第18話 ギルド試験・後編
翌朝アフェットに寄って、職場で一緒に働くアレンシアやチェーナたちにも事情を説明して、仕事を休ませてもらうようにした。
「大丈夫ですよ。この町に来た目的は、冒険者身分証明証を作ることでしたからね」
オレを店に引っ張ってきて働くように言ってくれたチェーナは、オレの事情を理解してくれて、快くお店の仕事を休むのも許可してくれた。
「お店の方は私たちに任せて。試験、頑張ってね」
アレンシアも、厨房が大変だろうにオレを気遣ってくれた。忙しくなって、お店の手伝いに来てくれたオデットとシモーナの2人が居るから、オレが居なくても大丈夫なのだろう。少し寂しいが、オレは自分の事情を優先する。
「大丈夫、ユウなら試験なんて楽勝でしょ」
下ごしらえの準備をしていたオデットが近づいて来て、勇気づけてくれる。
「……がんばって」
その後ろからシモーナが控え気味に、応援してくれる。4人の言葉を胸に、オレは試験を受けにギルドへ向かった。
「みんな、ありがとう。いってきます」
***
「おはようございます」
冒険者身分証明証を発行してもらうために、最近頻繁に話すようになったギルドの男性受付に、今日も会って挨拶する。それから、昨日のうちに集め終わったヤマノ草10個を取り出して渡した。
「おはようございます。もう集め終わったんですね。早かったですね」
「えぇ」
少し驚いた様子を見せる男性受付。期限は今日の昼頃だったけれど、昨日のうちに集め終わっていたので、朝の時間に渡すことが出来た。
指定された数あるのか確認されて、ちゃんと10個あることを確かめてもらった。
「確かに、ヤマノ草10個を受け取りました。実地試験の方は大丈夫のようですね。それでは、こちら依頼報酬の2500ゴールドです」
「試験なのに、報酬があるのですね」
「試験とはいえ、ちゃんとしたギルドからの依頼なので報酬は出しますよ」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、差し出された報酬金を受け取る。試験だったので、報酬は無いものだと考えていたが、しっかりヤマノ草10個分の料金を支払ってくれるようだ。
「実地試験では、ギルドが出した依頼の内容通り、指定した数を集めてきて、時間も遅れずに、しっかりと完了できるかどうかを確認するための試験です。ユウさんは、どちらもバッチリですから試験は合格ですよ」
これでオレは、ギルドの依頼を受けても大丈夫だと判断されたということらしい。
「実地試験については、合格です。次に、技術試験の方に移らせてもらいたいと思います」
冒険者身分証明証を発行してもらうため、次に受ける試験。技術試験と呼ばれる、対人戦だった。戦いの技術を見られるようだが、今のオレで合格できるだろうか。
「付いてきてください」
これから試験を行うための場所に移るのだろう。男性受付はカウンターから出て、初日に案内してくれた時と同じように、建物内を案内してくれた。
男性受付の後ろをついて行くと、建物から外に出てきた。運動場のように広がった場所だ。その土地もギルドの保有する場所なのだろうか。広い空間が広がっている。ギルドがある建物の裏に、こんな場所があったのかと驚いた。
「試験官を呼んできますので、しばらくお待ちください」
「お願いします」
そう言って男性受付が離れていく。10分ほど待っただろうか。1人の女性がオレのそばに近寄ってきた。
「おい、お前が技術試験を受けるという男性か?」
とても高圧的な態度を取ってくる女性だった。彼女が試験官なのだろうか。長髪で金髪のその女性は、不機嫌そうに眉をひそめている。美人な女性だが、どうも、その不機嫌そうな表情で魅力が半減しているように見える。
「ふん。一人前のように背は高いが、剣は振り慣れていないみたいだな。残念だ」
確かに、この世界に来てから初めて剣を振るって、剣を振った回数もそんなに多くはない。だが、立ち姿を見ただけでも分かるものなのだろうか。どうやら、その女性から大分舐められているようだ。
「そんな実力で、ギルドの技術試験を受けようとは愚かだ。本当に大丈夫なのか?」
オレをジロジロと見つめつつ、そんな事を言う女性。
「まだ技術試験を受けるつもりがあるのなら、さっさと武器を構えろ。私の攻撃を、受け切れたなら合格にしてやるぞ」
「お願いします」
オレは色々と不満はあったが口を閉じて従う。彼女の言うとおり急かされながら、剣を構えた。
「これぐらいなら、お前でも受けられるだろう。どうだ?」
力を抑えてくれては居るようで、余裕の表情のまま彼女は剣を振るった。しかし、そんな余裕で振るわれた剣も、初めての対人戦で緊張していたオレは、彼女の攻撃を受け切るのに精一杯になった。モンスターとの戦いは経験してきたが、人と戦うのは初めてだったから。
しばらくの間、女性の剣を受け止める動作を繰り返し行っていると、頭の中に例のシステムアナウンスが流れてきた。
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
昨日、戦いに備えて取得したスキル、威圧、剣術、回避それぞれのスキルレベルがアップしているようだった。戦いの最中、集中が切れてしまいそうなぐらいしつこく頭の中にアナウンスが流れていった。
彼女の剣を受けるごとに、実力がアップしていく。その効果なのだろう、剣を受け止めるごとに相手の繰り出す剣先がハッキリと見えるようになっていた。
彼女の振るう剣にも慣れてきて、楽々と対応できるようになってきた。
「どうした? もう無理か? 無理なら無理と早く言え」
スキルのレベルを上げるのに、ちょうど良かった。オレは、スキルレベルが十分に上がったのを確認してから、こちらから仕掛けてみることにした。
「いきます」
「!?」
威圧を発動させて、目の前の女性にプレッシャーを与える。そして、ステータスを駆使して、とある技を使ってみる。
女性の振るう剣の動きに合わせながら、オレが持つ剣を円を描くように回す。
巻上げだ。
そのまま、巻き上がった女の持つ剣が弾き飛ばされる。女性の手から離れた剣は、明後日の方向へ飛び、地面に突き刺さる。武器を持つオレと、無手の女性が向き合いながら、立っていた。
「……」
呆然とする、目の前の女性。先ほど、いろいろと言われた不満を込めて、どうだ、参ったかという気持ちで女性を睨みつける。すると、意外な結果が待っていた。
「すごい」
「えっ?」
「私は、貴方のような男性を待っていたんだ! 結婚してくれ」
「はぁ……?」
予想外の展開。突然、彼女はオレを褒めてくれた思ったら、次の瞬間には豹変して結婚してくれと叫んでいた。事態についていけないオレは、多分アホ面を晒しているだろう。そんなオレの様子もお構いなしに、その女性は自己紹介を始めた。
「私の名は、パトリシア。貴方のような強い男性を求めていたんだ。男は弱いもの、なんて世間では言われているが、必ずこの大陸には、強い男が居るはずだ。そう考えて、今までギルドで試験官をしてきて強い男が現れるのを待っていたんだよ。まさか今日、貴方のような運命の男性が現れるなんて。こんなに幸運なことはない。だからお願いします。私と結婚してくれ」
「いやいやいや、ちょっと、待ってくれ!」
パトリシアと名乗った女性は、そうまくし立てると俺の手を握りしめる。了承してくれるまで、絶対に離さないという強い意志を感じた。どうしよう。
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