第5話 冒険者身分証明証
「すみません」
俺が建物に入ったことも気づいていないようで、虚空を見ながらボーっとしていた男性が居るだけ。
その男性の年齢は30台後半ぐらいだろうか、少し薄毛の頭に目が行くが、こんな受付のキャラクターも無駄に作り込まれていて、すごいなぁという感想も浮かんだ。けれども、普通ギルドの受付は女性とかじゃないのだろうか。なぜ、わざわざ男性のキャラクターを配置したのだろうか。
そんな事を考えながら、男性に声を掛けた。すると彼は、オレの声に驚いたのか、ビクッと一瞬身体をびくつかせて、やっとこちらに目を合わせてくれた。
「びっくりした」
反応した通りのことを言いながら、姿勢を正しこちらに身体も向けてくれる男性。そして俺に向かってこう聞いた。
「どうしました? 依頼ですか?」
「いや、冒険者身分証明証を作ってもらいたくて」
「え? 冒険者身分証明証ですか? 貴方が?」
町の中に入る前、長身の女性に見られたのと同じように、受付の男性も俺を頭から足の先までジロジロと見た。何か変だろうか。
あ、っとその前に、確認したいことを思い出したので先に、確認しておこう。
「その前に、聞きたいんですけれどゲームの運営側に連絡ってつきます?」
「はぁ……? ゲーム? 運営側? ギルド運営に連絡したいってことは、ギルドに就職希望の方ですか?」
やっぱり、相手に伝わらないのか。ここから『Make World Online』の運営チームに連絡を付けることができれば、ログアウトも出来るだろうと考えたんだけど。
「いえ、なんでもないです。じゃぁ冒険者身分証明証を作ってもらえますか」
改めて、冒険者身分証明証を作ってもらうようにお願いする。だが、彼は困惑した表情のまま。
「あなた、男性でしょう? 本当に、冒険者身分証明証を発行してもらいたいと? ギルドに就職希望じゃなくて?」
「え? えぇ、そうですが」
なぜ、いきなり男性かどうか聞かれるのか。よくわからない質問に戸惑いながらも答えると、受付の男性は額にシワを寄せて、ちょっと待ってくださいと俺に言うと、立ち上がり、部屋の奥へと行ってしまった。
なぜか、待たされる。
しばらく待つと、男性がその手に紙を一枚持って帰ってきた。そして男性は、紙の内容を読み上げて、オレに説明を始めた。
「男性の方が冒険者になる場合は、次の説明する規定を満たしていないといけないのですよ。第一に、冒険初心者Lv.25を超えた者。次に、冒険者ランクAの推薦状。最後に、男性冒険技術試験に合格した者。以上、3つの条件をクリアしないと冒険者ギルドの冒険者身分証明証を発行できません」
「はぁ……?」
オレが冒険者身分証明証を発行してもらうためには、どうやら、いくつかの条件が必要らしい。
冒険初心者Lv.25を超えるという条件については、既にLv.50に達しているから大丈夫だった。推薦状は持っていない。あとは、男性冒険者技術試験というのがよく分からなかった。
冒険者身分証明証を発行してもらえる条件を、一つ一つ確認していく。
「俺はもうLv.50なんで最初の条件はクリアしています。けれど、残り2つが条件を満たせてないので、ダメなようです」
そう言うと、男性がえらくびっくりしながらこう言った。
「へえ? あなたLv.25以上を既に達していると? 本当に? 念の為に、確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、いいですけど」
男性にレベル確認していいか聞かれ、それに大丈夫と答える。
「じゃあ、レベル玉で確認お願いします」
男性は、そう言うと受付の裏から出て、建物の奥へと俺を誘導する。レベルの玉?よくわからない単語が出たが、とりあえず男性の後に続こう。
案内してくれる彼の後ろをついて行くと、少し手狭な部屋の中に案内された。
中央には豪華な飾り付けでボーリング玉ぐらいの大きさの、玉が乗っかった台座がある部屋だった。
「それじゃあ、おねがいしますね」
玉を覗き込みながら男性は俺にそう言う。特に説明もなく、どうすればいいかわからないでいると、男性が気づいて教えてくれた。
「あ、ごめんなさい。手を玉の上にかざしてもらえますか」
片手でいいのかな? 疑問に思いながら玉に片手をかざすと、玉の中に何やら文字が浮かんできた。
------------------
ユウ
Lv.50
職業:冒険初心者
------------------
オレのステータスに関して一部分だけ、情報がその玉の中に表示されている。
受付の男性が、玉に表示される文字を見て、目を丸くしている。これで、1つ目の条件をクリアしていることがハッキリと分かるだろう。
「本当に、冒険初心者のLv.50になっていますね。これは、驚きましたよ。男性の方で、しかもその若さでLv.50! よっぽど努力なされたのでしょうね」
「はぁ……」
男性が羨望と尊敬の眼差しで俺を見てくる。だが実際は、昨日1日鍛えただけなのだけれど、これはプレイヤーの気分を向上させるイベントの一つなのかな。
「それじゃあ、後は冒険者ランクAの方の推薦状が必要ですね。知り合いの冒険者の方に、ランクAを持っている方が居ますか?」
居ないな、と言うかまずこの世界で知り合いが居ない。依頼状が手に入らない。
「知り合いに、ランクAの冒険者の人は居ません」
「それじゃあ、ギルドの依頼で出しましょうか?」
依頼? 推薦状を依頼で書いてもらえるということなのか。
「依頼で書いてもらえるのですか?」
俺の疑問に男性が答える。
「えぇ、珍しいことですけれど、依頼でランクAの冒険者と知り合って、能力を確認してもらってから書いてもらう方も居ます、ただ金額のほうが……」
しまったな、やはりお金がかかるのか。
「そうですよね、お金かかりますものね。ちなみに、価格はいくら掛かりますか?」
男性は、顎に手を当てて考え始める。
「そうですねぇ、最低でも25万ゴールドは必要になるかもしれません。ランクAの方の依頼金額が最低25万なのでね。あくまで最低金額なので、受けてもらえるかはまた別ですけれど……」
まだ、この世界の金銭感覚がわからない。なので、それがどれくらいの金額なのか分からないのが、万という単位にそれなりの金額であることが感じられる。しかも、最低金額というのが怖い。
「ちなみに、男性冒険技術試験ってなんですか?」
気になっていた、男性冒険技術試験というものについて聞いてみた。
「それはですね、男性の方が冒険者になっても大丈夫なのかどうか、ギルド側で実力を試験をさせて頂いているのです。試験の内容は、詳しく話せない規則になっているのですが、ただ、Lv.50ということなら、試験を失敗する事はなかなか無いと思います」
それは良かった、問題はお金だけか。
受付の男性にお礼を言ってから別れて、ギルドの建物を出る。
念のためにログアウトを試してみたが、やはりダメだった。
結局、何をすればログアウト出来るかわからなかった。とりあえずの目標は冒険者身分証明証を作ってもらって、ゲームを進めること。
ある程度イベントを進めていって、ログアウトできるかどうか試すことだ。
依頼を出すためのお金を貯めるために、俺は再びモンスター狩りに出て稼ぐことにした。町には商人が多く居たようだし、モンスターを倒してドロップしたアイテムを買い取ってくれるだろう。それで金を稼ぐ。
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