謎解き(尋問)

明けてクリスマスイブ


代休を取っていた僕は、家でクリスマス用の料理を作っていた

家族を喜ばせる為、いつもと違ったハレの日の少し凝った料理

もう子供は喜ぶ年頃ではないが、それでも妻は僕のそんな行動に満足してくれていたと思う

そう、別に僕の家庭は不安定ではない

寧ろ円満で幸せな家族なのだろう、僕も不満はない


夕食を終えたあと、僕は幸子にラインを送った


僕:明日お昼休み空いてる?

幸:大丈夫よ

僕:じゃあランチね

幸:何処で?

僕:幸子が選んで

幸:わかった、考えておくよ

僕:では1時にいつもの角で

幸:はーい

僕:忘れてたw

幸:何を?

僕:メリクリ!

幸:メリークリスマスw


今週末は幸子の送別会、僕は時間の許す限り幸子といたかった

ところで、幸子の引っ越しは1月の中旬になった

年末年始は幸子も家族の目を盗んで逢う事は難しいようだが、6日を過ぎればまだまだ逢えるらしい

僕は当然、次の約束は1月6日にしてもらった



送別会も二次会も無事に終わり、僕たちはいつものように再合流

幸子は記念品等で荷物が多かったので、僕は家の近くまで送る事にした

途中、最寄り駅のファミレスで一緒にコーヒーを飲んだ


僕 休み明けに逢う約束しといて、本当に良かった

幸 そうね・・・

僕 そうじゃなければ、まともではいられなかったかも

幸 泣いてくれたかな?

僕 多分・・・

幸 泣き顔見たかったかもw

僕 本当に?

幸 滅多に見れそうもないから

僕 見せないよw

幸 残念だわw


重い方向に進みそうになっても大丈夫だった


僕 折角だから、いくつか謎解きしておきたいんだけど

幸 謎解きって?

僕 不可解な幸子の態度の真意を聞いておきたい

幸 そんなの聞きたいの?

僕 聞きたい

幸 どうしても?

僕 冥土の土産にしたい

幸 死ぬの?

僕 ある意味、そのようなものだから


幸子は少しのけぞり、含み笑いで僕を少し睨んだ後

軽い溜息をついて言った


幸 わかったわ、何でも答えてあげるよ

僕 まず、新横浜に行った時の事だけど

幸 行ったっけか?

僕 スターダストの帰りだよ!

幸 わかってる・・・


新横浜事件の真相は前出の通り・・・


僕 もう一つ

幸 まだあるのー?

僕 重要だから

幸 何?

僕 熱海の夜だけど・・・


熱海事件の理由も前出の通り

僕は二つの大きな謎を解明して、壮大な濃い恋愛だったと改めて思った


恋愛だった?


いや、まだ終わらない

終わらせない


僕は決意を新たにしたが、その事は特に伝えなかった


タクシーを拾い、幸子を家の前まで送り届け

僕もそのまま家に帰った


多分、泣こうとすればいくらでも泣けた

でも、僕は終わらせる気がなかったので、泣く必要はないと自分に言い聞かせた


明日からは休みだが、今回の休みは早く終わって欲しかった

何故なら、休みが終われば幸子に逢えるから

僕は、体調を回復させる事だけに気を使い、10日の休みを節制して過ごした


余談だが、僕と幸子は熱海のホテルで空調の調整に失敗し、それ以来二人ともずっと風邪らしき症状から回復できずにいた

送別会の二次会カラオケでは、いつもの幸子の美声はドスの効いた迫力だった

そんな事さえ今となっては楽しい想い出の一つ



年始休暇は穏やかに過ぎていったのだが


幸:今、義明の家の近くのショッピングセンターにいるよw


もうすぐ休みも終わるから、ご主人も勤務地へ移動したのだろう

連絡をくれたなら逢いに行こう


僕:OK、今から行くからランチしよう

幸:娘といるから無理ですw

僕:そうか、ではごゆっくり

幸:はーい


何の連絡だ?

特に気にしないでおいたのだが、その夜20時頃


幸:お腹すいたー

僕:わかった、何か食べに行こうか

幸:えー、ご家族に怪しまれるからダメだよ


それは承知の上

僕は着替えながら、適当な嘘の為の映画の時間を調べていたのだが・・・


僕:大丈夫、30分弱で行くから待ってて

幸:ダメだって

僕:映画行くって言って出るから平気だよ

幸:とにかくダメなの、少し意地悪しただけだからゴメンネ


僕は怒るどころか、こんな態度の幸子を愛おしく思った


僕:意地悪したの?

幸:うん、ごめんなさい・・・

僕:全然、意地悪になってないよw

幸:え?

僕:こんなの嬉しいだけで、全然意地悪になってない

幸:・・・

僕:舐めんなよ!僕は多少無理してでも幸子になら逢いに行っちゃうよw

幸:そうだね、義明を侮っていたかも・・・

僕:まいった?

幸:まいりましたw


たかが車で30分弱の距離、これからの事を考えたら隣の部屋に行くような気軽さだ

僕を困らせようとする幸子は、どんな態度を期待してくれていただろうか?

これはいつか、新たな謎解きとして尋問してみようと思う

いつか・・・


僕は何事もなかったように部屋着に着替え、もう出かけない事を自分に課すように缶ビールを冷蔵庫から出した



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る