第11話 初めての客引きと結果
表通りに出る前にオレは、建物の影でまずステータスを確認した。先ほど取得した給仕という職業について。
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ユウ
Lv.66
STR:301
CON:396
POW:660
DEX:559
APP:21
職業:冒険初心者
EXP:1320
SKILL:61
スキル:全力斬り Lv.5
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職業を付け替えてみる。職業を給仕にするように、イメージで操作する。おそらくそうやって、職業を付け替えるんだろうと自然に理解していた。
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ユウ
Lv.1
STR:301
CON:396
POW:660
DEX:559
APP:21
職業:給仕
EXP:1320
SKILL:61
スキル:全力斬り Lv.5
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「なるほどねぇ……」
ステータス欄に変化があった。レベルが1に戻ったのと、職業の欄の部分が給仕に変化している。ステータスの数値は、変化が無いようだった。これから客引きの仕事をするので、こうして給仕という職業をセットしておいた方がいいだろう。
準備を終えてから、表通りへと出たオレ。まず、客となりそうな人を見極めるために、同じように通りで客引きをしている商人たちを観察することにした。
客引きなんて人生で初めて行うことになったオレは、どんな風にして客引きすればいいのか周りを観察して、参考にしようと思った。
表通りに出て客引きをしている商人たちは、見える限り10人ぐらい。その中で、3人が男性だったので、彼らを注意深く見ることにしてみる。建物の影に隠れながら気付かれないように、それとなく視線を向ける。
観察している彼らは、あっさりと客を店の方へ連れて行く。観察を続けてみると、彼らは女性たちに声を掛けるだけで、特になにか特別なことはしてないようだった。これ以上、観察を続けても何も得るものはなさそうだった。仕方ない、オレも彼らと同じように、まずは声を掛けてみることにした。
どうせゲームの世界の中だし、失敗しても問題はないだろうから。操作をしているキャラクターも、オレではない。そう考えると、気楽に挑戦することが出来た。
ちょうど目の前に、女性が1人歩いている。
「お客さん、昼食どうですか?」
「昼食? さっき食べたところなんだ、ごめんね」
「そうですか、ありがとうございます。実は、あそこにおすすめの店があるんですよね、また今度おねがいしますね」
まぁ、一人目から捕まるとは思わなかったから、店の場所だけ簡単に宣伝してから離れる。しかしダメだったけれど、返事はしてくれたから、そんなにオレの気持ちにダメージはない。次に切り替えよう。
(レベルアップしました)
「うぇ!?」
唐突なシステムアナウンスに、オレはびっくりして声を上げた。今の行動だけで、経験値を入手することが出来るだなんて予想外だった。モンスターとの戦い以外で、そんな方法があるとは。
仕事を遂行すると、経験値を得られる、ということかな。しかも、失敗したというのにレベルアップすることが出来ていた。失敗しても、ドンドン次に挑戦していこうという気持ちになれた。
また、目の前に女性が歩いてくる。長身で褐色の女性だ。
「お客さん、昼食どうですか?」
「あら、ちょうど良かったわ。どこか入ろうとと思ってたの。案内してくれる?」
「ありがとうございます」
まさか二人目で成功するとは。そんな風に考えていると、頭の中に先ほども聞いたシステムアナウンスが流れる。
(レベルアップしました)
客引きが成功すると、さらに経験値が入るのだろうか? とりあえず、お客さんを店に案内しなければ。
「お店はこちらです」
お客さんの先を歩きながら、店までの道のりを進む。後ろからついて来ているのを確認しながら、お店の説明も忘れない。
「パンとスープのセットが美味しいですよ」
「そうなの。食べたくなってきちゃった」
店に到着する。扉を開けて、連れてきた彼女を店の中へ案内する。
「いらっしゃいませ」
アレンシアが、カウンターの向こう側からお客さんを迎える。彼女をテーブルへと案内してから、俺はメニューを取りにカウンターに向かった。
「すごい、こんなに早くお客さんを引いてきたのね」
「とりあえず、注文とってきます」
お店に来たお客さんに感動しているアレンシアを横目に見つつ、オレはメニューを片手に持って、注文を取りに行く。
「メニューをどうぞ、注文はどうします?」
「じゃぁ、オススメって言ったパンとスープのセットをちょうだい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ニコリとカッコいい笑いをオレに向けて注文する、褐色の彼女。オレが、道すがらおすすめしたパンとスープのセットを注文してくれた。
(レベルアップしました)
注文を取ることでも、経験値が入手できるのか。レベル1に戻ったからだろうか、少しの経験値だけでも、すぐにレベルアップするようだった。とは思ったが、仕事中なので今はレベルアップの事は頭の隅に追いやって、注文をアレンシアに伝える。
***
数十分後、お店の中は女性のお客さんで一杯となっていた。大繁盛というやつだ。
なぜか。それは、あの後にオレが客引きとして働いて、コツを掴んだのだろうか、声をかけると必ずお客さんが一緒に来てくれるようになったから。オレはいっぱい、店にお客さんを呼び込んだ。
すると、声を掛ける前からお店の方にもお客さんが寄ってくるようになっていた。それからは、お店の中にある席が全て埋まるぐらいの盛況ぶりを見せている。
「注文、承りました。少々お待ちください」
空いている席に、女性のお客さんを案内をしてから注文を取り終えたオレは次に、アレンシアに料理はまだかと聞きに厨房へと向かう。
「ちょ、ちょっと待って! 今、急いで作っているから!」
アレンシアは、すごく忙しそうにしていたので俺も厨房に入り、調理や盛り付けの手伝いをする。アレンシアの指示を受けながら、野菜の皮をむいたり、切ったり、皿に盛り付けをしたり。それでも手が足りなくて、注文が次から次に舞い込んで、まだ料理は来ないのか、という催促する声が聞こえてくる。
超特急でアレンシアが料理を仕上げていく。俺は、それを間違いないようにお客に配膳していく。その繰り返し、テーブル席のお客さん全員に食事が行き渡ると、少し落ち着く。
しばらくすると次は、食べ終わったお客さんが次々と会計に来るので、チェーナやオレがてんてこ舞いになりながら、支払いを受け付けていく。
「ありがとうございます、500ゴールドになります」
「はいよ」
「ありがとうございました」
お客さんが店から出る時には、見送る声を発する。
そんな風に、昼から夕方まで繰り返して、お店に訪れたお客さんを案内していく。体力的には、まだまだ大丈夫だったが精神的にすごく疲れた。
ようやく、お客さんの大半が帰っていって落ち着けるようになった。
「お疲れ様でした。ユウさんのお陰で、すごく盛況しましたね」
今まで、会計を担当していたチェーナがカウンターから出てきて、オレにねぎらいの言葉を掛ける。
「ほんとうに疲れましたよ。初日から、こんなに疲れるだなんて」
言葉の通り、こんなにも疲れるとは思っていなかった。これも、客引きが予想外に、上手く成功してしまったから。あれから、ドンドンお店にお客さんが訪れた。
オレは、ステータスを確認してみる。
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ユウ
Lv.100
STR:401
CON:516
POW:710
DEX:598
APP:29
職業:給仕
EXP:2820
SKILL:161
スキル:全力斬り Lv.5
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APPポイントの数値が、高くなっている。もしかしなくても、客引きが想像していた以上に上手く行ったのは、このステータス値のお陰だろうか。
それに、レベル100と限界値にまで達している。『Make World Online』では、キャラクターのレベル限界値は100だったはず。職業を変更すればまた、レベル1に戻る。つまり、給仕としてのレベルは限界状態だった。
しかし、こんなにも早くレベルが上がるものなのか。給仕とか、冒険初心者というのは特別、レベルが上がりやすい職業だから、とか。
「お母さん、今日の売上どうだった?」
お金の管理は、チェーナがしていたようだから今日の売上はどれ位なのか、彼女が把握しているはず。ウキウキした様子で、アレンシアが問いかけていた。オレも気になる。
「今日の結果はなんと!」
「「なんと?」」
オレと、アレンシアの声が重なる。
「0でした!」
「「へ?」」
オレとアレンシア、2人のへんてこな声が重なる。
「手元に残ったお金は0ゴールドよ」
「な、なんで……?」
アレンシアが震える声で信じられない、という風に言葉を発していた。もっともな疑問をチェーナに問いかける。
「今までの借金の返済をするのに、今日の売上分が全部持って行かれちゃいました。結果儲けは0になっちゃった。あ、ユウさんの今日のお給料15000ゴールドは、ここに分けてありますから。はいどうぞ、明日もよろしくおねがいしますね」
「え? あ、あぁ……どうも……?」
呆然となっているアレンシア。その横で、同じく呆然としながらも給料を押し付けられるように受け取ってしまったオレ。いや、ちゃんと働いた分の給料なんだけれども、受け取るのが気まずい。
「明日から、もっと頑張りましょうね!」
元気に振る舞うチェーナ。その逆で、元気を無くしてうなだれるアレンシア。
そして、初めて仕事を無事に終えた俺だった。15000ゴールドも手に入った。
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