第20話 資料室

 オレは今、ギルドの建物内にある資料室という場所に来ていた。そこには、古びた本やら資料が沢山保管されている。冒険者とギルド職員のみ利用できるというような場所。マリーやアレンシアから聞いた話では、この町で過去のことについて調べ物をするなら、資料室を活用するのが一番だと聞いていたので来てみた。今のオレの状況を打開する手がかりがないか、少しでも情報が欲しかった。


 ギルドの職員に尋ねたり、マリーとアレンシアの言葉を頼りにして、勇者のことについて調べるため資料室にある本と、資料の数々を調べてみた。


「勇者ハヤセ・ナオトの伝説」、「ハヤセ・ナオト伝説の虚実」、「偉人伝ハヤセ・ナオト編」、「ハヤセ・ナオトの肖像」、「勇者ハヤセ・ナオトの素顔」、等など。他にも様々な本に目を通してみたが、オレの求める情報は得られなかった。


 勇者に関することは、たくさん知れた。本に書かれている内容と、マリーが語った内容と比べてみると、大体同じような話だった。


 ハヤセ・ナオトについての物語は、マーリアンという街から始まる。マーリアンの街が魔王軍に襲われていたところに突如、勇者を名乗るハヤセ・ナオトという人物が現れた。そして、魔王軍による攻撃で窮地に陥っていた街を救った出来事が最初だといわれている。


 それから、各地にある様々な街や人々を救出しながら、王都を目指して旅を続けたらしい。旅の最中に、色々な出会いと別れを繰り返し経験して、勇者ハヤセ・ナオトは成長を遂げていく。いつしか、魔王にも負けない強者となっていた。


 王都に到着する頃には、多くの仲間を得ていたハヤセ・ナオトは、魔王軍に対して人間側から打って出る決戦の作戦を立案した。


 大陸中にある、魔王軍に苦しめられてきた様々な国々の戦力が集まって、混合軍になり、魔王軍と人間軍が激突する大決戦を行ったらしい。人間軍は最終的に魔王軍を打ち破って、勇者ハヤセ・ナオトは魔王を倒した。そして、大陸に平和が訪れた。


 その後、勇者ハヤセ・ナオトは自分の生まれた国に帰って、平和に暮らしたという記録が残っているという。


 おおよそ、これが勇者ハヤセ・ナオトという人物が辿った物語の流れである。


 なぜ、日本人のような語感のある名前を持つ人間がこの世界に現れたのか。

 どこからやって来て、どこへ帰っていったのか。詳細については、資料には詳しく記されておらず、まるで分からなかった。


 ただ、ある日突然現れてから人々を救い、仲間を集めて、魔王を打ち破り、自分の国に帰っていった、という事だけ書かれている。オレも元の世界に帰るための方法について情報を探してみたが、残念ながら注目に値するような新情報というは見当たらなかった。


 勇者ハヤセ・ナオトと同じように、とりあえず王都に向かってみるのはどうかな、とオレは思い至った。


 王都ならば、ここに保管されている本や資料よりも数が多いだろう。ここで調べても分からなっかたことが、王都には記録されて残っているかも。


 勇者ハヤセ・ナオトが帰っていったという国についてもっと詳しく知って、帰還の方法についても判明するかも知れない、という可能性があるとオレは信じていた。


 また、ハヤセ・ナオトがこの世界で最初に現れたとされる、マーリアンという街も調査しに行くべきかもしれない。


 どのようにして、ハヤセ・ナオトがこの世界に現れたのか。知りたいと思った。


 オレと同じように、ゲームの世界に迷い込んだと思ったのかな。それとも、オレの事情とは異なっていて、ただの異世界トリップでこの世界に来たのか。マーリアンに行けば、少しの情報だとしても手に入れられることができるかもしれない。可能性はゼロではないと思う。


 オレは、勇者という人物に関わり深いらしいマーリアンという街を経由し、王都を目指す旅を計画した。旅に行く前、少しでも危険な目に遭う可能性を下げるために、旅に出る前に戦えるように、出来る限り鍛えることに決めた。


 例えば、新しい職業について。資料室には様々な本が保管されていて、一度その本を読んでみると、職業が得られるという手軽な方法を発見した。資料室にある本を、読むだけで職業を取得することが出来たのだった。


 新たに取得した職業も加わって、ステータスの職業リストは次のように更新されていた。


------------------


冒険者 Lv.100

上級ウェイター Lv.100

熟練料理人 Lv.100

商人 Lv.100

農民 Lv.38

役者 Lv.55

鍛冶見習いLv.100

賢者Lv.100

魔術使い見習いLv.100

医者見習いLv.100

僧侶見習いLv.100

召喚士Lv.100

小盗賊Lv.100

遊び人初心者Lv.1

ギャンブラー初心者Lv.1


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 推薦状を書いてもらったクララから教えてもらった、上位転職する方法を使って、本当に手軽に職業を強化することが出来ていた。それで、いくつか上位職に変化している。


 見習いや、小、初心者と頭に付いているのは、更に上級職があるからなのだろうと考えられる。さらに、職業のレベルアップも日常生活を過ごしているうちに、容易に出来てしまっていたので、気がつけばほぼ全てLv.100に達していた。


 遊び人やギャンブラーだけは、経験値を得られる方法が分からなかったのでレベル1のままである。おそらく、ギャンブルをして何か条件を満たせば経験値を得られるのだと思うが、しかし、この町にはカジノやギャンブルできるような施設が無くて、経験値を得ることは出来ないまま。だから変わらず、レベル1なのである。


 それから、上位転職したり、新しい職業を修得してレベルを上げることによって、各ステータスの値も異常な上がり方をしていた。1日毎に、能力がどんどん強化されていった。


 スキルについても新しい職業が手に入ってから、かなりの数を取得していった。


 特にこれから重宝しそうなのは、魔術使いという職業で手に入れた攻撃魔法、防御魔法の数々や、僧侶見習いで手に入れた回復魔法である。念願だった魔法をスキルで覚えることが出来るようになった。


 その他にも、賢者の職業から覚えたスキルで観察眼というものが便利だった。これで、相手のステータスを確認できるようになった。


 魔法を使うためのMPを自然回復出来るようになるスキルがあったり、大ダメージを与える攻撃系のスキルを覚えたり、宝のある場所を察知できるというようなスキルも、今後のたびに備えて色々と便利スキルの数々を覚えていった。


 旅の準備を進めている間も、アフェットで働くことでお金を稼ぎ、ギルドで依頼を受けながら、働きで得たお金を旅費として貯めていた。


 旅に出た後は、各地にあるギルドで依頼を受けて、お金を稼いでいこうと計画している。冒険者身分証明証を手に入れることで、それが出来るようになった。


 こうしてオレは、マリーやアレンシアたちと出会ったこの町から、近日中に旅立つ準備を進めていった。

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