第28話 薬草をどうするか

「バーゼル、ですか……」


 女王様も、深刻さを理解して表情を暗くさせる。女王様は知っているようだった。バーゼルに行く、という困難さを。


「旧魔王城の先に、そんな場所があるのですか?」


 マリアが疑問を口にした。確かに、旧魔王城の先の土地についてはあまり知られていない情報、らしい。オレは賢者の職業を取得したことにより、その知識を得ることが出来たようだ。


「旧魔王城の向こう側には、魔王の侵略によって滅ぼされた人々の遺跡があります。それが、バーゼルという土地です。昔の文献にもよく出てくる場所ですよ」

「そこに行くのは、困難なんですか?」


 旧魔王城の向こう側、というのが問題だった。


「とても、難しいようですね」

「記録によれば、立ち入るだけでも人に害を与える場所になっているとか。なので、今も誰も状況を知らない……」


 マリアの疑問に、女王様とオレが答える。さらに問題が、もう一つあった。


「しかも、旧魔王城には魔王も封印されているとか」


 旧魔王城には現在、勇者の力で魔王が封印されていると言い伝えられている、封印を刺激しないためにも近づくことは禁忌とされている、というような場所なのだ。


 バーゼルという場所を目指して、回り込んで向かおうとしても旧魔王城の周りは、山岳地帯になっているからルートが困難となる。


 その山岳地帯は、凶暴なモンスターの生息地にもなっているし、遠回りしてそこを超えバーゼルに到達できたとしても、薬草を入手して帰還するに大変な労力が必要となってくる。


「他に、何か治療する方法はないのですか?」


 女王様がオレに、別の解決策について質問してくる。


「先ほども説明した通り、肺の傷を治すのは可能です。症状を完全に治すためには、バーゼルで採取できるベベ草が必要になってきます。治療薬を作るために、ベベ草は新鮮な物が必要なんです。そのべべ草は、バーゼル特有の薬草なので、現地に行って採取するしか方法は無いようですね」

「そうですか……」


 オレは頭の中の知識を何度も繰り返し確認してみるが、それ以外に完治させる方法は無いようだった。女王様は、がっくりと肩を落として項垂れる。原因が判明したというのに、完治させる方法が困難だと分かって、落ち込んでしまったようだ。



 

「大丈夫です。オレが何とかします」

「え?」


 助けると宣言すると、ぽかんと口を開けてオレの顔を見てくる姫様。彼女は説明を聞いている間、ずっと無表情を貫いていた。無表情だったけれども、辛そうだった。だからオレは彼女に、何とかするなんて言ってしまった。


「もしかすると、今のオレが知らない治療方法があるかもしれません。この城の中に医学書など、参考になるような本を置いている場所はありますか?」


 何とかしようと、必死に考える。もしかしたら、本当に今のオレでは思いつかない治療法が発見できていない方法があるかもしれないと、本をチェックしてみることにした。オレは自分の頭にある知識だけではなく、過去の知識を参照しようと思った。


「城の中に、図書室があります。そこに全国の書物が集められているので、なにか、治療の手がかりになる情報があるかもしれません」

「わかりました。オレが入っても?」


「娘のためになら、城のどこに入るのも私が許可します」

「ありがとうございます」


 女王様も、オレが何か手がかりを見つけ出すことを期待するように、図書室の事を教えてくれた。そして、立ち入る許可もくれる。自由に出入りしても良いと。


「早速、調べに行ってきます。マリア、案内を頼めるかな?」

「えぇ、もちろん。すぐに案内します。ついてきてください」


 マリアに、図書館までの道のり案内を頼む。オレは椅子から立ち上がると、姫様に向かってもう一度、宣言した。


「姫様。必ず治します。だから諦めないで、待っていてください」

「分かりました。お願いします。お医者様」


 お医者様と呼ばれてしまうことに、少し残念な気分になった。自分の名前を彼女に呼んでもらうため、遅まきながら自己紹介をする。


 キャラクターの名前、本名に近いものにしておいて良かった。


「遅くなりましたが、オレの名前はユウです」

「私はローレッタと申します、ユウさん。私を助けてください」


「もちろん」


 姫様は、オレの自己紹介に返事してくれた。ローレッタ、すごく響きの良い名前だと感じた。名前も呼ばれて、必ず助けたいという気持ちが膨れ上がる。


「ユウ様、図書室はこちらです」

「あぁ」


 マリアさんが先行して案内してくれる。オレはパトリシアと一緒に、ローレッタの部屋を後にした。



***



「くっ……。駄目だ、見つからないな」


 図書室に到着するなり、数十冊もの医学書を調べてみた。だが、魔法中毒に関する記述は少なくて、少ない記述の中から見つけ出したとしても、治療法について書いてあるのは既に知っている方法、ベベ草によるものだけ。その他に、治療法になりそうな記述は、残念ながら見つからなかった。


「やはりバーゼルに行って、薬草を採取するしか方法はないのかな……」


 一緒に調べているマリアが、ため息をつきながらつぶやく。そうなんだ、危険だが方法はそれしかなさそう。


「ユウ、バーゼルに行こう」


 今まで黙って一緒に居てくれたパトリシアが、やる気を出してバーゼルに行こうと言ってくれる。


「しかし、パトリシア。バーゼルに行くのは、とんでもなく難しいんだぞ。それに、ベベ草が今も生えているかどうかも、分からない……」

「大丈夫だよ」


 自信満々にパトリシアが断言する。なぜ、こんなに自信満々なのかは気になるが、確かにそれしか方法が無いのなら、姫様の治療薬を作るためにベベ草を取りに行くのが一番いい方法なのか。


「姫様のために、バーゼルに行ってくれますか?」


「分かりました、これしか方法がないのなら、オレは行く」

「ユウが行くというのなら、私も行くぞ」


 そこまでオレたちがする義理もないかもしれない。だが、ローレッタに必ず治すと断言したのだ。オレがやらないで、誰がやるというのだろうか。そして、パトリシアも協力してくれるという。


「ユウ様、パトリシア。私も、同行させてください」


 マリアも、一緒についてくると言い出した。


「それは頼もしい。でも、マリア、とんでもなく大変な旅になるかもしれないよ」

「私なら大丈夫です。並大抵な鍛え方をしていないので、困難な旅も問題ないです。どんなことがあっても、ついて行く自信がありますよ」


 確かに、これまで一緒にしてきた旅の途中で見たモンスターとの戦い方。かなりの使い手だと感じていたので、旅の足手まといになることは無いだろう。それに困難な旅になりそうだし、助けはたくさんあった方がいい。


「わかった。マリアも、一緒に旅についてきてくれ」

「はい!」


 その後、図書室から大陸図を取り出してきて、バーゼルまでのルートを計画した後、旅の準備を進めた。その途中、どこかに行っていたクリスティーナもいつの間にか合流して、彼女も一緒にバーゼルへと行くことになった。


「姫様を助けるため、私も行く」


 王都から、次はバーゼルという場所を目的地とする、姫様を助けるための旅。

 オレ、パトリシア、マリア、クリスティーナの四人組パーティーによる新たな旅が始まった。

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