってそう捨てたものじゃないだろう?
特に風呂上がりの鏡に映った顔とか、案外イケメンじゃなくもなくもないと思えないこともなくもないんだぜ?
「悲しいけれど、限りなくゼロに近いわ。
期間を延長して、4年制の大学を卒業するまでに彼女ができるかと言う設定でも、まだまだ厳しいのよ。
5%……いや、おまけして10%というところかしら。
言動やファッションなどを大幅に改造すればこの確率も相当に上昇するのだけれど、桐島くんの性格的に、外部刺激なしに自分の行動を改める事は考えづらいわね。
そして学生時代に彼女が作れなかったシナリオの場合、社会人になってから彼女を作ることのハードルはさらに上がってしまうわ。
今どきは30代や40代で女性経験がない人もちっとも珍しくなくなってきているものね。
そうなってしまった場合、社会全体や女性そのものに対して恐怖や憎悪を抱かない生き方をする事は非常に難しくなるわ。
俗に言うインセルと言う奴ね。とても辛い人生になるでしょうね」
インセル。
黒雛によると、Involuntary Celibate、すなわち「不本意な禁欲主義者」を意味する略語だそうだ。
主にフェミニズム界隈で、女性にモテない男性を侮蔑的にレッテル張りするために使用される言葉らしい。
「……ずいぶんな言われようだな。
黒雛さんの目から見て、僕がそういう風に映るのか。
仮に真実だとしても、いい気はしない。
それならどうしてそんな男を彼氏にしようなんて思うんだよ」
流石にイラついてしまったのか、少し語調が強くなってしまった。
「勘違いしないで。桐島くんは結論を急ぎすぎる」
サムライ8みたいなこと言いやがって。
読んでないけど。
「今話した事はあくまで統計的な事実であって、桐島くんを侮辱する意図はないのよ。
事実として、今のクラスの女子で桐島くんを「アリ」とみなしている女性は皆無だけれど、それだって必ずしも桐島くんが悪いとは言えないと私は思うの」
あ、実際クラスの女子の中でそういう感じなんだ。
わかってはいたけど辛い。
「これは男性側の問題ではなく、女性側と社会構造に問題があるのよ。
というのも、女性による男性の魅力判定システムが一般的にかなりガバついていて、自分の実力以上に男性に対して厳しい目線を向けてしまっているのよね。
私から見て桐島くんの男性的魅力は「ザ・普通」よ。
偏差値にして49。よくもないけど特別悪くもない。
これはうちの高校の特進コースに入ったという学力を採点対象外とした上での数字。つまり磨き方次第ではある程度戦える素質と言う事よ。
ではなぜ世の女性があなたに対して全く魅力を感じないか。
公平に考えれば同じく普通クラスの女性に対してはチャンスがあってもおかしくないはず。まして、言い方は悪いけど、下層クラスの女性があなたに片思いをして告白するようなイベントだってあっていい。
でも現実にはそうはならない。
なぜなら、女性の脳内システムの仕様上、自分の魅力を過大評価するようにできているから。
あるマッチングアプリの運営会社の発表によると、以下のような傾向が統計的に証明されたらしいわ。
男性が登録された女性を人気のある順に並べた際の上位50%にあたる女性、すなわちちょうど真ん中ほどの人気の女性に対して「平均的」と評価するのに対して。
女性は上位20%、つまり80%の男性に勝利した「人気者」を「平均的」と評価するそうよ。
つまり単純に考えて、上位から数えて50%の女性は自分のことを平均的と考えて、そんな自分と釣り合う平均的な男性を選ぼうと思ったら、自然と上位20%の「人気者」を狙うと言うこと。
それも、高望みをしているとか、自分を過大評価しているとかそういう自己認識を一切持たず、自然にね。
その場合、上位50%の女性は、上位30%の本来は格上であるはずの男性に対して「きもい、いけてない、自分にふさわしくない」と切り捨ててしまう。
そして一部の人気のある男性が二股、三股で女性を独占するという不条理が発生するわ。
昔みたいな狭いムラ社会でお見合いなんかも駆使してマッチングしていれば、それでもそれなりに釣り合った相手同士でカップルが発生したのだろうけれど……。
今どきは広く日本中、いや世界中からパートナーをマッチングできる社会構造だもの。
身の程知らずの女性が身近な、本来は格上の男性と「妥協して」付き合うこともなくなって。
上位20%に入れない男性がパートナーを確保することができなくなっている。
別の統計によれば、7割の女性が、7割の男性をキモいと思っているそうよ。
身の程知らずもここに極まれりというところかしら。
どうも、進化心理学的な観点から女性の脳内システムがそのように設計されているようだけれど、そのあたりの詳細な仕組みは一旦置きましょう。
少し話が広がりすぎてしまったけれど、桐島くん、あなたの身に今起きているのはつまり、そういうことよ。
あなたに対して「きもい」と言っている女性の中には、本来はあなたよりもはるかに格下の女性も多く含まれているはず。
そして、社会構造そのものを変革することができないけれど。
あなた個人に起きている問題を解決する事は十分に可能よ。
今回の私の提案が、まさにズバリそれに当たるわ」
唐突な長台詞に流石に面食らう。
えっと、つまり、なんだって?
なるほど、要するに……なるほどそういうことね(全くわかってない)。
まとめると。
今僕はエゲツないほどモテていなくて、それは僕のせいとばかりも言えなくて、それを解決する手段がある。
それが黒雛と付き合うこと……?
いや、意味がわからん。
「女性の男性に対する魅力判定システムがガバガバなことは今話した通りよ。
これは、自分の過大評価だけではなく、男性を選ぶプロセスも穴だらけなことを意味するわ。
女性は男性の何を見て、魅力的かそうでないかを判定すると思う?
