新横浜事件

新横浜は新幹線の駅で交通の便が良いからか、多くの商業施設があるビジネスの街

しかし、少し奥に入ると横浜でも有数のラブホテル街だ


駅前でいくつかカフェを覘いたが、間もなく閉店の店ばかりでお茶を飲む店がなかなか見つからない

すこしづつ奥に向かって店を探す僕と彼女


僕 こんな所を二人で歩いて、誰かに見られたら完全アウトだね

森 どうしてですか?

僕 まず時間的にアウト!

森 そうですね

僕 それよりも、新横がそもそも大アウト!

森 なぜ?

僕 新横はラブホテル街じゃん、知らなかったの?


得意の小悪魔的な表情で笑みを浮かべ


森 そうなんですね、知りませんでしたよw

僕 そう言う事にしとこうかw


ホテル街を目前にして1軒のカフェ


僕 ここで少し飲もうか?

森 そうしましょう


時刻は23:00を廻っていた

いつものようにとりとめのない話しをしながら飲む

時計の針が天辺を指す頃、店を出て僕たちは手を繋いで歩いた


僕の選択は


新横浜駅


どんな言い訳をしても、この時彼女からOKのサインが出ていたのは明白だった

それは僕も望んでいた事

それでも僕は駅への道を選んだ


勇気がなかったのか

家族の事が頭に浮かんだのか

彼女の立場を考えたのか


どうして前へ進まなかったのか、未だに自分がわからない

据え膳食わぬはなんとやら

こんな言葉をよく聞くが、まさか自分も食わぬとは・・・


彼女はJRで戻り、僕は地下鉄に乗って

各々帰路に着いた


終電1本前の地下鉄の中で、何故進まなかったのかを冷静に考えていたら携帯が震えた

彼女からのライン?


妻:随分遅いけど、吐いたりしてないよね?

僕:大丈夫、もう地下鉄乗った

妻:先に寝るから

僕:わかった


続いて今度は本当に彼女からのライン


森:お疲れ様w今日も楽しかったです

僕:こちらこそ楽しんだよ

僕:東横線まだあるよね?

森:大丈夫です

僕:遅くなったから気を付けてね

森:ありがとうございます

僕:おやすみなさい

森:おやすみなさい


僕はどうして、家路に着いているのだろうか?

妻には連絡入れれば外泊できたよね?

なんで進まないの?

お前はどうしたいの?

どうなりたいの?

馬鹿なの?


?を自問しながら僕は歩いていた

それは布団に入っても続いたが、自分に返す答えは見つからなかったが、それでも無理やり答えてみた


僕は臆病な男だが、真摯に彼女に向き合っている

好きを伝えてもいないのに襲うなど、大切な相手にするわけにはいかない

その時が来れば僕も遠慮はしない


その時?

その時なんて来るのか?

その時が来る前に時間切れにならない保証はあるのか?

そもそも、今がその時だったのでは?


こうして不毛な自問自答は、週明けまで昼夜を問わず続いた


後に彼女にこの時の事を聞いてみた


僕 新横浜で遅くなった時の事覚えてる?

森 覚えてるよ

僕 アレってOKだったの?

森 何が?

僕 とぼけるなよ!

森 え?

僕 娘が家にいないとか、新横浜行こうとか言ったよね?

森 言ったねー

僕 で、OKだったの?

森 うん


そうだったんだ・・・

誰がどう考えてもそうなんだけど・・・


森 なんか家に帰らなくてもいいかなって思ったんだよ

僕 そっか・・・

僕 随分歯がゆい想いをさせちゃったね

森 え?

森 全然だよ

僕 え?

森 ある程度はじらさないとねw

僕 そうなんだ・・・


結局、僕は戦闘能力に於いて彼女の足元にも及ばなかったと言う事らしい

そして、この時は自分の優柔不断を後悔して止まなかったが、今思えば僕は恋愛を楽しみたかったような気がするので、そういう意味では崇高な貴重な体験だったと思う


ただ、このチャンスを掴まなかった事で、僕は大きく遠回りする事になるのだが、同時に映画のような、それも青春映画のような恋愛を堪能する事になるのだ

その大立ち回りの第一歩を僕は踏み出す


明けて月曜日、ライン送信


僕:ご相談があるのですが

森:何でしょうか?

僕:今週か来週のいつでもいいので飲みにいみませんか?


少し間が空いた

予定を確認しているのだとは思うが、もしかして断りの言葉を考えてるのかも知れない・・・常にネガティブサイドも持ち合わせる僕・・・


森:来週の金曜はどうですか?

僕:OKです

僕:ではいつも通りに17時くらいからで

森:はい、いつも通りにね

僕:店は探して予約しておくよ

森:楽しみにしています

僕:また連絡するよ


予定通り僕たちは飲み、カラオケで騒いだ

そして今までと同じように各々の帰路に着いた

手を繋ぐ事もなく、それ以上の事もなく


それでも僕は楽しかった

逢う度に好きメーターは上がる

何処まで上がるのかわからないくらいに、とにかく上がる


昼間も何かと理由をつけてはランチデート

二人で飲む事も頻繁になり、デートの回数を重ねていた


しかし、あの夜

新横浜の夜のような雰囲気にはなる事はなかった









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