第42話 突然の帰還
ゲームクリア、おめでとう!
エンディング17 【勇者の帰還】
***
「あ……」
目を覚ます。正面には、真っ暗な空間が広がっていた。
(いや、違う?)
頭に何か、装着していたから真っ暗に見えているだけだった。装着していたそれを、ゆっくりと外してから周りを見る。
「ここは……、オレの部屋だ」
オレが、頭から外したのはヘッドマンマウントディスプレイで、今いる場所はオレが生活していた部屋の中だった。
久しぶりに目にした薄暗い部屋の中、ずっと帰りたいと思っていた場所。ようやく帰ってこれた。しかし、オレの心はざわついていた。
ゲームをプレイするためのベッドの上で、寝転んだ状態で部屋の中を見回す。視界にはテレビ、ベッド、デスクトップPC、洗濯物のハンガー、読もうと思って買った本が積んだ状態になっているなど、ゲームを始めた時と同じような状況だった。
テレビを点けて、チャンネルを変える。テレビの画面に日付が映っていた。オレの記憶が正しければ、ゲームを始めた頃の日付と変わっていない。ずっとオレの記憶に残っていた時間、ずっと帰りたいと願っていたから覚えている。
時刻は18時24分。カーテンの空いた窓から見える外は、夕日が沈む前だった。暗くなる前の景色が見えた。
しばらく、オレの目が覚める前、気絶する直前に何があったかを思い出していた。宝石パチラケラを手にして、それが輝きだし、意識が飛んだ。そして目を覚ましたら元の世界だった。
「オレは、自分の世界に帰ってこれた?」
体を観察する。数ヶ月前の、オレの体だ。ゲームの世界で動いていた体とは違う、自分の体だ。間違いない。
オレは、ざわついていた心を落ち着かせるためにベッドの上から降りると、部屋にある冷蔵庫を開けて、中からビールを取り出した。
プルトップを開けて、一気に飲む。苦い味が口の中に広がった。
さっきまで頭に装着していたヘッドマウントディスプレイを手にとって、改めて、調べてみた。調べると言っても、目で見て確認するだけだったが。
「これで、ゲームをしたから異世界に……?」
装着部分やディスプレイの部分を、じっくりと注意深く見てみたけれど、おかしな箇所は無いと思う。
原因となるようなものは見当たらず、ヘッドマウントディスプレイを調べることをやめて、今度はパソコンで色々と調べてみることに。
『Make World Online』というゲームについてネット上の評価を見る。オレと同じように、おかしな出来事に巻き込まれた人物は居ないだろうか。探してみる。
Wikiページで作られた『Make World Online』の攻略サイトにアクセス。
先行体験版のテスター達の情報交換を行っているページを見つけたので、書き込みを読んでみた。そこには、最初のボスの攻略をどうするのか、スタートはどの武器が有利か、新しい職業の取得方法や金稼ぎ方法などの情報がやりとりされていた。
どうやら、オレとは違って別の人たちは問題なく普通に『Make World Online』をプレイ出来ているようだった。
異世界に転移しましたという報告は当然、上がっていなかった。
某掲示板に行ってみたが、こちらには真偽の程がはっきりしない、ゲームに関する書き込みと、先行体験版を手に入れられなかった人たちの愚痴の書き込みがあるだけで、オレが求めている情報は見当たらなかった。
「あれは、夢、なのか……?」
なぜそんな事になったのか、理由は分からない。『Make World Online』をプレイしようとしたら突然、ゲーム世界のような異なる世界に転移させられたと思ったら、急に帰ってくることが出来た。
最初の街で給士の仕事をした日々や、王国へと行ったこと。姫様の事、ドラゴンと死闘を繰り広げ、魔王と戦ったことも全て、夢だったと言うのだろうか。
実は眠っていただけで、オレは夢を見ていたんだ。その方が納得できる。
しかし、実際に体験したオレにとっては全てリアルで、夢なんかでは絶対にないと確信している。じゃあ、あの状況をどう説明するのか。
異世界で生活を送っていたオレは、何ヶ月もの期間を過ごしてきたと思っていた。だが、こちらの世界では1日も経っていなかった。
頭は混乱したままシャワーを浴びて、その日は眠ることにした。色々と疲れたから早く休みたかった。
***
「昨日と変わりなく、……か」
目覚ましの音が鳴って、オレはベッドから起き上がった。目覚ましを止めてから、周りを見回してみるが、眠る前と同じくオレの部屋の中だった。
昨日。シャワーを浴びた後、そのままぐっすりと眠ってみたが、起きるとそのままオレの部屋の中。オレは、パチラケラの光を浴びた時に倒れてから、無事に現世へと帰還した、という夢を見ていただけなんだと自分に言い聞かせる。
(いや、元の世界に帰ってこれたんだから、これで良いんだよ……)
突然の事に、びっくりする気持ちはあるけれども、目的だった元の世界へ無事帰還できたから、良かったと思うことにする。
スーツに着替えて仕事へ行くことにした。会社に行ってサラリーマンとして働く、それがオレの日常だった。
カッターシャツをハンガーから取り、ヨレヨレのスーツを着る。首にはネクタイを巻いて着替えを完了。
社員証や、仕事の残りの資料、会社に持っていく書類など忘れないように。
通勤中の暇つぶしに読む本をかばんの中に放り込み、オレは家を出た。久しぶりな感覚があるのに、体が自然と動いて仕事に行く準備もバッチリだった。
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