優しさとか、清潔感とか、そんなうわべの回答を真に受けてはダメよ。
あんなもの、嘘っぱちなんだから。言っている本人が嘘をついている自覚がないのがさらにタチが悪いわね。
一般的には、ルックス、体力、スタイル、社交性や頭の良さ、経済力などが指標になってくるわね。
これは、1つの判断基準に基づくわ。
要は、「自分の遺伝子を長く後世につなぐことのできるパートナーかどうか」。
強いオスを選んで、安定した環境を確保して子育てし、生まれた子供の強い生命力を持って生き延びて、かつ異性に魅力的に見られることで自分の遺伝子を後世につなぐ。
これが原始的な本能に基づく、女性による男性の選別プロセスよ。
ここまでは何もおかしな事は無いわね。
弱いオスにとっては悲しい現実だけれど、少なくとも公平ではある。
でも、どんな異性が自分の遺伝子を後世につなげてくれるかなって、ほんとうのところは誰にもわからないじゃない?
ここで人間は、人間に限らずだけれど、信じられないような手抜きをするの。
それは「他のメスが選んでいるオスを魅力的に感じる」と言う選別プロセスよ。
そう。自分で選ぶのが面倒だから、他人の選択に乗っかろうと言う発想ね。
原始生物としてはある意味正しい選択よ。パートナー探しだけが人生ではないもの。
省エネできるところは省エネする生物でなければ、原始時代の生存競争でとっくに淘汰されていることでしょう。
別にこれは机上の空論を述べているわけではないわ。
魚のグッピーっているじゃない?
あれを、1匹のメスと2匹のオスを使った実験があって。
普通に3匹を一緒の水槽に入れると、メスは大きくて形が綺麗で生命力のあるオスと交尾したけれど。
先に選ばれなかった方の弱いオスを、別の水槽で別のメスと交尾させた姿をメス達に見せたところ。
どのメスも弱くて形の悪い、でも他のメスと交尾していたオスと、自分も交尾したそうよ。
どんな生物にもある本能ね。
モテる者は、「モテるから」という理由で、さらにモテる。
お金と同じかしら。
その結果、強いオスでも、賢いオスでも、豊かなオスでも、美しいオスでもなく。
他のメスが。それも、メス達から見てとびきり上位のメスが選んだオスが、パートナー候補として強烈に躍り出て来ることになるのよ」
「とびきり上位のメスって」
「……自分で言うのもなんだけど。
この私、黒雛アスカが選んだオスというだけで、女子達の桐島くんを見る目は変わるでしょうね。
といっても、交際していることは少しずつ、徐々に開示する予定だし、付き合ってすぐに浮気されてしまうのは困るけど。施したいレッスンもあるしね。
そうね……1、2年経って、色々落ち着いてから徐々に別の女性に移行してもらうのがベストかしら。その時の私の状況にもよるから、それは都度相談ね。
高校時代に彼女が2人いた、となれば大学に行ってからも箔がつくわ。
もちろん「モテる組」に入るわけではないけど、大多数を占める「モテない組」を脱して、「普通組」にエントリー出来る。
高校時代の経験を活かして上手く立ち回れば、大学時代でも彼女の2人くらいは作れるでしょう。
それだけ経験を積めば、就職活動でも極端な社会不適合感を出さずに済む可能性が高いわ。
一定以上の学歴を確保して、一部上場企業の正社員の座をゲットして、学生時代に見つけた顔偏差値55位の女性と結婚して。
20代の内に子供を2人作って。35年ローンでマイホームを手に入れる。
平凡だけどささやかに幸せな人生?
いいえ、とんでもない。
このご時世、まして今の桐島くんの状況を鑑みれば、SSS級難度。
まるで奇跡のような、選ばれし者にしか謳歌できない超一級のハッピネス。
この私とお付き合いするだけで、そんな天国への片道切符が手に入るのよ?
決して、悪い話ではないと思わない?」
……。
催眠術でもかけられているような気分だ。
その艶のある美声に断続的に鼓膜を揺らされるだけで、冷静な判断力が奪われそうになる。
脳がファーっとなる。
頭の回転が付いていかない。
ただ一つ言えることは。
この女。黒雛アスカ。
こいつは普通じゃない。
表向きは、完璧にして究極にして至高のお嬢様。
しかしてその本性は。とんだ危険人物だ。
学校では猫を被っていたのか。
こんな異常な女と付き合ったら、どんな目に遭うかわかったもんじゃない。
しかし。
しかし、彼女の述べるストーリー。
メリット。デメリット。
リスク。コスト。リターン。
僕の人生の、未来予想図。
落ち着け。落ち着くんだ。
何も裏は取れていない。こいつが勝手に言ってるだけだ。
口車に乗せられるな。
きっと黒雛の人生経験やコミュ力から言って、僕みたいな陰キャ野郎を手玉に取るのは朝飯前だろう。
きっと情報の全ては開示していない。
僕の思考は誘導されている。
都合よく操られているだろうし、僕にそれに対抗する手段はない。
「ねえ、どうかしら桐島くん。
もしお付き合いしてくれるなら、それ相応の対応はするつもりよ?
こうして手を繋いでデートもしてあげるし、条件付きでハグも許す予定もあるわ。流石に、キスやそれ以上は許さないけど。
デート代で負担をかける気もないし、イルカの絵や壺を売りつけたり、宗教に勧誘することもしないと誓うわ。
他にいい関係の女性がいるならばともかく、貴方に取って失うもののない話だと思うけど」
そう言って黒雛は再度僕の手を握ってくる。
ああ!いかん!これがいかん!
脳から何か出るのを感じる。
抵抗する気力が根こそぎ溶けてしまいそうだ。
僕は。
僕の選択は。
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