6-1.もう一人の幼馴染み
★・☆・★
「ほへー、こーんな短期間でこんなにも〜?」
「うむ、俺様とセリカの賜物だ!」
翌日。
納品のために集荷に来たチェストが、荷馬車を連れて俺様達の屋敷にやってきた。
相変わらず間延びした口調が特徴だが、こいつもマール同様に俺様の幼馴染みである男だ。
見た目、昔の俺様よりは劣るがなかなかの面構え。
俺様もだが、街にいた頃はよくつるんでは女どもにちやほやされてた仲だった。
「ふ〜ん? あの子にも錬金術教えたんだ〜?」
「俺様の助手だぞ。今までは……家事を頼んでたしな」
「頼み過ぎなくらいだけど〜。今は〜?」
「洗濯だ」
「ほんと頼み過ぎ〜」
「うるさい。彼女が進んでやってくれてるんだ」
代わりにではないが、俺様はポーション作り以外のほとんどを減量生活のために費やしている。
お陰で痩せてきてはいるし、身体も少し軽くなってきている。
この姿に少し見慣れてきてたチェストですらも、俺様の身体に変化があるのが見えてきたらしい。
「けど〜。ちみっとでも君の体が元の姿に戻ることはいいことだよ。街に降りないからだけど、女の子達の間では相変わらず君の話で持ちきりだし〜?」
「媚びてくる奴らは好かん」
「ま〜、その姿見たら敬遠されるどころか失望されるからいいんじゃなーい?」
「歩くのがしんどいのだ。行くわけがない」
「はいは〜い。じゃ、納品するね〜」
と言いながら、チェストは持ってきた木箱に慎重に俺様とセリカが作ったポーションを入れていき。
すぐ外にある荷馬車に積み込んでから、出発しようとする前にセリカがやってきた。
「……お菓子、作ったので良ければ」
「ぬ」
「え、いーいの〜?」
「これから街に戻るのなら、お腹が空くと思うので。マスター……も食べれるけれど、昨日のふすまクッキーだよ?」
「お、俺様は遠慮しておく」
「なんで〜? 何かあったの〜?」
「……昨夜全部食べて、今朝トイレにずっとこもってたんです」
「アッハッハ! 食い過ぎるなんてばっかじゃーん!」
「うるさい!」
あれは……あれは本当に不可抗力だったのだ!
夜中にどうも腹が減りすぎてしまい……言いつけを無視して、出したままにしてあったふすまクッキーのみをたらふく食べてしまった。
味はほとんど感じられなかったが、とにかく何かを口にしたかったので、全力で全部食べてしまい。
満足して寝たら……今朝酷い腹痛に襲われてトイレに駆け込んだわけだ。
セリカにも事情を包み隠さず話せば、自業自得だと言い切られたがな!
「……お待たせしました」
「わ〜、小さくて綺麗〜。お菓子って言うよりつまみに見えるけど」
「食事の代わりにもなるので。……どうぞ」
「いっただきま〜す!」
昨日同様、美しく盛り付けられたふすまクッキーのカナッペ風。
クラッカーのような茶色いクッキーの上には、一枚一枚違う盛り付けがされていた。
どれも実に美味そうだが、俺様は今朝散々な目にあったので懲りたのだ!
あれは食い過ぎてはいけない代物だと!
「ん〜! クッキーはザクザクしてるけど、上に乗せてあるものも、すっごく美味しい〜! これ食べ過ぎてお腹壊すクロの気持ちもわかるな〜」
「……マスターは何もつけずに食べたので」
「すまなかったと言ってるだろう!」
「はっはっは、ほんといいコンビじゃん〜?」
「ぬぅ」
実に美味そうに食うので手を出したくなるのだが、今日は我慢だ!
俺様はあのアイスを食べたい!
すると、セリカは俺様の気持ちを読んだかのように、例のアイスを俺様の前に出した。
「……セリカ?」
「お客様がいるから特別」
「ぬ」
「あー、それなーに?」
「アイスというものです。甘さは控えめですが、食べますか?」
「食べる食べる〜!」
しかも、今日は味が変えてある!
何かのベリーのようなものを加えているが、これは……?
