第6話 出会い

 ゲーム内でお金を稼ぐのに一番簡単な方法は、モンスターのドロップするアイテムを集めて店で買い取ってもらうことだと思う。モンスターを狩ってきて、モンスターがドロップしたアイテムを拾い、それを店に売る。これが、一番スタンダードなお金稼ぎの方法だろうな。




 冒険者身分証明証を発行してもらうためのお金が必要になったオレはまず、ギルド建物から出てきて、さらに町からも出てきて、モンスター狩りに向かうことにした。


 と、門から町へと出る場所で先ほど出会った長身の女性と再会する。


「あら、どうでした? 証明証は貰えた?」


 話しかけてくる長身の女性。NPCでも親切にしてくれたし、ギルドのある場所を教えてもらったので、お礼は言っておかないと。


「無事にギルドには行けました。ありがとうございます。ただ、色々と条件があるらしくって今すぐは貰えないらしいです」


 ギルドで提示された数々の条件によって、今すぐ発行してもらえないということを女性に伝えた。


「あら、おかしいわね。証明書を発行してもらうのに条件なんてあったかしら……、ってもしかして貴方、男性なの?」


 かなりビックリした表情で言う、長身の女性。というか、性別を勘違いされていたなんて。キャラクターの顔は、プレイヤーの姿をスキャンしたデータから少し調整をしただけで、女性には見えないと思うけれど。


「え? オレは、見ての通り男ですが……?」


 この見た目で、オレの事を女性だと思っていたのか。会話も流暢に行われているから、もしかしたら中に人がいるのかもしれない。だから何か勘違いしたのか。


 それともこの勘違いは、何か今後のイベントに繋がる出来事なのかな。


「嘘! だって、そんなに長身の男性が居るだなんて、それに、貴方冒険初心者って言ったじゃない。男性で冒険者の職業持ちなんて存在しているの?」


 言いながら、オレの顔を覗きこんでくるその女性。小声で何やら、ぶつぶつと呟き続けている。


 彼女の顔が近づいたことで分かった、キャラクターの顔のクオリティの高さ。精巧にできているなぁと感心する俺。


「え、ホントに……? ……結構良い顔しているし……しかも私よりも長身で……」

「え? なんですか?」


 女性の声のボリュームが小さすぎてうまく聞き取れず、何を言っているのかと聞き返すとびっくりして女性は、オレの側からバッと離れた。


「な、なんでもないわ! それよりも、また外に出る気?」

「モンスター狩りに行こうと思ったんですが、マズイですか?」


 女性は、顎に手を当てて悩みだす。


「んー、貴方が男性ってことでマズイのはマズイけれど、冒険初心者なら大丈夫なのかしら……? 貴方、誰か連れは居ないの?」

「1人です」


「男性を1人で外に出すなんて、とんでもなく危険なのに……」


 町から出たらマズイのか。オレ1人だけだと危険だと言われた。もしかして、この近辺に生息しているモンスターは初心者にとっては強いということなのかな。


 と女性がポンと手を叩き、良いことを思いつきましたという顔をした。


「ちょっと、貴方待ってなさい。絶対にどこかに行ったりしないでね、すぐに戻ってくるから」


 そう言うと、長身の女性は街の中の方へと走って行ってしまった。オレを待たせて一体、どこに行ったのだろうか、せめて、オレを待たせてどこに行くつもりなのか、目的ぐらいは教えて欲しかったと思いながら、素直に彼女を待つことにした。


 数分ぐらい待っただろうか、やっと女性が戻ってきた。


「ごめんなさい、待たせました。外に行くなら私が護衛についていくわ」

「わざわざ、オレと一緒に来てくれるんですか? でも、門を警備する仕事をしてるじゃないですか。仕事を放っておいて大丈夫なんですか?」


「今さっき、他の人に当番を代わってもらったから大丈夫。それよりも男性を1人で外に行かせるなんて危険だからダメよ、私がついて行くわ」


 わざわざ、一緒に行ってくれるなんて親切な人だなと思う。もしかすると、これは仲間になるというイベントの1つなのかと思いながら、同行してもらうことした。


「私はマリー、よろしく」

「俺は、ユウです。よろしくお願いします」


(マリーと、パーティを組みました)


 お互いに、自己紹介して握手をする。すると、パーティメンバーが組まれましたとシステムアナウンスが頭の中に流れた。


 こんな風にゲームの機能は正常に動いているというのに、ログアウトは出来ない。一体、どういった原因でログアウトが出来ないのだろうか不明だった。


「じゃあ、早速行きましょうか」


 オレはマリーを仲間に加えて、早速モンスターを狩りに町の外へ向かった。



***



 1時間程、モンスター狩りに集中して時間を費やした。


 時々、マリーから剣の振り方のアドバイスを受けながらモンスターを狩る。これはチュートリアルイベントというヤツなのかな。


 しかも、モンスターを倒すごとに文字通りレベルアップしていくので、そのたびにステータスが上がって剣が軽く感じるようになっていく。


 剣の鋭さも高まって、剣で与えるダメージもアップ。モンスターを倒していくごとに、次のモンスターはもっと倒しやすくなる。どんどん強くなっていく気分。


 ついに、並みのモンスターならば一撃で仕留められるようになった。

 更にスキルの全力斬りを活用して、モンスターを狩る。スキルのレベルも上がる。

 普通なら、必要な経験値は加速度的に増えていくのがゲームの常識だと思う。だが何やらおかしい。


 先ほどから、レベルアップに必要な経験値はずっと一定のようだった。そのため、レベルに関する数値は、1時間でとんでもない上がり方をしている。


 これはおかしいと思いながらも、モンスターを狩っている。やっとモンスターが、アイテムをドロップ。この場所に生息するモンスターのドロップは少し渋いようだ。


「凄い成長じゃないか! 貴方、本当に男性なのか?」


 マリーは事あるごとにオレを褒めてくれる。剣を上手く扱えて、モンスターを簡単に倒して、1時間以上も戦い続けている。それから、オレが本当に男性なのかどうか何度も疑ってきた。


 どうやらマリーの持つ常識によれば、男性は守られるべき弱い存在であるようだ。そういう設定を持つキャラクターらしい。


「今日は、もう辺りも暗くなってきたから、そろそろ町に戻りましょう」


 モンスターを何十匹か倒して、ドロップしたアイテムは4個だけだった。渋い。

 手に入れたアイテムは、町のアイテム屋で買い取ってもらえるのかな。


「これって、いくらで買い取ってもらえますか?」


 ドロップされたアイテム、黄色い薬草2つに、青い宝石2つ。手に入れたアイテムをマリーに見せながら、どれぐらいの価格になるか問いかけた。


「うーん、多分それ全部買い取ってもらっても1000ゴールドくらいかな。高めに見積もっても、1500ゴールドぐらい」


 ドロップされたアイテムを眺めて、マリーが答えてくれた。この調子では、25万ゴールドを稼ぐにはかなりの日数がかかるだろう。アイテムドロップなんて不安定な収入を当てにするのは無理そうか。他になにか稼ぐ方法を見つけ出さないと。


 とりあえず今日は、切り上げて町に帰ることにする。そして、手に入れたアイテムの換金へと向かう事にした。


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ユウ

Lv.66


STR:301

CON:396

POW:660

DEX:559

APP:21


職業:冒険初心者

EXP:1320

SKILL:61


スキル:全力斬り Lv.5


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