第31話 対ドラゴン戦
オレはパトリシアを、クリスティーナはマリアを背負って、暗闇の草原を走った。
ドラゴン4匹の群れに遭遇して、1匹は弓で目にダメージを与えて、もう一匹には口元に傷を負わせたが、パトリシアとマリアの2人が反撃を食らってしまい気絶している状態だった。
ドラゴンを撃退するのは、絶対に無理だと感じたオレは、撤退を選択。パトリシアを背負って、逃走してきたのだった。
走りながらも、後ろにクリスティーナがついて来ていることを確認する。スキルの威圧を使って、頭上を飛ぶドラゴンを牽制しながら走っていた。空を飛んでいる4匹のドラゴンたちは一定の距離を保ちながら追いかけてきていて、オレたちを空中から狙っているようだった。
辺りは暗いが、隠れる場所がない。
「クリスティーナ、早く!」
「っ、う、ん……」
オレの言葉にクリスティーナは頷くが、人1人を背負ったまま走り続けたために、肩で息をするほど疲労が溜まっているのが見て分かる。限界のようだった。
(どうする……?)
このまま走り逃げ続けても、頭上を飛ぶドラゴンたちが見逃してくれそうにない。考えるが対処法は思いつかない。
「キャッ!」
その時、オレの後ろを走っていたクリスティーナがつまずき、背負っていたマリアごと地面の上に倒れて、転がる。
「クリスティーナ!」
疲労のため、足がもつれたのだろうか。クリスティーナは、急いで立ち上がろうとしているが、息が荒く、立ち上がれなかった。
彼女は、これ以上走るのは無理そうだった。背負っていたマリアが、そばに彼女の側に気絶したまま横たわっている。
オレは、もう逃げることは無理だと感じた。残る方法は1つだけ。ドラゴンを撃退することのみ。
オレは、背負っていたパトリシアを優しく地面の上に寝かせてから、覚悟を決めて立ち向かう。頭上に飛んでいるドラゴンを、ひと睨みした。4匹のドラゴンたちが、こちらに向かって空中から滑空して降りてくるのが見える。
剣を構えて、4匹のドラゴンと対峙する。その瞬間、頭の中にシステムアナウンスが流れてきた。
(勇者の職業を取得しました)
「勇者? ッ……ええいっ、こんなタイミングで。役に立つのか?」
勇者なんていう仰々しい職業を新たに取得した。勇者って、勇者ハヤセ・ナオトとなにか関係あるのか。でも、今は考えている時間はないか。
文句を言いながらも、一か八かでステータスの職業を勇者に付け替えてドラゴンに立ち向かう。レベル1の職業ならば、レベルを上げながら戦える。レベルが上がればステータスがアップする。戦いながら強くなれる。そこに活路を見出す。
1匹のドラゴンが、口を大きく開いて喉の奥から火を放ってきた。それを、オレは剣で受け止めて火の向きを逸らす。後ろには、クリスティーナ、マリア、パトリシアが居るから避けられない。
熱気が肌に当たって、ヤケドをしたかのように皮膚がヒリヒリとする。
オレは、ドラゴンが息を吐き終わって、火を吹くのをやめた瞬間、ドラゴンの体に向かって走り出した。
近寄り、奴の大きな腹めがけて剣を振るう。すぐに離脱。それから、他のドラゴンにも攻撃して離脱してを繰り返す。3人の女性たちから、ドラゴンの注意を逸らすように、オレに奴らのターゲットを集めようと攻撃を繰り返した。
ドラゴンに攻撃を加えるたびに、レベルが上がっていった。剣を振るう。レベルが上がる。敵を倒していないというのに、オレはなぜか経験値を得ていた。剣を振るうごとに、だんだんとドラゴンに対応できるようになってきた。
さらに剣を振るう。レベルが上がる。剣を繰り返し、50回以上も剣を振るった時には、とうとうドラゴンの皮膚に傷をつけることが出来るようになっていた。
「グルゥァァァァ!」
傷を負ったドラゴンの咆哮が、地面を揺るがす。ビリビリと肌に振動が当たるが、オレは構わずドラゴンに攻撃を加えていく。
「いけるか!」
勝利を確信したオレは、ドラゴンの足元、腹、首、顔の順番に容赦なく攻撃を繰り返した。攻撃を受けすぎて、傷から血を流す1匹のドラゴンが絶叫を上げて、地面に倒れる。
(やっと1匹!)
残り3匹のドラゴンは分が悪いと感じたのか、空へと飛び逃げ出した。空に逃げられたので、オレの攻撃は届かない。さらに、翼を羽ばたかせて上空へと飛んで行く。
(くそっ、何か方法はないか?)
空へ逃げ出した3匹のドラゴン。この後、さらに仲間を呼ばれたら厄介だと思い、とどめを刺す方法を考える。
オレは急いで、スキルメニューを開いて確認した。先ほど取得した勇者の職業を。これで新たなスキルが取得できるようになっていた。スキルメニューの中に有効そうなスキルを探した。
一覧からドラゴンスラッシュというものを発見した。急いで取得する。頭の中に、技の使用方法が浮かび上がる。通用するかどうか分からないが、やってみる。
(丁度いい! 遠距離攻撃も可能だ)
ドラゴンスラッシュは、パワーを剣に貯めて、貯めたパワーを衝撃波として空中に飛ばすことが出来る技だった。これならば、空の上に居るドラゴンに対しても攻撃が届く。
剣を地面に水平に構えた。
「くらえっ!」
剣を上へと、切り上げる。刃から青白い光が放たれると、頭上を飛んで逃げていた1匹のドラゴンの首辺りに命中した。ドラゴンの首と胴体が真っ二つになり、地面にゴロンと落ちてきた。
残り2匹のドラゴンは、さらに飛ぶスピードを上げて、戦闘から逃げ出した。
ドラゴンスラッシュの攻撃範囲外に飛び立った。2匹のドラゴンには、攻撃をするのは無理かと断念する。尻尾を巻いて逃げたのなら、それでいい。
オレも戦いで消耗していた。早くこの場から離れなければ。報復が怖いな。
「ふぅ……。大丈夫だった? クリスティーナ」
クリスティーナのそばに走り寄って、無事を確認する。
「……何とか。とても、凄かった」
オレが戦闘している最中に休憩できたのだろう。先ほどに比べると、大分楽そうになっていた。が、まだ息を切らしている。しかし、無事なようなのでひと安心した。
「すぐに、この場所から離れよう。さっきのドラゴンが、仲間を呼んで戻ってきたら厄介だから」
すぐにこの場から離れたかったオレは、無理をさせてしまうが、クリスティーナにマリアを背負ってもらう。オレは、パトリシアを背負う。
「わかった、まかせて」
ドラゴンたちと戦闘していた場所から一瞬でも早く離れるために、オレたちは気絶した仲間を背負って歩き出した。
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