第27話 病気の原因

 マリアに案内されて、姫様が待っている部屋に通されるオレたち。部屋の前に到着すると、先頭に居るマリアがコンコンとドアをノックして、部屋の中にいるのだろう姫様に対して来客を知らせる。


「姫様、マリアです。お医者様を連れてまいりました」


 マリアは、自分の名前を扉の向こうに告げる。自分の名前を伝えるということは、姫様もマリアの事を知っているということかな。王国の兵士であると聞いていたが、もしかすると彼女は、オレが想像していた以上に地位の高い人間なのかもしれない。


「入ってください」


 姫様のものだと思われる、か細い声が扉の向こう側から聞こえてきた。その返事を聞いて、マリアは扉を開きオレたちを部屋の中へと招き入れる。


「どうぞ、中に入ってください」


 室内は、太陽光でいっぱいに照らされていて眩しいぐらいに明るかった。その光の向こうに一人の少女が見える。


 下半身だけ掛け布団の中にして、ベッドの上で座っていた。上半身を起こして体をオレたちの方に向けて、こちらをジッと見ている。先ほど会った女王様と同じような金髪だったが、彼女の髪の長さは短かった。肩に掛かるくらいの長さだ。それから、意志の強そうな大きな目。


「……!?」


 オレは彼女と目を合わせた瞬間、自分でも信じられないぐらい、ドキドキと心拍が上がり心臓が鳴り出していた。


 このゲームに似た世界へやってきてから、初めてこんなにも脈拍が上がったんじゃないだろうかというぐらい、胸がドキドキして痛くなった。


 これは、一目惚れというヤツだろうか。


 今まで、この世界はゲームの中なんだと自分に言い聞かせるように生活してきた。

そうやって現実味を感じないように、女性たちをリアルに感じないようにしてきて、一緒に過ごした女性たちに惹かれるのを避けてきた。


 オレは、いつか元の世界に帰るんだと信じていたから。


 だが、目の前に現れた姫様の存在によってオレの考えは一蹴されていた。彼女の姿を見た瞬間に引き込まれるような感覚に陥り、今まで過ごしてきた違う世界に対し、一気に現実味を感じるようになっていた。


 今まで、ゲームの世界、リアルじゃない世界、違う世界だと感じていた、この世界が、彼女を見た瞬間、オレは現実にこの世界にいるんだという認識をさせられた。


 それほどに衝撃的な出会いであった。


「……様、ユウ様」


 マリアの声が聞こえて、ハッと気がつく。今までずっと、呼びかけられていたのに聞き逃していたようだ。


「あ、あぁ。うん、何だい? マリア」

「ユウ様、早速で申し訳ないのですが、姫様を診ていただけますか?」


 姫様から視線を外して、マリアの方に向く。そうだった。彼女を診察することが、この部屋へ来た目的だった。


「あぁ、分かった。診てみよう」


 オレは、姫様のベッドの近くに置いてあった椅子を引き寄せてきて、彼女の目の前に座る。彼女の顔を見る度に、オレは自分の顔がほてるような感覚になった。


 恥ずかしくて顔を背けたい気分になるが、何とか耐えて彼女を正視する。


「よろしくお願いします」


 姫様が頭を下げて、お願いしてくる。これじゃあ、ダメだ。自分に対し、集中しろと言い聞かせて、診察し始める。


 診察の手順については、頭のなかに自然と思い浮かんだ。まずは見た目から原因を探ってみる。


 顔色、首、体から腕の先までを診てみたが、顔色が悪くて、具合が悪そうだった。それ以外には特に、目を引くような点は見つからなかった。外から見た感じ、問題は見当たらない。ただ診察を進めるごとに、頭の中でシステムアナウンスが流れてきて医師のレベルがどんどん上がっているのが分かった。何かの影響で、オレは経験値を得ることが出来ている。


 しばらく姫様の診察を続けたが、健康に問題がありそうなのが分かったぐらいで、原因となるような問題は発見できなかった。見た目だけでは原因を探りきれないか。それとも、やはりステータスの職業だけでは対処できないのだろうか。実際の医師でなければ彼女を助けられないのか。


 諦めたくはない。


「どうだ?」

「見ただけでは、なんとも言えないです。他の医師が残した資料とかありますか?」


「それなら、こちらに」


 マリアは、オレが求めているものを予想していたのだろうか、お願いするとすぐに紙の束を渡してくれた。


 渡された資料の紙をパラパラとめくって、内容に目を通す。その資料には、1年前から起こったという、姫様の症状についての記録から始まり、それから次々に起こる失神、発熱、咳などの症状について記されていた。全て、原因不明だという。


 記録を見ていると、いくつかの原因の候補がオレの頭の中に浮かび上がってきた。1年という長い期間に渡って、彼女を苦しめてきた病気の原因。


 診察、視診のスキルレベルがいつの間にか50を超えていた。その頃には、オレは彼女の病気の原因がハッキリと特定できていた。これが原因だろうなと、確信を持つが、しかし……。


「彼女の病状が、分かりました」

「本当に?」


 オレが原因が分かったと言うが、目の前の姫様は、あまり信用してない様子で聞き返してくる。今までにも数々の医師に診てもらったのに、ずっと原因が分からなったから、オレもあまり期待されていないのかもしれない。


 だが、オレは原因を特定できてしまった。


「あなたの病状の原因は、魔法中毒による肺の損傷です」


 姫様に真正面で顔を向けて、考えられる姫様の病気の原因は魔法中毒によるものだと告げる。


「魔法中毒?」


 いつの間にか、部屋の中にいた女王様がオレの言葉に疑問の声を上げる。診察している最中に来たのだろうか。オレは、女王様の方に顔を向けて説明をした。


「非常にまれな症状のようです。魔法中毒というのは、魔力の高い人間に起こる病気の1つですね」


 医者の職業によって自然と頭の中に浮かんできた知識と、賢者の職業による知識のお陰か、頭に思い浮かんだ魔法中毒についての詳しい解説を彼女たちに伝える。


「魔法というのは、空気中の魔の元、魔素によって引き起こされる現象なのですが、魔力が高い人間は、その魔素の吸収率が高くて、その魔素を肺の中に吸い込むことで、肺が傷ついてしまう可能性があるのです」


「娘は、魔力を多く吸い込んだために肺が傷ついてしまっている、という訳ですね。治す方法は?」

「……この症状を治療するのは簡単です。肺の傷を治す薬も、すぐに処方できます。ただ呼吸をするだけで、すぐにまた肺が傷ついてしまいます」


「そんな……」

「完治させるには、魔素を吸い込んでも大丈夫なぐらい肺を強めるため、ある薬草が必要になります」


 オレは、頭に浮かぶその薬草について伝えるかどうか悩んだ。なぜオレは、それを伝えるのを悩むのかというと、手に入れる方法が非常に難しいようだったから。オレの知識によると、人間では立ち入ることが困難な場所にあるという情報。


「薬草ですか? 一体、どんな薬草が必要となるのですか?」


 言いにくそうにしているオレに、女王様が先を促してくる。入手困難だとはいえ、その情報を隠すわけにもいかないか。


「それは、べべ草と呼ばれている薬草なんですが……」


 賢者の職業が、ベベ草を採取することが出来る場所についての知識を引き出して、オレの頭の中に浮かび上がらせる。


「……そのべべ草を採取することが出来る場所というのが、旧魔王城領域を超えた先にある、バーゼルというところ」

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