衝撃の噂

9月中旬のある朝


僕が出社し、いつものように自席でコーヒーを飲みながらパソコンを起動させていると、お局様が話しかけてきた


局 須磨課長、ちょっといいですか?

僕 何でしょうか?

局 もー本当に困ってるんだけど

僕 んー・・・僕、何かしましたか?

局 そうじゃなくて森川さんよ


なに?

僕と彼女の事か?

確かによく一緒にランチとかしているけど、なんか問題にでもなってるのか?

と、的外れな心配をしているとお局様が続けます


局 森川さん、今年いっぱいで辞めちゃうのよ・・・

局 ホント困るわよね・・・

局 どうしようかしら?


え?

なにそれ?


僕 なんで辞めちゃうの?

局 ご主人の関係で地元に帰るらしいのよ

僕 そうなんだ

局 随分アッサリしてるわね?

局 もっと驚きなさいよ!


うん・・・

最大級に驚いているのだが・・・

これ以上喋ると声が裏返りそうだから黙り気味なだけなのだ


そうこうしているうちに、お局様が何処かに行ってしまったので、改めて落ち着くために深呼吸をしてみる


そうか・・・

辞めちゃうのか・・・

しかも地元に帰るだと?

もう逢えないわけ?

何故今?

何故彼女なの?


全然落ち着きません

表面上は無表情を装い、動揺を隠していたつもりだ

でも津島曰く、「今朝は顔面蒼白で能面みたいだった」らしい


本人から聞いたわけではないけど、お局様の人事情報が正確なのは周知の事実

まずガセではないと思われる


再度思考を整理してみる


彼女がうちを辞めて地元に帰るのは事実なんだろう

それも年内しかここにはいないらしい

彼女と僕は、そこそこいい関係である、少なくとも今はそうである

仮にこのまま発展したらどうなるんだろうか?


極論を言えば、互いに家族を捨てて一緒になったりするのだろうか?

現段階ではそんな未来は全く想像できない

何故なら、手を繋いだ事すらないから


では、僕は彼女と具体的にどういう風になりたいのか?

そんな事も考えたこともない


では僕は何なの?

彼女の事が好きなだけ


そうか

僕は彼女を好きなのは事実だ

家族がどうとか論じる前に、単純に彼女が好きなのだ

あと3か月しかここにいない彼女


後悔だけはしないように、彼女と真剣に向き合ってみよう

その先に何があるかはわからないが、四の五の言う前に、時間切れになる前に

あとの事は、その時になって考えよう

それがどんな結果になっても決して後悔はしない


偉そうに語ってはいるが、とどのつまりは不倫宣言

でも、この時の僕は自分に酔っていたのだと思う

それ以上に彼女に陶酔していたのは間違いないが


その日の夕方、僕は彼女にラインを送った


僕:お疲れさまです

僕:ご提案があるのですが

森:お疲れさまです

森:なんでしょうか?

僕:今週か来週の木曜日に休みとるので、遊びにいきませんか?

森:お休み取れるんですか?

僕:有給余ってるので使わないとw

森:では来週の木曜日がいいです

僕:では来週で、何して遊びたいですか?

森:マリンルージュでランチとかどうですか?


これです!

こういう所が彼女の可愛い所なのです!

マリンルージュは山下公園発のクルーズ船ですが、以前僕が横浜のデートの名所として話題に上げた船です

サザンの曲に登場する名所をいくつか話題にしていたのだ

こういう何げない会話をキチンと覚えていてくれて、それを即答でリクエストしてくれるような気使いが僕は堪らないのだ

彼女は見た目の美しさと、中身の可愛さの両方を備え持つ本当にイイ女なのだ


僕:そうしましょう

僕:早速予約しますね

森:お願いします


急いで専用サイトから予約


僕:予約しました

森:早いですねwありがとうございます

僕:船の後に行きたいところあったら、当日リクエストしてね

森:ではじっくり考えておきます

僕:宿題よろしくw

森:頑張って考えますw

森:マリンルージュ超楽しみですwwwww

僕:僕もw

僕:じゃあまた連絡するね

森;よろしくお願いしますwww


デートの約束は取り付けました

年内だけの恋人ごっこかもしれないけど、それでも後悔しないように目の前の彼女と思いっきり楽しんでいく事に決めたのだ


好きな女がデートに応じてくれる

こんなに幸せな事は他にない


とりあえず、彼女がどんなリクエストをしてきても完璧に対応できるように、僕も山下公園界隈の下調べを毎日パソコンでする事にした

それは至福の雑用


ガイドブックを1冊作れるのではないかと言うくらいに、山下公園界隈に詳しくなった僕がいた

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