第29話 アギー山脈

「マリア! パトリシア! 中央突破をお願い。クリスティーナは弓で、中央部分に遠距離攻撃を!」

「うん」「わかった」「了解」


 オレの指示した通りに動いてくれる、3人の女性戦士たち。横のクリスティーナと一緒に、弓を駆使してマリアとパトリシアの合間に攻撃を加えていく。


 オレたちは今、足場の悪い山間を進んでバーゼルを目指している途中だった。だが周りをモンスターの大群に囲まれてしまって、逃げ出せず仕方なく対処している。


「そいつを突破したら、そのまま真っすぐ! クリスティーナ、後ろに注意ね!」

「おう!」


 モンスターの数が多く、全てを倒すのは無理だと感じた。だから一点突破を図る。

何とかモンスターの包囲から飛び出して、走る。後ろにも細心の注意を払いながら、4人は走り抜ける。モンスターの集団を後ろに残して。


「走って!」

「遅れるなよ」

「ナイスだ、ユウ!」

「いいから、急いで」


 バーゼルを目指して旅したオレたちは、アギー山脈という場所を歩き進んでいた。アギー山脈とは旧魔王城を遠回りしつつ、バーゼルへ向かうためには一番近い道のりである。しかし、険しい山脈で登るだけでも一苦労だった。


 その道のりは険しく、モンスターの襲撃も頻繁にあって、女性陣たちは日毎に体力を消耗させられていった。しかし、歩みを止めることは出来ない。


 オレたちの現在いる場所は、山の中腹辺り。なので、まだまだ山を超えるのに先があり、立ち止まれば際限なくモンスターが集まってくるだろう。


「がんばれ! もうすぐ、頂上だ。頂上まで行けば、休めるぞ」


 マリア、パトリシア、クリスティーナ3人は頷いて、オレの言葉に応えた。


 大丈夫だ、もうすぐ行けば頂上だぞ。頂上まで行けば、木々に視界が隠されることもなくなって、モンスターの襲撃も視認して察知できるだろう。




「っ! 右前方から、モンスターだ! 戦闘準備! クリスティーナ、弓で先制!」


 木の間から、絶え間なく襲い来るモンスターを倒しながら、あるいは逃走して道の先を進む。



***



 やっとの思いで、俺達4人は頂上付近に到着していた。女性陣3人は息も切れ切れだった。それほどまで、激しいモンスターの襲撃の数々であった。


 山頂部は、雪が積もって残るほど気温が低かった。登ってくる途中は、戦闘で体温も上がっていたが、頂上まで到着すると流石に寒くなってきた。今度は、山の環境が敵になる。オレたちは、寒さに耐えるため荷物から防寒着を取り出した。


「ユウ様は医術の他にも、武術の才能もあったんですね」


 一息入れた所で、マリアが羨望の眼差しでオレを見てくる。王都へ向かう途中は、実力は披露しなかった。今回の旅で初めて、オレの能力を発揮したところをマリアに見せたことになる。


 ただ、オレは自分の実力をあまり誇らしげに見せるつもりはなかった。この力は、ゲームの世界だから手に入れる事ができた力だったので、あまり自分の能力だという感じを持っていなかった。ただ、褒めてくれたお礼は言っておく。


「ありがとう、マリアさん。さぁ、頂上についたし少し休憩をしよう」


 オレは話題を変える。見晴らしの良い場所を見つけたので、そこで休憩をしようと提案する。


「ユウ。あっちが、バーゼルか?」


 パトリシアが指差す方向に、大きな草原が広がっているのが見えた。これから山を降りて行く予定の場所だ。


「あぁ、そうみたいだね」


 地図を取り出し、確認しながら、場所を照らし合わせてみる。パトリシアの指差す方向は、バーゼルで間違いなかった。魔王によって滅ぼされて荒廃した土地だと文献にあったが、400年も過ぎているらしい。それだけ時間が経てば、緑豊かな土地に回復するものなのだと感じさせられた。ただ、注意しなければならない。あそこは、人間にとって害のある場所だと言われているから。


「ユウ様、あっちにあるのは元魔王城ですか?」


 小さな点にしか見えないような、黒く禍々しいオーラを発している建物。マリアの言う通り、あれが元魔王城なのだろう。



「そうみたいですね」

 山の間に、旧魔王城は立っていた。あの道を進めたら、どんなに早く進めたことかと思ったが、魔王が封印されている可能性がある場所だから不用意には近づけない。


 マリアとパトリシアが風景を楽しんでいた頃。クリスティーナは、静かに目を閉じ回復に努めていた。モンスターとの連戦で疲れたのだろう。戦闘で絶えず繰り返した彼女の弓による牽制が、パーティーを救っていた。



「しかし、本当にバーゼルまで行けそうですね。最初は、無理そうだと感じていたんですが、戦闘するごとに身体の力が上昇していくように感じて、遂には山頂まで来ることが出来ましたよ」


 マリアの言葉通り、想像していた以上にアギー山脈のモンスターは手ごわかった。しかし、オレとパーティを組んでいるお陰なのだろう、パーティー仲間であるマリアたちのレベルが密かに、そして異常な速度でアップしていった。それにより、本当に戦闘するごとに身体能力がアップして、ここまで来ることが出来たのだろう。後は、山を降りて、バーゼルでベベ草を見つけるだけだ。


「薬草、見つけることが出来ますかね?」


 マリアが不安そうに呟く。オレが彼女に大丈夫だろうと答える前に、パトリシアが口を開く。


「大丈夫だ。ユウなら見つけることが出来るさ」


 自信満々に言い切る。パトリシアの、旅立つ時から今までずっと、不思議な自信は何なのだろう。


「パトリシア、何でそんなに自信満々なのさ?」

「ユウだから可能なのさ。大丈夫、大丈夫」


 それだけ言って、先に歩き出してしまった。結局、彼女が自信を持つ理由が、よく分からなかった。一体、何を根拠にあそこまで自信満々なのだろうか。まぁでも、今はネガティブよりもポジティブに居てくれることが、仲間の助けとなっていた。


「クリスティーナ、行きましょう」

「わかった」


 先を歩き出したパトリシア、休憩は終わった。目を閉じて、静かに1人休んでいたクリスティーナを、マリアが呼びかける。そのまま、アギー山脈をバーゼルの土地に向かって、山を降りていく。


 下山の時は、モンスターにも対応することが出来て、素早く下りることが出来た。そして、俺達はバーゼルと呼ばれる土地に無事到着していた。

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