4-3.それは恋?(セリカ視点)






 ★・☆・★(セリカ視点)








 まさか……。


 まさかまさかまさかまさかまさかまさか!!!!!!


 こんなにも早くマスターに触れられる日が来ようとは!!


 ちょっと……ちょ〜っとだけ髪にチュッとキスしちゃっただけだけどぉおおおおお!!!!!!


 マスターから許可は得たんだし、怒られていないんだから大丈夫なはずぅうう!!!!!!


 それにちょっとずつでも私の感情を表に出していいんだって!!


 けど、あまり出し過ぎると異常に見られるだろうから、適度に適度に。


 思わず、マスターの三度目の入浴最中に、鼻歌を歌いながらも、ルンタッタとスキップしつつ食器の後片付けをしてしまう!!



「ああ……ああ! マスターが感情をあらわにするのを許してくれるなんて!」



 しょっちゅうはダメでも、例えばマスターが嫌いなキノコを食べた時に、あのおぐしをなでなでするとか。


 キスについては、思わずはっちゃけた私だったからちょ〜っと出過ぎた真似をしでかしてしまったし。


 けど、マスターは子供ではないにしても、褒めたりする時にあのお髪に触れるのはいい機会かもしれない。


 適度に乾かしてはいたが、艶やかで美しい黒髪。まるで夜の帳か、黒曜石のよう。


 まだまだ身体は痩せてはいないが、あのお髪が似合う体格に戻ったら私はどうなるのだろうか。


 ただ猫っ可愛いがられるだけで満足出来ないかもしれない!



「……私は、どうしたいんだろう」



 マスターによって生み出された生命体とは言え、人間でもハイエルフでもない。


 それらに似せた、特殊な生命体だ。


 まだ一歳にも満たない赤児のようなものが、抱いていけないものを持っているかもしれないが。


 マールドゥやもう一人の幼馴染みは、マスターに友好の証は持っていても、それ以上の気持ちは抱いている感じはない。


 醜い容姿になっても、マスターの人となりのお陰で敬遠されていないからか。


 なら、



(……多少でも、私がマスターを矯正していけば。マスターはもっともっと魅力的な人間になるかもしれない! そうすれば、私自身にもっと気持ちを傾けてくれるかもしれない!)



 つまり。


 マスターが私に好意を抱いてくれるかもしれない!


 擬似生命体と、製作者でなどあり得ないと思われるだろうが、マールドゥには頼んだとも言われたし。


 私自身、今のマスターに猫っ可愛いがられたいことは、つまりそう言うこと。



「……私が、マスターに恋をしている?」



 そう思えば、マスターへの執着心も自ずと納得出来るものだった。



「……シャインに一度相談に乗ってもらおう!」



 片付けを終わらせてから、地下室に降りてシャインの前に立った。



【どうしたのです、セリカ。明日の朝食の準備ですか?】



 緑柱石ベリルの魔石がチカチカと光ってから、シャインは私に話しかけてきた。


 ある意味私のお母さん。けれど、同じ製作者によって生み出された擬似生命体に変わりない。



「……今から言うことを馬鹿にして聞いて欲しくないの」


【了?】


「……私、マスターに恋してるかもしれない!」


【……今更では?】


「はえ?」



 やっぱり、シャインには見抜かれていた?


 私のお母さんだから……か、にしても。


 そんなすぐに即決されるとは思わなかった。



【通常時はともかく、我らが創造主に執着を抱いてる汝の願いは、常にそこにあると見た】


「そ、そんな……に?」


【執着=イコール恋慕とも言い難いが、汝が創造主に抱いている想いはそれと同じと思える】


「……そっか」



 マスターに抱いている想いが……恋。


 まだまだ淡い?ものかもしれないが、マスターにとって私は必要な存在。


 それが助手であってもなくても、お側にいられるのであれば。


 もっともっと、マスターの体型改善ダイエット生活を頑張らないと。


 とは言え、年単位で考えなければ、マスターの身体を壊すのにかわりない。


 だから、今はもう一つ試したいことがあった。



「それとは違うけど、シャイン……この世界のキノコは解毒作用が強いように思うの。それはわかる?」


【了。とは言っても、最初のうちだけかもしれない。創造主の身体に馴染めば、それはいずれ収まる】


「二ヶ月以上経っているのに?」


【それまで穀物をメインに食してきたゆえに、身体に蓄積した糖質と脂質を除去するのに……おそらく異常な速さで分解しようとしている。あとは、胃腸の循環がうまくいっていないせいか】


「……なら、調整はもちろんだけど。食べさせた方がいいわね」


【諾。我もそう思う】



 だとすれば、落ち着くまではキノコをもう少し入れた方がいいかもしれない。


 マスターは嫌がるだろうけど、それなら『見た目』を変えれば良い。


 たしか、細かく砕く方法は嫌いじゃないと言っていた!



「ありがとう、シャイン。また来るわ」


【了。健闘を祈る】


「戦うわけじゃないんだけど」


【セリカの恋情についてだ】


「うん、そうね」



 それに出来れば、私も美味しいものは食べたい。


 ならば、食事も一緒に取ろう!


 マスターに、少しでも気にかけてもらえるように!


 けど、寝室までは共に出来ない。


 マスターのいびきはかつてないほど、排出同様に下品な声を扉越しに響かせるからだ。


 この後覗いても、それは同じで。


 仕方なく、隣にあてがわれた部屋で眠りにつくのだった。

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