第12話 夕食の語らい

 アフェットという飲食店で働くことになり、仕事を終えたオレは受け取った給金を使って、表通りのお店で少し買い物をした。それから、マリーの家へと帰ってきた。日が沈んで、外はもう暗くなっていた。


 仕事を請け負った時や、買い物をしていた時に新たに判明したことがある。職業を取得する条件というのは、仕事をする以外にも、なにかしら経験をするだけでも取得できるようだった。


 例えば、先ほど仕事している最中にお店にお客さんが多くなってきて、忙しくなりアレンシアの手伝いをしていた。その時オレは密かに“料理人”という職業を取得していたようだ。


  他にもオレは気づいていなかったが、様々な職業を取得していたようだ。改めて取得した職業を確認してみる。


 頭の中で、ステータスを呼び出す時と同じ要領で操作する。取得した職業の一覧を、表示せよと念じる。



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冒険初心者 Lv.66

給仕 Lv.100

料理人 Lv.1

小商人 Lv.1

農民 Lv.1

役者 Lv.1


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 目の前に、ステータス欄が表示されるのと同じように取得した職業が表示される。小商人の職業というのは、買い物をした時に取得した職業かな。


 農民や役者というのは、取得した条件が分からないが、いつの間にか、オレは自然と取得していたようだ。料理人は、アレンシアの手伝いで。これらも、何かしら経験して取得する職業も多そうだな。


 


 もう1つ、分かったことがある。職業については、ステータスにセットしなければレベルアップはしないということだ。


 冒険初心者のLv.66、給仕のLv.100だけが突出していて、他の職業はレベルが低いままだった。これは、他の職業をセットしなかった影響だろうな。経験値は分配されない仕様のようである。


 ちょっとずつ、このゲーム世界の仕組みを解明していっている。このまま順調に、この世界について知っていけば、いつか元の世界に戻れるだろう。と思う。




 マリーが家に帰ってくる前に、オレが夕食を準備してみる。昨日は、マリーが用意してくれたパンとチーズだけの簡単な夕食だったので、何か調理したものを食べたいと考えたオレ。


 家に泊めてもらうお礼と、料理人の職業で経験値を取得してレベルアップするのも兼ねて、夕食を作ることにしたのだった。食材は、家に帰ってくる途中で買い集めたものを使う。


(ステータスの職業は、料理人に)


 思考操作で、職業の料理人をステータスにセットする。買ってきた食材を使って、調理を始める。


 簡単に食材を切ったり、焼いたりするだけを予定していたのだが、料理人の職業をステータスにセットした影響なのだろうか、頭の中に料理のアイデアが浮かんできたので、そのアイデアに従って調理を進めてみる。そうした方が、多くの経験値を稼げそうだったから。


 マリーが帰ってくる頃にちょうど、食事が作り終わった。当初、予定していた料理と完成したものは違っているが、料理人の職業によって頭に浮かんだアイデア通りに作ってみたら、予想外の出来栄え。


 料理人のレベルもLv.27までアップしていた。夕食を一回分の調理しただけで、それほどレベルアップするのは驚き。さすがに、給仕Lv.100の限界値までは到達しなかったが、通常では考えられないぐらいの速度でレベルアップしているであろうと考える。これも、ゲーム世界だからだろうな。


「ただいま、ユウ。夕食を作ってくれたの?」

「ちょうど、今出来たところだよ」


 

