第21話 旅立ちの日
オレは旅の準備を終えると、2ヶ月ほど生活した町から旅立つことにした。
最初はゲームからログアウトするために情報を集めようと考え、冒険者になろうと寄った町だった。だが、意外と長く世話になった。マリーという女性と知り合って、2ヶ月もの間ずっと一緒に生活するとは思いもしなかった。
その町では、色々な出来事があった。まさか、冒険者身分証明証を発行するためにクリアしなければならない条件があるとは思わなかった。まずは、お金を稼ぐために仕事をすることになったり、いくつか試験を受けて冒険者としてふさわしいか試されたり、いろいろな経験を積みながら過ごした町だった。
結局、この2ヶ月間だけではゲームからログアウトすることは出来なかった。元の世界へ帰る方法も見つかっていない。この町で調べられることは、全て調べ尽くしたと思う。
だから新たな情報を求めて、別の場所に調べに行く。目的地は、勇者が居たという王都だ。そこなら、今以上の情報を手に入れられるはずだ。
早朝。オレは門のところに1人で立って、町がある方向をじっくりと眺めていた。もしかすると、もうこの町には戻ってこないかもしれない。なので忘れないように、町の風景を目に焼き付けようと思った。
旅の見送りは、誰も居ない。昨夜、オレが働いていたアフェットで送別会を行ってもらい、マリーやアレンシアたちには既に別れを告げていた。
マリーには、生活できるようにと部屋を借りて、すごくお世話になっていた。感謝しきれないぐらい、生活の支援をしてもらった。
アレンシアやチェーナには、お店で雇ってもらって仕事をさせてもらった。冒険者身分証明証を発行してもらうために必要な、お金も稼がせてもらった。彼女たちの店で働いていたのは2ヶ月ちょっとだが、すごく世話になった。
その他にも、町の人たちには助けられた。オレが市場で買い物したときに、売り子のお姉ちゃんに商品をちょっとおまけしてもらったり、冒険者証明証を発行するのに必要な推薦状をしっかりと書いてもらったり、オレの事を気に入ってお店の常連客になってもらった人たちなど、この町で生活したりするのに関わった人たちは多い。
この町の居心地が良すぎて、仕事も上手くいっているし、生活するのに困らない。旅するのを止めて、ここに永住する、という選択肢も考えた。けれども、どうしても元の世界に帰りたいとオレは考えていた。そのためにも、帰るための手がかりになりそうな人物である、勇者ハヤセ・ナオトの情報を追いかけることにした。
彼の足跡を追うことで、元の世界へ戻るための解決策が無いか探るために。自分の目で確かめたい。
町を眺めていた俺に、パトリシアが近寄ってきて声を掛ける。
「ユウそれじゃあ、そろそろ行こうか」
実は、これからの旅はパトリシアと一緒にパーティーを組んで行くことになった。彼女は、オレが旅に出るという情報を知って、冒険者として一緒に旅についてくると言った。
ギルドの試験官とか、仕事があるだろうに大丈夫なのか。そう言って、最初は同行を断った。けれども、パトリシアはどうしてもついてくると言って、折れなかった。なので、オレの方が折れて断るのを諦めた。何度断っても彼女は諦めず、どうやってでもついてくる気らしいから説得は無理だと悟った。
それに、一人っきりで旅をするよりも、旅のお供が居ることが少し心強いと感じていた。一緒に旅してもいいかも、と思えるようになった。
ここから最初の目的地である、マーリアンと言う名の町へ行く。徒歩でいくつかの街を経由していき、計画では目的地に到着するまで1ヶ月ほど掛かるようだった。
移動手段としては、徒歩よりも早く目的地に到着できる馬車というものがあったが、お金が掛かってしまうために徒歩で行くことになった。節約する。
一応、マーリアンという街は最終的な目的地である王都へ向かう道の途中にある。遠回りにはならないが、長い旅になりそうだった。
マーリアンという町は、勇者ハヤセ・ナオトが最初に現れたという街だ。何か元の世界へ帰るためのヒントが有るかも知れないので、寄るべきだろう。
「しかし、ユウと2人旅。まるで、新婚旅行のようだな」
「恋人にもなってないのに、何言ってるんですか」
最近、パトリシアは結婚しよう、とはオレに言わなくなった。実は妄想していて、結婚を済ませて夫婦になった気持ちで居るようで、こんなセリフを言ったりするようになった。まぁ、特に実害もないので、いつも聞き流している。
ともかく、旅を始めよう。
旅の装備はバッチリ。防寒のために、衣服の上にゆったりとしたオーバーマントを羽織り、腰から武器となる剣を差している。万が一の場合に、この武器で解決する。
背中には、3日分の携帯食料と水が入った袋を背負っていた。靴も、旅をするために新調した、立派なものを履いている。
まずは、この街から2日程歩いたところにあるニーファという街に向かう。
手持ちの金も、旅の準備中に仕事や依頼をこなして貯めた100万ゴールドある。余裕はあるけれど、無駄遣いはしないように気をつけなければ。それだけの大金を、簡単に使い切ることは無いだろうとは思うが注意する。
手持ちのお金が少なくなってきたら、どこかの町に寄り、ギルドからの依頼を受けて、稼ごうかなと考えている。
先を歩いてモンスターの奇襲に警戒してくれているパトリシアの後について、オレはゆっくりと目的地に向かって歩き始めた。
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