「美味しい〜! なにこれ、冷たいのにさっぱりしてるし、なんかのベリーみたいなのが」
「……庭で取れたラズベリーというのを使ったんです。あとは、豆乳という豆の乳から作ったヨーグルトをベースに」
「それも、クロから聞いた異世界レシピからの知識? へー、結構簡素に見えて手が込んでる〜。うん、これならクロも元の体に戻れそうだね〜?」
「うるさい……」
せっかくの美味を味わいたいのに、自分のことを言われて旨さが半減しそうになった。
が、自分の身体が醜いのは俺様の自業自得だから強くは言えない。
目標である、セリカに【
が、ここで一つ思いついたことが出来た。
「チェスト、まだ帰る前に時間をくれるか?」
「いいけど〜、何するの?」
「少し確かめたいことがある」
「……マスター?」
「チェストには初めて見せるな、シャインを」
「まさか……」
とりあえず、思い立ったら即行動に移す!
俺様は二人を連れて地下の研究室に向かった。
「ここは案内されたことないけど〜、あれって」
「うむ。俺様がこの身体になった原因でもあるが。魔導具【
「なんか、すっごい魔導具なのはわかるけど。管に入ってるのって」
「エーテル液だ」
「うっわ〜、貴重な錬金素材をあんなにも」
「俺様の勝手だ!」
とにかく、こいつに一度錬成料理を食わせてみたくなってきた。
セリカは毎回不味いと豪語するが、果たして他人ならどうか。
もしチェストが不味いと言えば、俺様の味覚が変わってしまったのか。
違うのであれば、それはセリカか。
それを確かめたかったので、ちょうどセリカの夕飯になる予定のピザを取り出すことにした。
【TEST
TEST
右の培養管に料理名『ミックスピザ』を作成
左の培養管に素材名『糖質ゼロ麺ーうどんー』を75%まで作成完了
続けますか?
YES/NO?】
「わ、喋った!」
「俺様の造った魔導具だからな!」
「んで、僕になにさせようと〜?」
「あのピザというものを食べてもらう」
「食べればいいの?」
「ああ」
とりあえず、シャインに向かって手を伸ばした。
「解答は、YESだ! ピザを抽出!」
【諾】
「……マスター、多分チェストさんに食べさせても」
「それを知りたいのだ!」
「え、なに〜? 僕なに食べさせられちゃうの〜?」
「とにかく待て!」
球体に包まれたピザが、管を通って出て来て。
俺様の手に降りると、球体がはじけていい匂いがしてきたが。
「これはピザと言う異世界の料理だ。とりあえず食え」
「ふーん? マールに聞いてたけど、ほんとに錬成で料理作ってるんだ〜? じゃ、一口」
俺様は今にも食べたいのを我慢してチェストに渡して。
チェストは気にせずに、ひと口頬張ったが。
「……何これ、味ほとんどしない〜」
「……本当か?」
「やっぱり……」
では、俺様の味覚がおかしいのか?
だが、セリカの料理はチェストと同じく美味いと感じ取れたのに。
……何故?
「パンみたいな生地の食感はいいけど〜。しょっぱいとか辛いとかがすっごい薄いよ〜。これ本当にクロの魔導具で作ったの〜?」
「そう……だが、何故」
「原因は未知数。食材はよくても……料理にはまだ至らないかもしれない」
「僕もセリカちゃんに賛成〜」
これ美味しくないし〜、と奴はセリカにピザを渡していた。
セリカもひと口食べたが、すぐに首を横に振った。
「チェストさんの言う通り、味がほとんどしない。最初に食べたチキンライスと変わらない」
「ぐぬぬ……」
「まあ〜。クロでも失敗することがわかって嬉しいよ〜。俺様だし?」
「チェスト……」
「このシャインだっけ? 作れただけでも凄いじゃん〜。未だ嘗て、こんな魔導具作った錬金術師はクロだけだと思うよ〜?」
「褒めてるのかバカにしてるのか!」
「どっちも〜」
「お、前はぁああああ!」
殴りかかろうにも、この身体では意味がない結果に終わり。
奴は口直しに、少しふすまクッキーを食べて帰って行った。
「これでわかったでしょ? シャインはまだ料理するには至らないと」
「だが、俺様が口にした時はすべて美味かったぞ?」
「自分で造った……から、美味しいと感じたかもしれない。つまりは思い込み」
「思い込み、だと?」
「憶測でしかないけれど。とりあえず、今日のウォーキング」
「く……避けられぬか」
「終わったら、またアイス出すから」
「ぬおおおおおお!!!!!!」
シャインの原因はともかく、この身体を絞らねば!
とりあえず、格好を着替えてから取り組むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます