神をなぎ倒してでも

デートで江の島に行くと、高確率でそのカップルは別れてしまう、と言う都市伝説があるらしい

なんでも江の島にいる神様は女性で、幸せそうな恋人同士を見ると嫉妬をして別れさせるそうだ


僕達は錘を背負っているので幸せそうな恋人同士ではない

そもそも目的地は鎌倉なので、多分江の島には立ち入らない

もっと言えば、江の島の神様にどうこうされなくても、2か月弱で離ればなれになる事は決まっているのだ



僕が土曜日に終日出かける事など、かなり久しぶりな事

妻に何処に行くのか聞かれたので、後輩主催のBBQと嘘をついた

その類の催しは可能な限り避けるのが僕だが、特に問題視される事はなかった

流石の僕も、出かける前に顔を崩すような事はしていないらしい


予定通りの駅で待ち合わせ、僕たちは鎌倉を目指した

小町通を歩きながら、1つの質問をしてみた


僕 貴方は何て呼ばれたいの?

森 幸子とかサチとか呼ばれる

僕 では、幸子って呼んでいい?

森 いきなり呼び捨て?

僕 じゃあ幸子さんにしようか?

森 なんか、舅に呼ばれてる感じがするわ・・・

僕 では幸子で


ここから表記が森→幸に変わります


幸 じゃあ私も義明にするわ

僕 いいよ幸子

幸 義明w

僕 ・・・イマイチ慣れないね

幸 そのうち慣れるよ、ヨ・シ・ア・キw


幸子は順応性が高いようだ

僕も頑張って幸子に慣れねば

小町通を抜け、鶴岡八幡宮へ

折角なのでお参りして、おみくじを引く


僕 初めて凶引いたよ、凶って本当にあるんだね

幸 私も凶なんだけど・・・


二人でおみくじを並べて絶句して・・・

そして何故か無性におかしくなり笑った


江の島の神様には近づかない予定だったが、まさかここで凶で諫められるとは


でも僕は

神が僕と幸子の道を塞ぐなら、神をなぎ倒して進むのみ

と、心に誓っていた


江ノ電で名所を巡る

時々手を繋いだり、腕を組んだりしながら


鎌倉は横浜からほど近い観光地

誰かと偶然出会っても、誰かに見られても不思議ではない

幸子は気にしていた様子だが、僕は誰かに見られても良い

寧ろ、誰かに見られて大事になっても構わないと思っていたのかもしれない


江ノ電は時折通勤ラッシュのような混み方になる

僕は幸子を守る為、抱きしめるような恰好になった時、幸子も僕にしがみつくように手を回して来た

人目も憚らず、まるでチークダンスのように強く包み込むように僕たちは抱き合っていた

時折見せる艶めかしい幸子は、この世のものとは思えない程の美しさだった


鶴岡八幡宮と長谷寺で都合2回の参拝をしたのだが、僕の願いはいつも同じ


“幸子ともう一度、ここに一緒に来れますように“

他に望む事はなかった


帰りの東海道線の中での事

幸子は江ノ電のパンフレットを見ながら


幸 これはホテルかな?

僕 そうだね

幸 鎌倉帰りに藤沢で泊まる人とかいるのかな?

僕 いると思うよ、何なら今から泊まる?


幸子は何とも言えない妖艶な笑みを浮かべ

僕に持たれかかりながら続ける


幸 それは無理だよ、女の子は泊りには準備が必要なのよw

僕 ん?


ん?

どうした?

新横浜アゲインか?


僕 それは事前に分かってれば泊まれるって事?

幸 んー・・・泊まるのは厳しいかもw


なんやねん?

なんやねん?

なんやねん?


僕 では泊りじゃなければ、泊まれるって事?

幸 何それ?

僕 からかってる?

幸 ごめんw少しw


楽しんでいるようだ

ならば負けずに


僕 よく分かったよ

幸 何が?

僕 わかったから、来週の木曜日は休みだよね?

幸 そうだけど

僕 その日、1日僕にください

幸 いいよw

僕 事前に準備して来てね

幸 何の?

僕 泊まらないけど、泊まれる準備だけど

幸 だよねー・・・いいよw

僕 言っとくけど、もう遠慮しないよ

幸 えーw

僕 ここで遠慮する程、人間できてないよ

幸 わかったわw


つまり、昼間っからラブホテルに行くお誘いにyesをもらった

誰が何と言おうと、僕の勘違いではない

しかし鉄は熱いうちに・・・


僕 今夜、泊まらなければ泊まれるって事?

幸 だから今夜は私が準備不足なの、義明は話し理解できてる

僕 勿論できてるけど、勢いで・・・

幸 勢いw


もう焦る事はない、機は熟した

僕は彼女を最寄り駅まで送り届け、家路に着いた


家に帰り着いたのは夜の8時くらいだったが、正直妻に嫌味を言われないギリギリの時間だったと思う

もし、今夜泊まらなくとも泊まっていれば、良くて帰宅時間は終電間際だっただろう

幸子程ではないにしても、僕も準備ができるに越したことはない


その日を迎える前日

幸子からのライン


幸 ゴメン、明日都合悪くなった

僕 そうか、じゃあ変更しよう

幸 そうね、でも当分都合付かないかもしれない、結構予定詰まってるの


そうか、やはり躊躇したか・・・

鉄は熱いうちに、と思っていたが

こうなっては抗ってもみっともないだけだ

僕は待つ事にした


僕 では、都合つきそうになったら連絡ください

幸 ゴメンね・・・

僕 大丈夫、無理するなよ

幸 ありがとう


本当はこんな余裕は全くない

もう12月

あと1か月も残された時間はないのだ

それでも、ここで女々しく縋るのは得策ではない

と、言うよりも、そんな無様な姿を惚れた女に見せたくはない


一日千秋

そんな言葉通り、僕は胸が締め付けられる思いで待った

何度僕から連絡しようと思った事かわからない

意地を張って時間を無駄にしているのは分かっていた

でも男として、意地で待った


そして連絡が来た


幸 忙しくて連絡できなくてゴメンナサイ

僕 大丈夫、男の子だから

幸 何それ?

僕 そういう事だw

幸 今度の火曜日お休みにしたんだけど、どうかな?


火曜日・・・

絶対休めない日だ・・・


僕 その日は難しいけど、午前中で終わらせるから昼飯行こうか?

幸 無理しないでね

僕 全然平気、午前中あれば大丈夫

幸 じゃあランチで

僕 楽しみにしてるよ


結果的に、ここで待てたのは大きかったと思う

幸子はそこまで忙しかったわけではないだろうが、やはり躊躇をしていたのだと思う

そこに、こちらから欲望丸出しで詰めよれば結果は言わずもがなだっただろう

僕の美学は間違っていなかったのだ


僕は予定通りに午前中で仕事を片付け、彼女の指定する駅へ向かった






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