4-2.しらたきのカルボナーラ
★・☆・★
二度目の風呂に入ってから少しして、俺様は気になることが出来た!
今まで……シャインが出来るまで、自炊というのはほとんどやってこなかったのだが。
ホムンクルスとは言え、セリカが作る料理はどれも美味だ。
だから、一度作るのを見てみたいと思って、彼女の横で見学させてもらうことにした。二ヶ月以上経って今更だとは思うが。
手伝うには、まだまだこの身体では不便が多いので却下されたのだ!
「ん。まずはしらたきの臭みを抜く」
「そのままではダメなのか?」
「こんにゃくにはアク……と言うエグミがあるの。だから、湯がくことでそれを軽減させる」
「ほう」
生成させたしらたきを適当な大きさに切って、短時間鍋で湯がいてザルに入れて水気を切った。
次に、卵、牛乳……と白い粉を取り出した。
「この白い粉がチーズ。カルボナーラのコクと旨味をプラスしてくれる」
「ほう」
それらをボウルに入れてよく混ぜて、次はベーコンを細く切って、玉ねぎを薄く切り、ニンニクもみじん切りに。
「フライパンに、植物油でもオリーブオイルと言う香りが強い油を引いて」
まずは、ベーコンを炒めて油を出すそうだ。
少しカリカリになってきたら、ニンニクを入れて香りを出し、次に玉ねぎを加えて炒める。
「玉ねぎに火が通ったら、水切りしたしらたきを加えて。塩をひとつまみ」
全体に具材が馴染んできてから、火を止めて先ほど作った卵の液体を入れて。
「ここは素早く。全体に絡むように混ぜたら、弱火で炒めてとろみをつける」
「おお! 美味そうだ!」
「ん。塩胡椒とチーズで味を整えて。牛乳でとろみを調整して」
皿に盛り付けて、粗挽き胡椒とチーズ、生卵を載せたら。
「……美しいな?」
「あと、豆腐のサラダに海藻のスープ。キウイも切ったから持っていく」
「おお! あの食材もか!」
下手すると、俺様よりシャインの扱いに手慣れているのではと思うが。
作ってもらうのに、文句は言えないし何よりこいつの手料理はどれも美味だ。
生成時に、異世界召喚で得たレシピを組み込んであるにしたって、生まれてすぐに料理が出来るとは思わなかったが。
まあ、何より美味い!
今からそれを食べられるのだからな!
「……どうぞ」
「うむ。いただくぞ!」
パスタとも違うらしいが、あのブニョブニョしたものがどう変化しているのか。
セリカが言うには、米に混ぜてるこんにゃく米と種類は似ているらしいから、 もちもちした食感なのだろうか?
あの半透明の麺状のものからは、やはり想像しにくいがとりあえず食べてみよう。フォークを手に取り、パスタのように巻いて口に運んだ。
「ん! かみごたえがあるが、ソースが濃厚で美味い!」
「……パスタは炭水化物だから、カロリーは高い。それをしらたきに置き換えた」
「今日はキノコもないし、なおさら美味いな!」
少しもちもちしていて、噛むのに時間がかかるが、卵とチーズの濃厚なソースで美味しく食べれるし、何より美味い!
とうふのサラダも、ドレッシング以外の部分は味気がないが、混ぜることで程よい味付けとなっていく。
カイソウのスープも優しい味わいで、カイソウ自体もクニクニにしてるが柔らかくて美味い!
今日はキノコがないのでさらに食欲が進むが何かあったのだろうか?
「キノコ……だけど。マスターの身体の毒素を抜く期間が定期的とは言え、週に一回だけだから、もしかしたら効きすぎかもしれない」
「効きすぎ?」
「ポーションの効能のように、マスターの身体には影響が強いのかもしれない。だから、様子見でキノコは少し減らして、こんにゃくの方を使ってみる」
「ふむ。あれはウォーキングよりもしんどいからな! お前の考察を信じよう」
「!……ありがとう」
今……今。
セリカが、ほんの少しだけ笑ったような気がした。
(美しい……美しいぞ!)
昔街などで見た、美し過ぎるハイエルフが如く!
いや、セリカは元々美しいのだが感情が伴うとさらに美しさに磨きがかかったのだ。
これは、もったいないと思えた!
「セリカ、お前はもっと笑え」
「…………え?」
「このクローム=アルケイディスが生み出したホムンクルスとはいえ、元々はハイエルフをモデリングした生命体なのだ。美しくないわけではないが、俺様が今はこの姿ゆえに、信じられないだろうが。俺様も元の姿に戻るように努力はする。そして、俺様の助手として隣に立ってくれないか?」
「……マスター、の?」
「うむ」
苦の方が強いと言えばそうだが、セリカは無理のないように俺様減量生活に手助けをしてくれる。
あれだけ痩せなかったのに、この二ヶ月で少しずつ身体の重みは減っているのだ。
一人だったら、あのまま肥えていたかもしれないのに、このホムンクルスのおかげで成功しているのだ。
愛想が少なくても、笑顔が少ないのはもったいない。
セリカには、これでも感謝しているのだ。
何より、まだ完全ではないがキノコも食べられるようになっているしな!
「笑顔……なっているのかな?」
「感情のコントロールは難しいからな。少しずつでいい、俺様にもセリカの感情を見せてくれ」
「……じゃあ」
セリカは俺様の食事中、すぐ横の席で紅茶を飲むのみ。
食事を必要としないわけでもないが、シャインで試しに作る料理を朝いっぱい食べるために、夜まで腹がいっぱいだから控えているらしいが。
そんなセリカが、席を立って俺様の近くまで立ち、何故か顔を寄せてきた。
って、ちょっと待て!
「せ、セリカ。何を……」
「私の感情を示すだけ」
「は?」
「ん」
と言って、俺様の黒髪にちゅっと音を立てて口付けたのだった。
って、ちょっと待てや!
「な、ななな、何を!」
「なんだかんだ。マスターは拒否出来たのに、毎日私の作るご飯を食べてくれるから。感謝の意を込めて」
「そ……そうか」
びっくりした……びっくりした!
主従関係があるとは言え、いきなり主人の頭に口づけを送るとは!
感情を表せとは言ったが、ちょっとやりすぎだ!
が、ここで拒否してもセリカの感情を押さえつけるだけなので俺様は咳払いをした。
「わ、わかった。ありがとう」
「ん」
とりあえず、セリカが席に戻ってからまた食事を再開したのだが、先ほどの口づけで照れてしまい、味がほとんど分からなくなってしまったのだった。
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