第2話 Reflection

「なんらよ、あるふ…なんがい"い"てぇのか?」

毛布にぐるぐる巻き包まり、ガチガチとソファの上で震えるアレックスが自分の顔を腕を組んでいい加減そこが抜けるくらいに見ているアルフに声をかけた。

上等なスーツ、それに負けず劣らずピカピカに磨かれた革靴を着こなした若い男性が部屋に立っていた。

黒縁のメガネときちんと切りそろえられた金髪。

いかにもビジネスマンの出で立ちだ。

「いや。アレックスが風邪を引くなんて、見たことなかったから物珍しくてな。滅多にないことだろうし…。ほら、よく言うだろう?なんとかは風邪ひかない」

アルフはちょっとネクタイを直しながら、彼を見下ろした。

「でめえ、おれらってに"んげんなんらから、かれくらいひぐ……ぐすぐすっっ おばえにもうづじでやろうが?」

「生憎だな、来る前に薬飲んできたし、俺はいたって健康体でね。誰かさんと違って免疫機能が絶好調さ」

思わず2人は睨み合い、火花がバチバチと飛んでいた。

何だか宿命のライバルといった感じだ。

ちょうどその時、ドアが開き、ローナともう一人見知らぬ女性が入ってきた。

ローナはアルフがいることに驚いた。

「アルフ、来てたの?情報が早いのね」

アレックスこいつに限らず。はい。これ、見舞いの薬です。懇意にしている調剤師に『特別に』調剤させた漢方薬だから、飲ませてやってください」

アルフは胸ポケットから白い小さな袋がいくつか入ったビニールの小袋を手渡した。

アレックスはローナに向き直ったアルフの背中を睨みながら、グスッと鼻を鳴らした。

鼻の頭が真っ赤になっていて痛々しかった。

「でめい、ばたおれれじんたいじっげんしようっでんだろう?」

「同じ方法を2度使うと思うか?」

「い"や、」

「だったら、飲めよ。すぐに良くなるからさ」

「い"やだ…おばえにかじをづぐりだぐねい。だいだい、ぐずりをおぎにぎたんなら、すなおにおいでげよ。がわいげのない」

「どっちが」

アルフとアレックスのやりとりに、ディアーナはぷっーと、吹き出してしまった。

その声でローナは彼女のことを思い出し、彼らの前に引き出した。

「あ、ご紹介が遅れてごめんなさい。こちらMs.ディアーナ・アーネスト。私の古い友人なの。ディアーナ、こちらがアレックス・オッドにアルフレッド・オッセン。アレックスはね、この部屋の主で、アルフは貿易商の社長さんなの」

「社長と言うほどでもありませんけどね。はじめまして、Ms. アーネスト」

アルフが少し微笑んで手を差し出し、ディアーナと握手を交わし、軽く手の甲にキスをした。

「めずらじいな。ローナのおぎゃぐとは。…すませんね、ごんながっこうで…」

ちょっとまともな声でアレックスが言った。

それを聞くと、ローナはキッチンでお茶の準備を始めた。

アルフは一人がけのソファに座るように彼女の促し、背後に回るとコートを脱ぐのを手助けした。

彼女は当たり前のように彼にコートを預け、そして腰を下ろした。

アルフはキッチンのローナに声をかけるとコートをハンガーにかけた。

彼の女性に対する行動はそつがなかった。

「あら、私なら気にしませんし。突然訪ねてきた方が悪いんですわ。それより、アレックスさん、横になっていなくて大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ。ほっといたって死にゃしません。こいつの体は化け物並みですから」と、横からアルフが口を出した。

「うるせー!ひ弱な誰かざんとは、鍛え方がぢがうんだよ!」

全くアレックス虫の居所は悪いようである。

「ほう!よく言った!本当にそうかどうか、試してみるか?」

アルフは抵抗できないのを承知の上で、挑発していた。

ローナはすっかりお茶の用意を整え、トレイに一切合切を乗せて運んできた。

「さあ、お茶にしましょう」

「さて、そろそろ退散しますか」

アルフが腕時計を一瞥すると、つかつかとドアに向かっていった。

「えー、帰っちゃうのアルフ?」

「ローナさん、すみません。お茶はまたの機会に。ちょっと面倒な会議に出なければなりませんので」

「そう、残念だな…」

ローナは少し寂しげに呟いた。

「かひぎじゃなぐて、彼女のどごろにでも行ぐんだろ?」

アレックスが揶揄うように言ったが、次の瞬間、アルフの投げた数冊の本に打ちのめされていた。

何事もなかったようにアルフは部屋を出て行こうとしたが、気のせいかほんのり頬に赤みがさしていた。

「失礼。ローナさん、あの薬、絶対あいつに飲ませてやってください」

「うん❤️」

「こらっっ!気安くひぎうげるじゃねぇ!」

アルフはディアーナに一礼すると、アレックスの部屋を出た。

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