第41話 帰還の手がかり
姫様の経過観察は順調に、そして問題なく進む。もう大丈夫だろうなという確認も取れた。その事を女王に報告すると、彼女は安心して王国の政務に戻っていった。
勇者の子孫とのいざこざなどの問題はあったが気にせずに、日常を過ごす。オレは勇者ハヤセ・ナオトの帰還について、まだ調べ続けていた。
城の図書室には、数万冊もの本と資料が保管されている。その中から、勇者に関係する書籍だけ選別しても、数千冊以上はあると聞いている。
さらにその中から帰還に関する資料に絞って調べていたオレは、3週間で300冊ほどの本と資料を調べ終わっていた。
だが、目的としている帰還の方法について書かれた本は見当たらなかった。勇者の帰還に関する情報の記述は見つかるのだが、どうやって帰ってていったのか、求める手がかりは全く見つからない。
本棚から、本を取り出しテーブルまで持ってきて座り、読む。そして、目的としている情報が書かれていないかを調べていって、見当たらなかった場合は、手元にあるメモにチェックを残してから本棚に戻す。
そんな事を繰り返して、情報を調べ続けていた。じっくり時間をかけて探したが、目立った成果を手に入れられていないオレは、流石に半分ぐらい気持ちは諦めかけていた。
読み疲れて、調査で溜まった疲労で意識がぼんやりしている。パラパラと本を眺めながらボーっとしていた時に、その記述を見つけた。
“魔王を封印した勇者は、パチラケラというアイテムを使って自分の国へと帰っていった“
「え?」
ボーっとしていた頭が、一気に覚醒する。オレは、その一文を改めて読み返した。
“パチラケラ“というものが何か分からなかったが、勇者が自分の国へ帰っていった時にアイテムを使用した、という記述を初めて見た。
改めて、読んでいた本を確認しなおす。
背表紙に書かれているタイトルは「勇者ハヤセ・ナオトの一生」と書かれた本で、冒頭は勇者がこの世界に現れた所から始まって、帰還までを事細かに記してあった。500ページぐらいある厚さの本で、後半の部分に書かれた文章をよく読み込むと、パチラケラというアイテムの正体がわかった。
パチラケラは、宝石のような紫色に輝く小さな石の名称らしい。
「やっと見つけた……」
無意識に、そんな言葉を口に出していた。これが本当かどうか分からない。そしてオレが元の世界に戻るための方法だとも限らない。ただ、初めて手に入れた手がかりだった。
今まで調べてきたことは、決して無駄ではなかった。その記述を発見したことで、元の世界に帰るための第一歩を進んだような気がした。
本を更に読み進めると、そのパチラケラというアイテムは現存していて、子孫に代々受け継がれていると書かれている。
本の書かれた時代がいつなのか、分からない。だが、これが本当なのだとしたら、今も勇者の子孫に受け継がれている、かもしれない。
オレは、そういえばと思い出す事があった。たしか最近、襲撃してくる勇者の子孫を名乗っている彼、シビル・キャクストン・ナオトが身につけていた首飾りの先に、紫色の宝石が付いていたことを。
「いや、まさかな」
調べ物をしていた図書館から出てきて、シビルを探すことにした。普段は、向こうから現れるというのに、こんな時に限って勇者の子孫シビルは見つからなかった。
城のあちこちを探しみないが居ない。城で働いている使用人に行方を聞いてみると、しばらく見ていないという答えが返ってきた。
城の中には居ないのか。ということで城下町まで出てきて探し、近くの森に仕事に行っているという情報をギルドで聞いた。オレも、勇者が居ると思われる近くの森へ向かった。
「くそっ、一体どこに行ったんだ」
パチラケラというアイテムについて聞きたいのに、情報を握っているかもしれない奴の姿が見当たらない。
オレは必死になって、シビルを探す。頑張って探した甲斐があってか、シビルの姿を見つけた。遠くからでも、ひと目で分かる格好をしている。あの赤い鎧だ。
「おい、シビル。こんな所に居たのか。探したぞ」
「なんだ、君か……。俺に何の用だい?」
シビルは、オレの呼びかけに面倒だという様子で返事をしながら振り返り、オレを見てくる。
その胸元に、首飾りをしているのを見つけた。首飾りの先には、紫の宝石のようなものを付けている。あれがパチラケラ、なのだろうか。
「少し聞きたいことがあるんだが……」
「なんだい?」
不遜な態度だが、質問には答えてくれるようだ。
「パチラケラって知っているか?」
すると、驚いた顔になるシビル。
「君、これを知っているのか?」
胸元の首飾りを手にして、シビルが話す。やはり、間違いない。あれがパチラケラだろう。まさか、こんなにあっさりと見つけられるとは。
「その首飾り、少し貸してくれないか?」
ダメ元で聞いてみると、シビルは少し悩んだような顔をした。やはりダメだろうかと諦めかけた、その時。
「この首飾りの名前を知っていたのは、君が初めてだよ。どこで知ったんだ?」
そう言いながら、首飾りを外してオレに差し出してくる。
「借りてもいいのか?」
オレが聞くと、彼は頷いて答えた。
「大事なものだから、壊すなよ」
意外にも、見せてくれるようだった。彼の気が変わらないうちに、調べてしまおうと思い、シビルからパチラケラを丁寧に受け取る。
そしてオレは、彼から借りた首飾りの観察を始めた。
その石は綺麗だった。勇者が使ったアイテムということは、400年以上も経っているはずだから、ソレだけの歴史があるはず。だが、そんな古いモノには見えない。しっかりと管理されてきたのだろう。
宝石は綺麗な紫色で小さく、そして輝いているように見える。見た目には、凹凸が全くない球体だ。
「ん?」
「おい!」
壊さないように気をつけながら調べていると、突然、石の輝きが増してきた。その輝きは、時間とともに段々大きくなっていく。
「君、一体何をした?」
慌てた声でシビルが聞いてくる。しかし、オレの手元で紫の石が輝きだした原因に、心当たりは全くない。
「いや、分からない! 見ていたら、いきなり輝きだしたんだ」
輝きはさらに増して、眩しくて目が開けてられないくらいになった。そして、突然フッと意識が遠のいた。
オレは、気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます