第25話 王都へ向かう

 オレたちは旅の支度を終えて泊まっていた部屋から出ると、1階の出入口へと4人で向かった。



「あら、今から出かけるのですか?」


 宿の女将がオレたちの気配に気づいて、ナイトガウンを羽織りながらカウンターの向こうから出てきた。


「ちょっと、すぐに出ないといけない用事が出来まして。この宿には、もう戻ってはこない予定なので、料金の精算をお願いします」

「そうなの、残念ね」


 オレは、女将にそう言いながら部屋を引き払う。あと、一泊分の部屋代は支払ってあったけれども、それは彼女にチップ代として受け取ってもらった。


「部屋、貸していただきありがとうございました」

「こちらこそ、ご利用いただきありがとうございました」


 女将は、オレとパトリシアの2人に向けて深く礼をしてから、カウンターの向こうの扉に戻っていった。部屋はしっかりと、チェックアウトを済ませたので、これで、旅立てる状態になった。


「じゃあ、行きましょうか」


 赤髪の女兵士マリアが、皆を率先して先頭を進む。彼女たちがここまで来るのに、馬車を利用して来たらしくて、王都に向かうのにオレたちも馬車に乗せてもらうことになった。今、停めている場所まで案内してくれるそうだ。




 馬車小屋まで来た時、建物の前には立派な馬車が止まっているのが見えた。あれがマリアたちの乗ってきた馬車か。ひと目で分かった。


「馬車の見張り、ありがとうございまいした」

「いやいや、これぐらいの事で礼はいらんわい」


 おじいちゃんが、馬車を見張っていてくれたようだ。持っていた手綱を、マリアに渡した。その時、かなりの料金をおじいちゃんに支払っているのをオレは目撃した。駐車していただけで、それだけ料金がかかるのかとオレは内心驚く。馬車を利用するには、かなりお金がかかるようだった。


「さぁ、ユウ様と、そっちの女性の方、荷台に乗ってくれますか」


 オレ達は荷台に乗り込むようにと指示されて、馬車が引いている荷台の中に身体を押し込められた。荷台の中は、思ったよりも広々していて、快適そうではある。青毛の女性は助手席に乗り込み、荷台の中には入ってこなかった。


「じゃぁ、早速出発しますね。クリス、お願い」

「うぃ……」


 青毛の女性、クリスと呼ばれた彼女が手綱を取って、2頭の馬を操作して、暗闇の中を上手に馬車を発進させる。


 オレは馬車の荷台に乗りながら、マーリアンの街を出立した。




 それから3日ほど馬車に乗ったまま、王都に向かって走り続けることになった。


 もしかすると、お姫様の様態が悪くなるかもしれないので急ぎである。王宮の兵士である赤毛と青毛の女性たちは、そればかり心配していた。病気になり苦しんでいる姫様は、2人からそれほどまでに慕われているらしい。それを聞いて、オレも全力で助けられるように、努力したくなった。


 旅の途中、みんなで改めて自己紹介をした。


 赤毛の女性はマリアという名前で、王都出身の女性だそうだ。

 青毛の女性はクリスティーナといい、彼女も王都出身らしい。


 親の代からずっと、兵士の仕事を務めてきたという。中々、重要な地位にも就いているとか。今は、他国との戦争が無いので戦いはなく訓練ばかり、楽に生活しているという話を聞いた。


 パトリシアも、マリアとクリスティーナに対して自己紹介する。だがオレも初めて聞いた情報、なんと彼女も王都出身の人間だったらしい。若いうちに冒険者になり、各地を回っていたので、王都にはあまり居なかったらしいが。それから最近までは、ギルドの試験官もやっていたと語る。で、その後はオレの旅に一緒についてきた。


 馬車の荷台には十分な広さがあって、いい感じで快適に過ごせていた。だが、乗り心地はあまり良くない。


 道の途中にある小さな石、左右から押し寄せる雑草、木の根っ子など障害物がたくさんあって、前に進もうと小さな障害物を車輪が踏んで超えるごとに、荷台がバンと大きく揺れて、座っているお尻に大きな振動が加わる。


 パトリシアは平気そうな顔で荷台に座っているが、オレは結構早めにお尻の限界がきていた。気休めのために、マリアには何度も後どのくらいの距離か聞いてしまう。


「マリア? 今日はあと、どれぐらい進む予定かな?」

「そうね、3時間ぐらい進んだ先に街があるから。そこで、一休憩しましょうか」


 う。3時間……。耐えられるだろうかと心配しながら、ちょうど良い時間が空いたので、スキル取得に意識を集中させる。尻については、あまり考えないようにしようと思った。


 スキルを取得する。これから、お姫様という病人を見ることになるので準備をしておかないと。医療のスキル、診察用など、その辺りのスキル取得しておいた方が良さそうだ。


診察Lv.1

視診Lv.1

聴診Lv.1

触診Lv.1

打診Lv.1


 基本的な、診察方法のスキルは取得できた。あとは、実際に診察してみてスキルのレベルを上げながら、姫様の原因不明の病について調べることにしよう。これで原因が判明すればよいが。不安だ。




 馬車を進めている最中にも、森の奥からモンスターが飛び出してきて進行の邪魔をしてきたり、馬車の荷台を壊そうと攻撃してくる。面倒だが、モンスターが目の前に現れたら馬車を止めて、モンスターを狩る必要があった。


「もう! 急いでるのに」

「……マリア、コイツら一気に殺す」


 しかし、ほとんどのモンスターをマリアとクリスティーナの2人が倒していった。オレとパトリシアは、王宮にお連れするお客様だということで丁重に扱われて、戦いには参加させてもらえなかったのだ。


 2人の戦闘能力はかなり高くて、どんなモンスターでも対処できていたので、もし何かあったら助けようかと思って待機していたオレたちの出番は、全くなかった。


 マリアは2本の短いナイフのような剣を使って、スピードでモンスターを撹乱し、止まらない連続攻撃を加えていくスタイルだった。接近戦を得意としているようで、スピードで敵を翻弄する。


 逆にクリスティーナは大剣を駆使して、一振りでモンスターを倒してしまうというようなパワータイプの人だった。


 大剣の重さにも振り回されること無く、しっかりと振り切ることができているので、かなり高い身体能力を持っていることが分かる。


 そんな2人の女兵士に護衛されながら、猛スピードで王都へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る