第32話 逃げ込んだ先

 ドラゴンと戦闘を行った場所から逃げてきて、数時間も歩き続けた。その途中に、パトリシアとマリアは気絶から覚醒した。そして、ドラゴンとの戦闘がどうなったのかを聞かれたので説明しながら暗闇の草原を歩いた。


 4匹のドラゴンから逃げ切れなかったこと、その後オレが覚悟を決めてドラゴンと対峙したこと、何とか撃退に成功して、今は戦闘を行った場所から離れるために歩いている、ということ。




 ドラゴンの襲撃で、食料や防寒着を全て置いてきてしまったため、持ち物がない。手元にあるのは、装備品の剣だけだった。


 特に、食料がないというのが問題だった。見渡す限り草原しかなかった、バーゼルという土地。今は、辺りも暗くて見えていないだけか。何かしら食べられる実のなる木があれば、食いつなぐことが出来るかもしれないが、どうだろうか。


 目的だった、べべ草も見つかっていない。しかし今の状態では、ベベ草を探す事は出来ないだろう。とにかく無事に王都へ戻って、装備と旅の道具を整えてから出直すしかないか。


(こんな状態で、山を超えて帰れるのか……。旧魔王城を通るしか)


 アギー山脈を通って王都に戻るとなると、3日以上の日数が必要だった。しかし、旧魔王城を通れば1日で王都へと戻れるだろう。


 その場所は、立入禁止とされているが今のままでは食糧不足で、餓死してしまう。

仕方なくオレたちは、目標を旧魔王城に向けて歩みを進めた。危険かもしれないが、旧魔王城を通って王都に帰還するという予定のルートに変更した。



***



「あれが……!」


 ルートを変更して1時間ほどを歩いてきた場所には、禍々しさを感じる廃墟の城があった。あれが旧魔王城。


「アギー山脈で上から見下ろした時に比べて、こんなに間近で見てみると、恐ろしさを感じますね」


 マリアが、旧魔王城を見上げながら感想を述べる。マリアの意見に、その通りだなと同意する。全体が黒の外壁に、緑色が無くて、禍々しいオーラが漂っているように感じる。何百年も前に封印されて、ずっと放置されていたはずなのに、今も何かあるような気配を感じさせる。


「ユウ!」


 パトリシアの声に、城を観察していたオレは何事かと振り向く。彼女が、空を指さしていたので、その先を見てみた。


 日が昇り始めて明るくなってきた空。そんな空の遠くの方から、ドラゴンの群れが何十匹も飛来してくるのがオレの視界に入る。


(っ!? やばい、どうする?)


 再び戦闘になるのはマズイ。しかも、先ほどの何倍もの数のドラゴンが飛んできている。女性たち3人を後ろに守りながら、しかもあんな大群の奴らの対処をするのは不可能だ。


「魔王城の中に逃げ込もう!」


 言って、走りだす。魔王城には入るつもりはなく、側を通り抜けて王都に帰還する予定だったが、ドラゴンの群れから戦闘を避けるために廃墟となった城の中に、オレたちは逃げ隠れる。


 それ以外に、いい方法は考えつかなかったから。


 マリアたちは、オレの指示を聞いて一緒に走り出した。ドラゴンの群れが来る前に、城の中へ。


「こっちだ!」


 オレたち4人は必死で走り、旧魔王城と呼ばれる城門の前に到着する。


「うぉぉぉっ!」


 オレは、自分の背丈よりも大きな門を力いっぱいに押し込み、開いた。そうして、少し空いた門の間から飛び込むように中へ駆け込んだ。


 魔王城の中に逃げ隠れることに成功した。走り疲れたが、何とか逃げ切れた。3人は地面に倒れ込み、肩いっぱいで呼吸を整えている。


「ふぅ……。少し、ここで休憩しよう」


「はぁ、う、うん」

「ふぅ、ふぅ、そうし、よう」

「や、やすむ……」


 オレの言葉に3人が倒れながら頷いて了解した。ずっと逃げ続けてきたから。城の中なら、隠れて休める。


 オレは逃げ込んだ城の中を、自分の目で見て確認する。この城の持ち主である魔王は、勇者ハヤセ・ナオトによってこの地に封印された。魔王によって指揮されていた魔物たちも、今は居ない。


