第9話 町散策

「もう少し聞きたいことがあるけれども、私はそろそろ仕事に行かないと。ユウは、この後どうするの?」


 マリーがテーブルから立ち上がり、オレに問いかけてくる。彼女の仕事というのは、町の門番のことだろうな。昨日はオレに付き合うために代わりを頼んでいたようだから、今日は休めないのだろう。


「そうですね。どうしようかな」


 昨日と同じように、町の外に行ってモンスターを狩る。ドロップアイテムを狙って金を稼ごうか。


 しかし昨日のペースで稼いでいくとなると、25万ゴールドまで貯めるためには、どれほどの時間がかかるのやら。いいや、昨日は1時間ほどしか狩っていないから、1日費やせばもっと稼げるかも。


「行くところがなければ、しばらくの間は、うちに泊まっていったらいいよ」

「え?」


 昨日は部屋を借りて泊めてもらったし、食事まで頂いた。かなり助かったけれど、これ以上マリーの親切心に頼っていいものかどうか。しかし、オレの返事を聞かずにマリーは家を出ていく。


「とにかく、まだ聞きたいこともあるからね。家に居ても良い、というか居なさい。私は仕事に行ってくるから」


 オレが返事を悩んでいる間に、マリーは言うことだけ言って、さっさと門番の仕事に行ってしまった。とりあえず、しばらくの間は彼女の親切心に頼らせてもらうことにする。


 ということで、拠点とする町に寝床を確保できたが、後はお金の問題をどうするかだろう。証明証を手に入れるために必要な大金を稼ぐために、どうするか。


「よし、とりあえず町の中を散策してみるかな」


 部屋の中であれこれ考えていても、お金の問題はどうすることも出来ないだろう。だから、とりあえず家の外に出てみる。これがゲームなら、町で大金を稼ぐクエストとかあるのかもしれない、と考えて。


 マリーの家から外へ出る。そして、ギルドの建物がある前まで歩いて出てきた。


 昨日、ふと感じていた違和感の正体を知った。よく辺りを見てみると、町の中には男性の姿が少ないような気がする。町の中央通りに歩いている人間は女性ばかりだ。


 何人か、店の外で呼び込みをしている男性を見つけることができるが、それ以上に女性が多い。圧倒的に女性ばかりだな。そういう町の特色なのか。昨日行ったギルドでも、男性の方が特別扱いされていたし。マリーも、男性を弱いものと考えていた。


 そんなことを発見しながら、町の中をじっくりと歩き回る。



***


 クーと腹が鳴った。大金を手に入れるクエストを探して町の中を歩き回ったけれど何も発見できなかった。時刻は昼頃になっていた。


 朝はマリーに用意してもらった朝食で腹を満たした。昼食はどうしようかな。


 手持ちの金は昨日稼いだ1000ゴールドのみ。先に町の外にモンスターを狩りに行ってから、ある程度は手持ちの金を先に稼いでおくべきだっただろうか。今ある、手持ちの1000ゴールドという金がより貴重に感じられて、昼食のために金を使うのが勿体無く感じてしまった。


「うーん、どうしよう。どこか、お店に入って飯を食うか。それとも、そのまま町の外に行って、モンスターを狩りに出ようかな」


 腹が減ったままだと、狩りに出る危険性もあると考えた。だが、どうしてもお金を使うことがもったいなく感じられて、迷う。そんな風に迷っていると、誰かから声をかけられた。


「道の真ん中にボーっと立ってどうしたんですか?」


 聞こえてきたのは、女性の声だった。声のする方向へ顔を向けると、小さな女性が立っていた。オレの側に立って、興味深そうに見上げてくる。


「あ、いや。昼食をどうしようかと考えていて……」


 いきなり話しかけられて困惑しながら、オレは正直に今の状況を彼女に白状した。言った後、見知らぬ女性なんだし白状しなくても良かったのでは、と思ったが会話は続いた。


「昼食ですか! いいところが有りますよ。ついてきてください」

「え? あ、おい」


 女性は一言そう言うと、くるりと身体を回し、通りを歩き出した。


「ちょ、ちょっと待てっ」


 オレは慌てて、彼女に声をかけて呼び止めようとしたが反応せず。どんどんと先に歩いて行ってしまった。


「こっちですよ、早く!」


 遠く離れた場所から、手を振って呼ばれてしまった。見知らぬ女性だ、ついていく必要はない。だが、もしかしてこれはゲームのイベントなのでは。そう考えたオレは仕方なく、彼女の後をついて行くことにした。


