ア・イ・シ・テ・ルのサイン

1月6日は仕事始め


仲間は休みが終わった事に寂しさを感じているようだったが、僕だけはこの日を心待ちにしていた

とにかく体調を整え、ベストな状態で幸子と逢う事だけを考え、節制した休暇を過ごしてきた


僕には思惑があり、いつもと違う場所で待ち合わせた

ラインで詳細な場所を教えながら、間もなく幸子が到着するはずだが・・・

エスカレーターから降りてくるはずの幸子がなかなか来ない

少し心配していると後ろから


幸 どうして無視するの?

僕 え?

僕 何故、後ろから来る?

幸 だって全然義明が気づかないから、通り過ぎただけだけど

僕 あっ、そう言えばその服さっきすれ違った人だ・・・

幸 気づかないとか酷いw

僕 髪型違うよね?

幸 違わないけど、美容院寄って来たよ

僕 どうりで髪型丸いと思った

幸 マスクも深くしていたからね

僕 ソレってわからなくても仕方なくない?

幸 そうだねw


美容院に寄って、多分新しい服で来る幸子

僕はその気持ちが凄く嬉しかった


僕 風邪治った?

幸 だいたいね、義明は?

僕 もう完全体です!

幸 で、何処に連れて行ってくれるの?

僕 こっちだよ


僕は、幸子をエスコートして予定通りにラブホテルへ直行した


幸 え?

幸 いきなり?

僕 うん


正直、幸子の反応は予測できなかったが、僕に任せてくれる様子だ

前回は二人とも相当酔っていたし、体調もかなり悪かったので愛し合う事に集中できていなかった

僕はどうしてもリベンジがしておきたくて、この日の為に体調を整えていた

多分、僕の言い回しで幸子にもその事は伝わっていたのだと思う

流石に確認は取っていないが・・・


僕達は深く愛し合い、もう互いになくてはならない存在だった

それから食事をし、夜景の見えるバーに移動して今後について語り合った


僕も幸子も今日で最後だとか、もう逢えないとは思わなかった

チャンスがあれば逢う

チャンスがなくても作る

時間が無くても、僕が弾丸で逢いに行く


そんなこれからを、夢のように誓い合った

果てしなく甘く、希望を絶やさずに


でも今夜は帰らなくては・・・

もし、幸子が朝まで一緒にいたいと言えば

僕は応えただろう


もっとも幸子はそんな事を言う女ではない

意地悪と称する我儘を言う事はあっても、それを押し通す事はしないのだ

僕は、いつものように遠回りをして、幸子といる時間を少しでも引き延ばしたが、結局は大人しく家に帰った



それからも、僕と幸子は時間を見つけては愛し合い、語り合い

逢えない時間も密に連絡を取った


そして最後に幸子に逢ったのは、引っ越しの二日前

僕の仕事の合間に、幸子の家の近くの喫茶店でコーヒーを飲んだ


僕達は到底、他人には聞かせられないような馬鹿なカップルのような話題も含め、二時間程度の時間を過ごした

後ろ髪を引かれながらも、幸子を家まで車で送り届け、ふと思いついたので

ブレーキランプを五回踏んで、バックミラーの中の幸子を見ながら仕事に戻った



幸子は引っ越しの日に、家から新横浜まで車で送って欲しい等と戯言をラインで要求して来るが、僕が応じようとすると相変わらず申し出を取り下げていた

もしかしたら、幸子は僕に無理を言って、応じてもらえる事で愛情を確認していたのかもしれない


幸子が横浜を去る日、僕は普通に仕事をしていた

3時頃ラインが来た


幸 新幹線乗りました

僕 本当に乗ったんだね・・・

幸 うん、しょうがないよね

僕 そうだね

幸 また逢おうねw


“また逢おうねw”


僕はこの言葉を文字で見るだけで満足だった

僕が幸子を必要としている様に、幸子も僕を必要としてくれている

距離は離れてしまうが、僕はやると言ったらやる

逢うと言ったら必ず逢う

何回でも逢う


僕は幸子とのこれまでを忘れない

勿論、これから刻む幸子との時間も忘れない

幸子にも覚えていて欲しい

だからこの文章に残す事にした


この文章は手紙

幸子に向けて書いた手紙

他の誰にも読んでもらえなくてもいい

幸子に届けば、それでいい


次に逢う日の約束は未だしていないけど

幸子が望むなら

僕はすぐに飛んで行くだろう

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

LONG LOVE LETTER 小川三四郎 @soga-bee

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