5-2.ふすまクッキー(セリカ視点)






 ★・☆・★(セリカ視点)







 これから作るふすまクッキーは……正直言うと、あまり美味しさを追求したお菓子ではない。


 どちらかと言えば、パサパサして食べにくいクッキーだと、私の身体に組み込まれている異世界料理のレシピには記載されていた。


 けれど、マスターの身体を痩せさせるには色々挑戦しなくてはいけない。


 ウォーキング以外にも、排泄行為を少しでも軽くしていくために!


 このふすまクッキーには役に立ってもらわないと!



「……これが材料なのか?」


「うん、これだけ」




 薄力粉

 ふすま粉

 スキムミルク

 砂糖

 赤唐辛子の粉

 ベーキングパウダー

 塩

 卵

 水





 シャインに昨日のうちに生成をお願いしてた材料を合わせて取り揃えて。


 作り方は至ってシンプルだから、きっとマスターでも出来るはず。


 このクッキーは保存食にもなるのでたくさん作った方がいい。



「まずは、卵と水以外の材料を量ってボウルに入れる」



 そして、よく混ぜ合わせてから卵と水も入れてよく混ぜ合わせて団子状にする。


 マスターのまだまだブクブクブヨブヨの手で大丈夫か少し心配にはなったが、トイレ掃除をするようになって手際が良くなったのか少しはマシにこねていた。



「ふむ、粘土細工のようで面白いな!」


「じゃあ、マスターのはすぐに焼く準備にして。私のは時間をおく」


「ぬ? 何か違うのか?」


「焼いた後のしっとり具合とかが。けど、別に大丈夫。次の工程は私がやる」


「わかった」



 マスターのこねた生地を、蝋で加工した紙に挟んで平たくする。そして、パン作り用に使う麺棒で薄く伸ばして。


 オーブン窯を予熱させたら、伸ばした生地の片面の紙を剥いで、包丁の背で縦横五当分すればいい。


 これをこのまま焼いてもいいが、取り出しやすさも考えてなぞった線の上からしっかりと切り込みを入れる。



「あとは焼くだけ」


「随分と簡単なのだな!」


「今のうちに、付け合わせを作る」


「は? クッキーだぞ? たしかに辛いものまで入れてたが、甘くないのか?」


「アイスとは違うの。あのままだと食べにくいから。ちょっと待ってて」


「うむ?」



 実はこのクッキー、材料からいってほとんど食事……主食向きのクッキーである。


 そのまま食べれなくもないが、レシピによると大概は何かを上に乗せたりして食べるのが普通らしい。


 なら、焼いてる時間を利用していくつかのディップを作ろう。


 途中までは、もちろんマスターに手伝ってもらった。



「その白いのはヨーグルトか?」


「ん。これでチーズを作る」


「は?」


「まあ、見てて」



 ヨーグルトを絹の布の上に載せて、ザルに置いて。


 私の力なら、水気を切るのは可能だから限界まで絞って絞って!


 出来上がったのは、ヨーグルトよりも白くて固い物体の出来上がり。



「これをクリームチーズと言う」


「それも俺様が召喚したレシピからか?」


「うん。少し塩気を加えたり、甘みを足せばすっごく美味しくなるらしい」


「甘さ!」


「ちょっと蜂蜜足すだけ。一枚のみ」


「くぅ……」



 私だって、本来は甘やかしたいところだけども!


 まだまだ、本来の美しさからかけ離れている今は甘やかしてはいけないもの!


 だいぶ痩せたとは言っても、まだ体重は175……寿命を安定させる68キロを目指すのだから、まだ3倍以上もある。


 心をオーガにするのよセリカ!


 これも全てマスターのため!


 だけど。



「……甘さを抑えたジャムちょっとならいい」


「本当か!」


「けど、一枚だけ」


「わかった!」



 この満面の笑みに弱いのよね、私!


 結局は少し甘やかしてしまい、焼き上がるまで他のジャムや載せるものを作ってから。


 ちょうど、窯の方も焼き上げが終わり、ミトンをつけてから取り出すといい仕上がりになっていた。



「ほう。普通のクッキーよりも、かなり香ばしいな!」


「けど、バター入れていないからしっとり感はないと思う」


「そうか。けど、一枚……」


「熱いからダメ。先にリビングで待ってて。一緒に食べたい」


「!……そうか。わかった」


「うん?」



 普通のことを言ったつもりが、マスターは少しどもってからリビングに行ってしまった。


 何か言ったかしら? と、ちょっと自分の言葉を思い返してみると……自覚してなかったが、感情を表に出してる言葉を言ってしまってた!



(い、いいいい、一緒に食べたいって言ってしまったわあああああああああああああ!!!!!!!)



 べ、別に今朝から一緒に食べてるんだし、間違ったことを言ったわけでもない。


 それに、マスターからは感情を少しでも表に出した方がいいと言ってもらったんだからそれも間違ってはいない。


 けど、だったらなんでマスターはあんな反応をしたんだろう?


 昨日の髪にキスよりは、だいぶ大人しい感情の表し方なのに?



(……とりあえず、仕上げ仕上げ)



 クッキーは一人につき五枚。


 そのひとつひとつに、クリームチーズやジャム、おかずになるような野菜の和物も載せて。


 出来上がったら、リビングで待ってるマスターのところへ持っていく。



「……お待たせ」


「おお!」



 けど、今はいつも通りだったからさっきのは気のせいではないかと思いかけたけど。


 とりあえず、休息の時間は大事なのでマスターの分をテーブルの上に置いた。



「美しいな!」


「このふすまクッキーは、食べ過ぎ注意だから。とりあえずこれだけ」


「食べ過ぎ?」


「食べすぎると……マスターの排泄行為がさらに酷くなる」


「なんと!」


「実は朝のブランパンと言うのも、これに入れたふすま粉を使ってる。だから、食べ過ぎないように調整してる」


「……わかった」



 なので、食事の祈りをしてから、まずは気になってたクリームチーズを口にする。


 ふすまクッキー自体はかみごたえのあるクッキーに仕上がっていたが、上のクリームチーズと一緒に食べると程よい甘さと絡んで美味しい。


 赤唐辛子を入れているが、辛さはほとんど感じない。



「うむ、美味いな!」



 マスターは、キノコ以外ならなんでも美味しいと言ってくれる。


 とても喜ばしいことだが、私の中にある異世界料理のレシピのお陰だ。


 調理技術なども、全てそのレシピのお陰。


 だけど、この三ヶ月近く、マスターはキノコ以外ほとんど残したことがない。


 とても嬉しいことだわ!



「うむ……うむ。甘くないクッキーというのもいいものだな。これはどちらかと言えば食事に近いが」


「正解。主食をこのクッキーで補うことも出来る。けど、一回につき五枚ほどがいい。あと、さっきは食べ過ぎで排泄行為が酷くなると言ったけど、規定量を守れば……もう少しマシになるはず」


「ぬ。というと……毎日起こるのか?」


「そこはマスターの体質もあるからわからないけれど……試してみる?」


「う、ううむ……頻繁に、か。そうか」



 そしてその日の晩。


 いつもどおりの食事だけでは物足りなかったマスターだったが。


 私がうっかり、保管し忘れてたふすまクッキーの残りを、なんと言いつけを聞いていたのにすべて食べてしまい。


 その翌日に酷い下痢となってしまったのだった。



「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


「……こればっかりは、マスターが悪い」


「すまないぃいいいいいいいいいい!!!!!!!」


「はあ……」



 まったく、我らが愛しきマスターの食欲にも困ったものだ。

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