 出来上がった料理を、次々とテーブルの上に並べていく。今朝ぶりに会ったマリーが、テーブルの上に並べた料理を覗き込んでくる。


 仕事終わりにすぐ帰ってきたのだろう、鎧を着たままだ。門番の仕事で、武装していたのだろうな。


「今すぐ、着替えてくるわ」


 そう言って、部屋の奥へと行くマリー。自室で、着ていた鎧を脱いで着替えてくるのだろう。食事を並べ終えたオレは、その間テーブルに1人座って待った。




「おまたせ。とても豪勢な夕食ね」


 ラフな格好に着替え終わったマリーが戻ってきた。直ぐにオレが座る向かいの席に座った。彼女は食事にジーッと視線を向けて、興味津々のようだ。


「いただきましょう」

「いただきます」


 早速、マリーは料理に手を付ける。


「簡単なものですが」

「おいしい! すごく、美味しいわ」


 直ぐに食べ始めたマリーが、美味しいと連呼して褒めてくれる。そんな彼女の表情を見ると、作った甲斐があったというものだ。


 夕食を食べている間、気になった事について聞いてみた。


「ところで、この町は男性の人が少ないですよね」


 町を散策して、発見した事実。アフェットに食事しに来た人たちも、全員が女性のお客さんだったことから感じたことだった。


 男性が、他の店の客引きぐらいしか居なかったから、お客さんとして店に招くことが出来なかった。この町には、男性が非常に少ない事をオレは疑問に思っていた。


「この町だけでなく、他の場所でもそうよ。この国は、どこも男不足なんだから」


 マリーが語る、この国の事情。どうやら、この辺りには男性が少ないらしい。

 オレが男性というだけで、珍しいなと見られる存在なんだとマリーから言われた。しかも冒険者を職業にしようとする男性についても、非常に珍しい。マリーは、話にしか聞いたことがないらしい。


 他の国など、世界中を探したら男性冒険者も居るかもしれないが、とても珍しいと言われる存在らしい事がわかった。この世界について、男性のことについて、さらに詳しく聞いてみる。マリーは、オレが知りたい情報を語ってくれた。


 男性というのは、普通は戦えない。町の中で守られていて、外には出ないのが常識だそうだ。町の中で、頭を使って仕事をするのが主らしい。女性が町の外へ、男性は町の中で働く、という役割分担をしているらしい。


 なるほど、ギルドのカウンターに居た受付の男性を思い出す。

 最初、俺が女性に間違われたのは、外から男性が来るだなんて予想外で、しかも、1人でやって来るなんて思いもしなかったからかな。




「職業を付け替えられるですって? そんな事が可能なの?」

「はい。オレは出来ましたよ」


 職業について聞いてみると、ここでも食い違いが合った。


 オレが自由に職業を付け替えられると話すと、困惑した表情で見られた。


 職業というのは、生まれた瞬間には決められた固有のもので、オレのように自由に付け替えることは出来ない、とマリーは言う。人の職業が変わる瞬間もあるけれど、ある条件を満たして上位職になる場合のみ。それ以外は、自分の意志で変えることが出来ないそうだ。


 男性の冒険者が居ないのは、生まれた時に男性で職業に冒険初心者がつく、ということが無いからだそうだ。そもそも、男性で戦いに関係する職業がつく、というのは珍しいらしい。


 そういう意味で、やはりオレは貴重な存在だったようだ。

 逆にマリーが疑問に思っていた、オレのことについて。改めて色々と聞かれた。


「本当はどこから来たの? ヌエットとか? もしかして、アヌール国?」

「今朝も言いましたが、オレは日本という所から来ましたよ」


 どれもオレの知らない地名に、国名だった。


「? にほん? 他では聞き覚えのない地名ね」

「まぁ、そうでしょうね」


 ゲームである『Make World Online』をプレイしたことによって迷い込んだこと、ログアウトできないこと、今朝も語ったことを改めてマリーに説明する。だが、オレ自身もよく分かっていないことが多すぎるから上手く説明できなかった。


 オレも考えをまとめながら説明している。だから、話を聞いているマリーはもっと理解するのが難しいだろう。しかし、オレは何度も何度も繰り返し説明することで、マリーに少しでも分かってもらえるように頑張って、話してみた。


 マリーと話し合うことでも情報を収集していき、少しずつ『Make World Online』というゲームの世界について理解を深めていく。

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