第43話 ゲームの世界(最終話)
元の世界へ戻って、既に1か月が経った。オレは、現実世界でいつも通りの生活を続けていた。サラリーマンとして仕事をする毎日に戻った。
「おい、田中! 会議を始めるから準備しといてくれ」
「あっ、はい。分かりました」
課長に言われて、進めていた仕事を中断し、会議の準備を始める。資料のコピーを取って、会議室を予約してから、会議参加者にメールで準備を伝えて、課長に報告。
「課長、会議の準備が完了しました」
「あ、ごめんごめん。会議リスケになったから、片付けておいて」
「ッ……はい」
そんな風に、振り回されるのはしょっちゅうだった。
「あぁ、それと田中。前に頼んでいた仕事は、必要なくなったから。次はこれを頼むな。なるべく早く処理してくれよ」
「……わかりました」
かなりな分量の資料整理を任されていたのに、課長の一言で必要なくなる。無駄な仕事をさせられて、一気に疲労が溜まっていた。だけど仕事なんて、こんなものだと受け入れるしかない。給料を貰うために我慢の連続。
面倒で無駄になるような仕事でも、依頼を出されたらなら働かなければならない。それはちょっと勘弁してほしいなぁ、と思ったりしながらも溜まった仕事を処理していく。そんな毎日だった。
疲れても通勤する朝、仕事をしている間や就寝する前にも、異世界のことについてよく思い出す。あの頃は、ただひたすらに帰りたいと思っていた現実世界だったが、思いの外、自分の思っていたような世界じゃなかったと思い知らされた。
(本当は、こんな世界に戻りたいんじゃなかった……)
普通の生活が、こんなにも退屈で辛く、辞めたいと思う連続の日々。これならば、向こうの異世界で生活したほうがドキドキしたし、こちらの世界よりも毎日が楽しく過ごせていたように思う。
何故、オレはあの頃、あんなにも帰りたいと思っていたのか。あの世界で、自分の居るべき場所はここではない、と感じていたのか。今は、こちらの世界でそう思ってしまう。ないものねだり、なのか
さらに1か月、仕事だけの日々が過ぎて思い知った。オレは、この世界で居るべきじゃないと。
「戻りたい……」
ベッドの上、早く眠らないと明日の仕事に差し支える。しかし眠気はない。自然に口から出た言葉は、オレの思った通りの事だった。あの世界に戻りたい。今は、そう思ってしまっていた。
ヘッドマウントディスプレイを頭に装着する。専用のベッドに横たわって、ゲームを始める。こちらの世界に戻ってきて初めて、『Make World Online』を起動した。
真実を知るのが怖かったから。『Make World Online』を起動して、普通にゲームがスタートしたのを目の当たりにしたなら、あの記憶は夢だとハッキリしてしまう。それが怖かった。起動しなかったら、夢か現実か分からない。
けれど今日、これから判明する。あの世界は本当にあったのか。
これで、戻れるとは思わなかったが、最初の時と同じように、同じような体勢で、同じソフトを起動すれば、もしかしたら何か起こるんじゃないかと予感がした。
もう、この世界で仕事するだけの生活に耐えられなくなっていた。あっちの世界に戻れたなら、どんなにいいだろうか。
身体の感覚が薄ぼんやりとなっていく。眠りに落ちる、寸前の状態のようだった。
(これは……)
オレは興奮していた。前回は、ごく僅かな当選者のみが体験できる新作ゲームをプレイできると興奮していた。だが今は、元の世界に戻れるかもしれないという期待で、オレの胸はドキドキバクバクと興奮した状態になっている。
(戻れっ!)
手元のスイッチを押して、ゲームを始めた。
***
目を覚ますと、ベッドで横になっていた。起き上がって周りを確認する。
木で出来た建物の中だった。最初、目を覚ました所で間違いなかった。
「戻ってきた……?」
ベッドから降りて、自分の体を確認する。キャラクターメイクで作製したキャラ。体の感覚を取り戻していた。
「ステータス・オープン!」
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ユウ
Lv.100
STR:10,981
CON:12,315
POW:17,102
DEX:12,223
APP:46
職業:勇者
EXP:542,320
SKILL:1,292
【両手剣術Lv.22】【片手剣術Lv.56】
【全力斬り Lv.58】【火炎斬りLv.22】
【プラスダメージ5】【プラスダメージ10】【プラスダメージ20】
【気配察知】【以心伝心】【調査】【言語力】【直感】【威圧】【間合い】
【速射】【フェイント】【回避】【身体強化】【防御態勢】
【弓術Lv.12】
【配膳 Lv.65】【下ごしらえLv.51】【手料理Lv.38】【調理Lv.49】
【診察Lv.61】【視診Lv.55】【聴診Lv.40】【触診Lv.18】【打診Lv.11】
【スラッシュLv.23】
【クロススラッシュLv.20】
【トリプルスラッシュLv.18】
【ドラゴンスラッシュLv.15】
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目の前に表示させたステータスを確認する。間違いなく、オレのキャラクターだ。ステータスのチェックが終わって、小屋から出る。
「あ」
「お? 君、久しぶりじゃないか」
この世界に来た最初の日の時と同じように、小屋から出てきたところで恰幅のよいおじさんに話しかけられた。彼は、久しぶりとオレに挨拶してくれた。
「久しぶりです、おじさん」
「しばらく見なかったが、いつの間に村に帰って来ていたんだい?」
おじさんは以前会ったことがあり、オレの顔を覚えてくれていたようだ。それで、この世界はオレが求めていた世界だったと確信した。
「また、ここで生活するのかい?」
「いいえ、すぐに旅立ちます」
(戻ってきたんだッ!)
オレはすぐさま最初の村から旅立ち、王都を目指して歩き出した。
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