第26話 女王様との面会

 勇者の街マーリアンから、王都へ向かう旅はすぐに終わった。


 つまり、オレたちは既に王都へ到着していた。道中では、モンスターに何度か襲撃されたが女兵士2人が簡単に撃退していく。王都という場所で兵士をしているというだけあって、マリアとクリスティーナ2人の戦闘能力は高かった。その他には、特にイベントもなく、3日ほど馬車に乗り続けて王都に到着した。




 到着する直前、オレは馬車の荷台から身を乗り出し、これから向かう王都を外から眺めた。


 今まで、経由して見てきた町や村では比べ物にならないぐらい大きく賑わっている町がある。あれは城下町か。その町の中央には、立派な城が見えていた。


「あれが私達の仕えている王家の城、オウリハンです」


 得意げな顔をして、マリアが城と城下町について紹介してくれた。マリアの解説を聞きながら門をくぐり、町の中へ馬車に乗ったまま入っていく。


 町の中を進んできて、立派な城門前まで来ると止まった。マリアに馬車から下りるようにと指示される。


「クリス、馬車を頼む」

「……わかった、チョット待ってて」


 マリアが、クリスティーナに馬車を任せた。任された彼女は、厩舎に収容してくると言って、オレたちは待っているよう指示される。パトリシア、マリアの2人と一緒にしばらく待っていた。


 城門前は、女性2人の兵士によって守られていた。やはり、城の警備も女性たちがやっているのだろう。ここまで来るのに寄った街や村には、男性の警備兵というのは見かけなかった。待っている間、警備兵の1人に話しかけられた。


「もしかして、医者の方ですか?」

「え?」


「そうなんだよ。この方は、姫様の助けになるかもしれない」


 答えて良いのか迷ってしまい、口を閉じたオレ。マリアが代わりに答えてくれた。その答えを聞いて、警備兵たちが笑顔を浮かべた。


「そうですか! 是非姫様を助けてあげてください」


 女性の兵士たちは、姫様が原因不明の病気に罹っているという事を知っているようだった。お姫様を助けてくれと何度も頭を下げる。


 兵士たちの心配する様子を見ると、この国の姫様がかなり好意的に支持されている人間なのだと分かった。マリアやクリスティーナも慕っていたようだし。


「すまない、待たせた……」

「さぁ行きましょうかユウ様、パトリシア」


 クリスティーナが馬車を収容し終わって、オレたちが待っていた城門前まで走って戻ってきた。そして、マリアに城の中へと案内される。


 城の中は贅沢な作りになっていて、大きな空間が広がっている。中央には、2階へ上がる階段があり、廊下の絨毯もフカフカで豪華さを披露している。階段を上がり、大きな扉を一つ超えると、また、その場で待つように言われる。


「何度もすいません。また、ここで少々お待ちください」


 今度は、マリアもクリスティーナと一緒に連れ立って、どこかへ行ってしまった。座れるような椅子もないので、仕方なく立ったまま待つことに。


 その部屋は大きな窓が一つあって、城下町を眺めることができた。なので、オレはそこから町を見下ろし、景色を眺めて待つことにした。


 しばらく、パトリシアと2人で静かに町のほうを眺めていると、マリアが1人だけ戻ってきた。


「お待たせしました。今から女王様と会っていただきますが、大丈夫でしょうか?」

「いきなり、女王様と面会?」


 思わず、そんな言葉が出る。国のトップが王様じゃなく、女王様だということにもびっくりしたが、いきなり女王様と面会だなんていうのにもびっくりした。


 パトリシアは余裕そうな顔をしているが、オレは心の準備が出来ていない。


「医者を見つけて連れてきたと報告したところ、姫様に会わせる前に一度面会したいと女王様が申されまして……」

「大丈夫か、ユウ?」


 オレの緊張を見て取ったパトリシアが声をかけてくれる。


「そんなに緊張しなくても、女王様は気さくな方なので安心して。大丈夫ですよ」


 マリアは、そんなに緊張しなくても大丈夫だと言ってくれた。

 確かに娘に会わせる前に、母親としては確認しておきたいだろうな。どうしてもと言うマリアに、緊張しながらもオレは女王様と面会することにした。


「分かりました、案内をよろしくお願いします」

「こっちです!」


 待たされていた部屋から出て、さらに上階に誘導され、2枚の扉を越える。特別で豪勢な作りの扉の前で立ち止まり、マリアが言う。


「この先にある部屋で女王のティリー様がお待ちです。さぁ、参りましょう」


 マリアに案内されて、いきなり女王様に会うことになってしまって、オレの緊張は一気に高まる。


 マリアが扉を開いて中へ、俺たちを招く。部屋の奥に見えた人影、王座と思われる椅子に女王様が座っているのが視界に入る。


「ティリー様、例の医者をお連れしました。彼が、その医者です」


 マリアが片手片足を付いて、ひざまずくのでオレも見習って、同じような姿になるようひざまずく。王族との対面マナーなんて、オレは知らない。


「面を上げよ」


 厳かな女性の声が耳に聞こえた。オレは、女王様の言うとおりに顔を上げる。

 目の前に女王様の顔が見える。腰まで伸びている金髪に、気品のある美貌、王女という風格漂う服装。かなりの美人だった。


「そなたが、ユウじゃな」

「はい」


 女王は座っていた立派な椅子から立ち上がり、オレの側に近づいてくる。そして、俺の手を取ると、こう言った。


「娘を頼む」


 女王の様々な気持ちの籠もった一言を聞いて、オレはまだ見ぬ彼女の娘を命がけで助けたいと思った。


「わかりました。オレに出来る限りのことをします」


 女王に約束をする。これで引けなくなったとオレは思ったが、後悔はなかった。

 そんなオレの本気の返事に納得したのか、頷く女王。


「では早速、姫様のいる場所へと案内します」

「頼んだ」


 マリアが、立ち上がって女王様に許可を求めた。女王様との面会が終わってすぐ、姫様の診察に向かう。背中に女王様の視線を感じながらマリアに案内されて、オレとパトリシアは姫様の部屋へと向かった。

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