 この城の中には、既に誰も居ないだろう。けれど、警戒は必要だと思った。何か、よくないものの気配をオレはずっと感じていたから。それに、先ほどから嫌な予感がする。この感覚は、一体なんだろうか。


 城の中は窓があるのに薄暗くて、古ぼけている。しかし、埃っぽくはなく、意外に綺麗だった。


 階段を登り、窓から外を眺める。


(……まだ、空の上から見ているようだな)


 ドラゴンの群れは、旋回しながら城の上空を飛んでいるのが見える。ただ、この城から一定の距離離れて降りてこようとはしない。階段から降りると、3人が休憩していた場所へと戻ってくる。


「まだ、外に出るのは無理そうだ」

「そうか」


 オレは、外の様子を彼女たちに伝えた。回復したパトリシアが、頷いて返事する。マリアとクリスティーナも、回復し終わったようだ。


 さて、どうするかな。4人は動けるようになったが、ドラゴンの大群がオレたちを狙って待っているので、外へ行くことが出来ない。奴らが去るのを待たないと。


「この城の中、捜索してみない?」


 マリアの提案を聞いて、考える。不用意に、旧魔王城の中を歩きまわって危険性はないだろうか。


 無駄に体力を消耗させられないかも考えると、こんな場所を捜索することに意味を感じない。


 しかし、何もしないで待つというのも時間がもったいない。城の中を探してみて、上空を飛んでいるドラゴンの群れに対して、何か有効打を見つけられるかもしれないから。


「わかった。城の中を探ってみよう」


 万が一を信じて、オレは決断する。旧魔王城と呼ばれている城の中を探ってみる事にした。




 4人で一緒に、旧魔王城と呼ばれる廃墟の城の中を、歩きまわってみた。


 まず、1階にある部屋から。大広間などを見て回った。400年もの年月が経っているはずだが、どうも綺麗すぎるような感じがする。しかし、なぜ綺麗なのかという理由は思いつかない。普通は、こんな場所ならホコリが山のように積もっているものだろうが、見当たらない。部屋の中も埃っぽくない。


 オレたちは、1階部屋の捜索を終えると、次は2階へと上がった。


 そこには宝物庫があった。宝物庫の部屋の大きさは小さかったが、中には、金貨や宝石などが床に散らばっていて、片付けられていなかった。


「何か、ないかな?」


 4人で、宝物庫の中に使えそうな武器が残っていないかを探す。ドラゴンの大群に対抗できる手段がないか。


「ユウ! 来てくれ」

「どうした?」


 武器を探している最中、パトリシアに呼ばれたので、急いで側に近寄ると、彼女は何やら手に持っていた。


「もしかして、これってベベ草じゃないか?」

「なんだって!?」


 パトリシアの差し出す箱の中を見てみる。特徴的な紫の花に、ギザギザの葉っぱ。確かに、ベベ草だった。


「パトリシア、これだよ! これで、姫様を助けられる」


 まさか、こんな場所で手に入るとは思わなかった。しかも、その箱には魔法による特別な細工がされていて、新鮮なままで保管されている。


 この地に来た目的であった新鮮なベベ草が、偶然にも手に入った。残った問題は、頭上を飛ぶドラゴンの群れをどう対処するのか、だけだった。


 その後、引き続き宝物庫の中を調べてみたが、ドラゴンの群れに対抗できるような武器などは見当たらなかったので、その部屋を後にした。


 さらに城の上へ。3階にはボロボロになった王座がある部屋や、4階の部屋を見て寝室らしい部屋を見て回ったが、特に何も発見することはできなかった。


 結局、1階の城門前に戻ってきたオレたちは、ドラゴンの群れが去るまで城の中でじっと待機することにした。

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