第19話 冒険者身分証明証を貰う

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 オレは腕を引かれて、どこかに連れて行かれそうになる。彼女の手を無理やり振り払って離してから、少し待つように言った。


「どうした? もしかして、もう結婚して妻がいるとか? もしくは、付き合ってる恋人が居るのか?」


 出会った時に見せていた不機嫌そうな顔はどこにも無くなって、今は不安げな顔を向けてくる、パトリシアという女性。


「妻も恋人も居ませんけど、って、いきなり何なんですか、あんた?」


 いきなり結婚してくれだなんて急すぎる、それにオレの試験結果はどうなんだ。


「何だとは、どういう意味だ?」

「試験はどうなんですか? 合格ですか?」


 まずは、そこを確認しておきたい。攻撃を受けきるように言われていたのに、それに従わず、こちらから攻撃を仕掛けてパトリシアの握っていた剣を弾いてしまった。

ちょっとした不満を晴らすつもりで、思わず力が入っていた。


 オレも戦えるんだ、という技術を見せたつもりなのだが、評価としてはどうなのだろうか。


「うん。試験は合格だよ。剣を扱う力が素晴らしいな。私よりも上手いじゃないか。初め見た時には、それほどの力を感じなかったが、今はもの凄い力を感じる。戦いの中でもレベルが上がったようだし。とにかく、君は合格だ」

「そうですか。合格ですね。ありがとうございました」


 よかった。合格だという結果を聞いてオレは、試験官だったパトリシアに頭を下げお礼を言ってから、さっさとその場を去ろうとするが……。


「待て、試験は合格だが、まだ話は終わっていない。結婚はどうするのだ?」

「いきなり結婚と言われても。初めて出会ったばかりじゃないですか」


 呼び止められた。オレの返答に、顎に手を当て考えだすパトリシア。


「ふむ、まだ出会って間もないから結婚はダメということか?」

「いえ、出会って間もないとか、そんな理由じゃなくて。結婚するのか決めるのは、もっとお互いを知ってからというか、その色々とあってからじゃないですか。そんな急に結婚しようと初対面の人に言われても、誰もが無理ですと答えるでしょうよ」


 現実世界では彼女いない歴イコール年齢のオレ。女性経験も少ないのに、いきなり結婚を迫られて、アタフタしてしまった。


「確かにそうだな、私は君の名前をまだ知らない。君の名前はなんて言うんだ?」

「ユウ、ですけど」


 名前を聞かれたので答える。オレの名を聞いて、ニコッと笑顔になるパトリシア。というか、試験しようとする相手の名前も知らなかったのか。ちゃんと情報共有していないとは。


「そうか、ユウと言うのか。いい名前だな。じゃあ、お互いの名前も知り合ったし、結婚しよう」

「いやいや、早い。早いって。ちょっと、待ってくださいよ!」


 なぜ、そんなにも急いで結婚しようとするのだろうか。パトリシアが、そんなにも結婚しようとする理由が分からない。


「いきなり結婚なんて。さっきも言いましたが、今日初めて出会ったばかりの人間と、急に結婚なんて出来ませんよ」

「そうか、私が急ぎ過ぎというわけだな」


 会話を続けて、なんとか分かってくれたみたいだ。彼女は、肩を落としションボリとした表情で、次のように言った。


「はぁ……、試験は無事終了だ。冒険者身分証明証を受付の男に発行してもらおう。ついて来い」

「えぇ……まぁ、分かりました。とにかく、ありがとうございました」


 一気にテンションが下がった彼女。諦めてくれたのだろうか、先に歩いてギルドの建物の中へと戻っていく。やっと、冒険者身分証明証が手に入るのか。


「お疲れ様でした、試験は?」


 建物内で待ち構えていた男性受付が、パトリシアに試験の結果を確認している。


「合格だ」


 男性受付に向けてパトリシアが頷き、短く答える。そして、チラリとオレの様子をうかがってから、カウンターの向こう側に歩いていくと建物の奥へと入っていって、姿は見えなくなった。


「試験、合格おめでとうございます。それでは、この用紙に必要事項を記入してきてください」


 紙と羽ペンを渡される。カウンターに紙を敷き、指示された通り記入していく。


 名前、年齢、身長、職業と様々な記入する欄を埋めていく。職業の欄については、今ステータスにセットしている冒険初心者と書いておいた。


「書けましたよ。確認をお願いします」


 書類を男性受付に渡すと、上から下へと眺めて確認してもらう。


「はい、これで良いです。今、冒険者身分証明証を発行してきますので、少々お待ちください」


 ようやくか。5分ほど待っていると、男性受付が奥の部屋から戻ってきた。


「こちらが証明証になります。無くさないでくださいね」


 男性受付から運転免許証ぐらいの大きさのカードを渡される。カード上部には、No.15973という番号が振られていて、所属をしているギルドと冒険者としてのランクが書かれている。


 オレのランクはEらしい。



「そちらの番号が、貴方に割り振られた管理番号になります」


 番号を眺めていた俺に気づいて、受付の男性が詳しく説明してくれる。

 裏面を見ると、先ほど用紙に書いた名前と年齢、職業が書かれていた。


「それでは次に、冒険者身分証明証を受けたあなたにできる、冒険者の仕事について説明しますね」


 男性受付は、オレがチェックしていた冒険者身分証明証から目を離して、話を聞く態勢になったのを確認すると、ギルドの依頼について話し始めた。


「冒険者は、ギルドの振り出したクエストを受けることが出来ます。振り分けられる仕事は、冒険者のランクによって異なります。例えば、冒険者ランクが低いと、それ相応の仕事しか受けられません。冒険者のランクは、依頼を受けて仕事を無事に完了していけば、上がっていきます」


 ギルドから受けられる仕事について説明してくれる男性受付。つまり、ギルドから依頼を受けられるようになって、ギルドからの仕事を沢山こなしたら、冒険者ランクを上がるよ、という事か。


「クエストの内容は、どういったものがありますか?」


 疑問に思ったことを聞いてみる。


「昨日、貴方に受けてもらった依頼、指定するアイテムを集めてきてもらったりするもの、指定したモンスターを狩ってきてもらう、というのが初期に受けられる仕事の主な内容ですね。冒険者ランクが上がれば、要人護衛任務、遺跡調査、そして貴方が依頼を出した内容のような物もあり、様々な仕事がありますよ」


 なるほどね。ギルドの依頼については、様々な内容のものがあるらしい。


「ギルドの仕事については分かりました。ありがとうございます」

「えぇ、仕事について分からないことがあれば私に聞いてくれれば教えます。依頼も貴方の冒険者ランクに見合ったものを紹介させていただきますので、私にお申し付けください」


 こうしてオレはようやく、ギルドが発行する冒険者身分証明証を手に入れることが出来たのだった。ギルドからの仕事も受けられるようになった。ゲームのストーリーが少し進んだ、という感じだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る