第4話 町へ
俺は、町に向かって歩く。
昨日はすぐに森のほうに入ってから、モンスターを狩ってレベル上げするのに夢中で、周りを見る余裕はなかった。だが、じっくり見てみると、とても世界がリアルにできているのが分かった。木の一本、一本が本物にしか見えない。
草木にはしっかりと感触があり、歩くごとに草を踏みしめるような感触が足の裏に伝わってくる。近くに生えている草を手にとって見ると、細かな繊維まで見えるようだった。これが、ゲームの中とはとても思えない。つまり、これは……。
頭上には太陽の日が輝いていて、じんわりと暖かい。肌に当たる日光から暖かさを感じる。
深呼吸して空気を肺に吸い込んでみると、いろいろな匂いがして、気持ちが良い。田舎にある実家を思い出させる。
「これは、すごい技術だなぁ」
思わず感じたゲームに対する感想が、口から漏れる。VRゲームについての実際の仕組み技術に関しては、オレにとって難しすぎて正しくは理解していない。たしか、脳内に直接イメージを送ることで、脳内を錯覚させて完璧に近い疑似体験をすることができる技術だという。
それにしてもリアルだなと周りを見回して、改めて思う。
そう思い込みながら俺は、開けた道を歩き続けた。
***
おおよそ1時間ほど、踏み均されて人が通っているような道に沿って歩いて、町へと到着した。道中、モンスターには襲われることなく、特にこれといったイベントも起きることはなかった。
もちろんその間も、ログアウトができないか、色々と試してみたが結局ゲームから抜け出すことはできなかった。
最初の村に比べれば建物の数も多いようだが、まだまだ小さな町のようだ。
町の周りをぐるりと、木製の簡素な囲いをしている。モンスターの侵入を防ごうとしているようだが、よじ登って超えることができそうなぐらいの高さだ。モンスターに対する防護柵が、あの高さで大丈夫なのだろうかと少し不安になる。
道の先には、木の囲いがない部分がある。多分そこが町へ入るための門なのだろうか。あそこから町へ入るのかな?
門へと近づき、町の中へと入ろうとすると、町の方から鎧を着た門兵だと思われる女性が出てきた。
「ちょっと、待ちなさい」
「あっ、はい、なんでしょうか?」
その女性に呼び止められたので、立ち止まってその場に立つ。180cmあるオレと同じぐらいの、かなり長身の女性だった。
顔がキリッと引き締まっていて、かっこいいという評価されるような美人だ。
「見ない顔ね。商人にも見えないし、この町に何の用?」
「あ…っと、ギルドに用があってこの町へと来たのですが」
質問に答える。するとオレは彼女から、上から下までジロジロと視線を向けられるので少し居心地が悪くなる。
「もしかして、冒険初心者なの?」
「えぇ、まぁ、そうです」
昨日、冒険を始めたから冒険初心者だろう。ステータスにも、表記されている職業だった。
「近くの村から、1人で歩いてきたの?」
「はい、その通りです」
答えてみたものの、何か問題でもあるだろうか。不安になったが、そのまま正直に答え続ける。
「冒険者身分証明証は?」
「証明書?」
何だそれは? 持ってないぞと焦ってしまうオレ。
「その、証明証持っていないんですが」
「……そう、冒険初心者ということはまだ、作ってもらっていないのね、まずギルドに行って冒険者身分証明書を作ってもらいなさい」
数瞬の沈黙後、さらに疑わしそうに目を向けてくる女性。しかし親切にも作り方は教えてもらうことが出来た。
「わかりました、ギルドへはどう行けばいいですか?」
「入ってすぐのところ、向こうにあるわ」
なるほど、町に入ってすぐなのか。俺は、女性の指さす方向を確認する。それだけ言うと長身の女性は、すぐに町の中へと戻っていた。
町の中のどこからか近づいてくるのを見張られていたのかな。町に入ってすぐに、呼び止められて捕まったことから、そう考えたが見回しても、見張り台はない。
とりあえず、町の中へと入ってギルドに行こうかな。
***
オレは簡素な門を通り、町へと入った。
外から聞こえなかったが、意外と賑わっている。人々が集まって町のざわめきが、門をくぐることによって一気に聞こえるようになった。町の中には、こんなに多くの人が居たのかと驚く。
一目見て、活気のある町だということが分かった。人の往来も激しくて、真ん中の通りにはお店がいくつか構えられており、お客の呼び込みが激しい。
NPCとは思えない、人々が暮らしているリアルな町の風景。
「ん?」
かすかな違和感を覚えるのだが、その違和感の正体がわからない。
ぐるっと一周り見てみると、大きくカタカナで”ギルド”と書かれた看板が掲げられている建物を発見した。違和感の正体についてはとりあえず置いておいて、ギルドに行くことを優先する。
冒険者身分証明証を貰えるのは、ここだろうか。建物の中へ入ってみる。建物の中は薄暗く、静かだった。
中にいる人も、受付のようなテーブルで区切られている場所の向こう側に1人だけで、他には誰も居ないようだった。
とりあえず、オレは建物の中に入ってみる。
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