 彼女は、裏通りをドンドンと歩いて行き、こちらに振り返らずに進んでいく。少し入り組んだところへと入って行く頃になって、もしかすると昼食を食べられるお店は嘘か。その女性は、オレを騙そうとしているのかと警戒するに至る。オレは、腰から下げている武器に手を伸ばして、いつでも反撃できるように警戒しながら後を追う。


 彼女は突然、道の真ん中で立ち止まったと思ったら、くるりと身体を回してオレに向き、こう言った。


「つきました。ココですよ」


 複雑な路地を通って来た、表の通りからは全然見えないであろう隠された建物だ。人通りも少ない。周りを見てもオレたち以外は誰も居ない。こんなところに、本当に飲食店があるというのか? 


 疑わしげに見るオレの視線に気づいたのか、その女性は両手をバタバタと交差させ弁明する。


「ほ、本当ですって。美味しいですよココ」

「なんて言うお店なんですか? オレ、今はあんまり手持ち無いんですけど……」


「大丈夫ですよ! ここは、アフェットってお店です。この店の昼食は、本当に絶品なんですって。とりあえず、店の中に入って食べてみてください」

「は、はぁ……」


 その女性の言葉を、一度は信じてみるかと思って、店に入ることにした。彼女は、オレが店に入るのを後ろから今か今かと見ているので、オレが先に店の扉を開けて、建物へ入る。


「あ、いらっしゃいませ」


 店の中。明らかに暇そうにして、椅子に座りボーっとしていた女の子が居た。オレが入ってきたのに気づいて、慌てて立ち上がると挨拶を投げかけてくる。店の中にはお客が1人も居ないので良いのだろうが、大丈夫だろうか。


 店の中にはテーブルがいくつか配置されていて、一応は飲食店のようだ。


 だが、本当に美味しい店なのだろうか? オレは更に疑い深く観察して、後ろからオレの後をついて入ってきた女性に目線を向ける。




「あれ、お母さん。どこかに行っていると思ったら、外で客引きしてたの?」


 お店の中に居た女の子は明らかに、オレの後ろからついてきた女性にそう言った。お母さんと呼んだか。


「あんた、お店の人だったの?」


 オレは、この店に案内をした女性に言葉短く問いかける。すると、彼女はニコリと誤魔化すように笑う。


「良いお店ですよ!」


 更に力説された。なるほどね。オレは、普通に客引きされて連れて来られたというわけだ。仕方なく、昼食はこのアフェットという店で食べることにした。


「あー、じゃぁメニュー見せてもらえるかな?」


 オレは、出入口に一番近い席につきメニューを求める。


「どうぞ、メニューです」

「ありがとう」


 女の子に渡されたメニューを見て、値段を確認する。価格は、ぼったくりじゃないだろうかと見てみたが、この世界の相場がどれぐらいか分からない。


 とりあえず、手持ちの金と相談をして、昼食セットの中では一番値段が安かった、500ゴールドのパンとスープのセットを頼むことにした。全財産の半分だが、また稼げばいいだろう。


「注文ありがとうございます。すぐに作りますのでお待ちください」


 女の子はオレの注文を受け付けると、店の奥へと走って行った。どうやら女の子が料理を作ってくれるようだ。オレをこの店に案内した女性は、ニコニコと笑いなから店の中に立っている。なんだろうか。


「お店の中、案内しましょうか?」

「え? いえ、結構です」


 女性は手持ち無沙汰なのか、オレに話しかけてくる。飲食店の案内って、どういうことだろうか。店の人みたいだし、女の子を手伝いに行けばいいのに。

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