第19話 怪しげなギフト
清音と蔵之介に向けて
「そうそう。三つ目のギフトが読めないって言いましたが、あれは嘘です。何となく面倒そうなギフトだったので読めないことにしていました」
「実は……三つ目のギフトを見て、『これは不味いな』と思っていたんですよ。ところが娘さんのお陰で、『読めないギフトがある』ということを知りました」
「えー、それじゃあ、読めないギフトがあるのって、あたしだけですか?」
三好が申し訳なさそうに清音を見る。
「そう言うことになりますな。少しばかり、利用させてもらいました」
そう言って頭を下げる。
「娘さんには申し訳ない事をしたと思っています」
「いえ、いいですよ、別に。そんな、謝られるようなことじゃありませんから。謝らないでくださいよー」
慌てて三好に頭を上げるように告げる清音。
その横で蔵之介が三好の機転に驚きながらも言う。
「でも、西園寺さんを気遣って、という部分もありましたよね」
「まあ、それもあると言えばありますが。どちらかと言うと、娘さんを利用させて頂いた部分の方が大きいです。」
「え? あたし何か利用されたんですか?」
首を傾げる清音をそのままに三好が話を続ける。
「三つ目のギフトね、闇魔法ってあるんですよ」
「説明になかった魔法ですね」
ルファ・メーリングの説明にあったのは属性魔法である、土・水・火・風と上位魔法である、光・雷・氷・空間。
この何れにも属さない魔法だ。
「ええ、しかも名前からして面倒事になりそうじゃないですか」
「闇とか、何だか怖そうな感じしますもんね」
「確かに、光魔法の対極に位置付けされていそうな属性ですね」
光魔法が重用されている状況を考えれば、敵視されている可能性もある属性だと、蔵之介も理解した。
「どうしようか悩んでいたところに、娘さんが『欠落者』という情報を引き出してくれました」
「それで利用した訳ですか」
「ええ。正直なところ、『欠落者』の存在を知ったときは、内心で胸を撫で下ろしましたよ」
口元に笑みを浮かべる三好に、蔵之介も微かな笑みを返す。
「したたかですね」
「隠せるものは隠す。私が人生で学んだことの一つです」
含み笑いをする二人に清音が話しかける。
「あのー、あたしは伊勢さんや三好のお爺ちゃんに、お話しできるようなことって、あまりないんですよ」
およそ隠し事をしていなさそうな清音に、三好と蔵之介がほほ笑ましそうに視線を向ける。
「娘さんは純粋でいいですなあ」
「同い年ですが、うちの姪御はそろそろ要らん知恵を付けだしましたよ」
「なるほど。これは娘さんの個性ですか」
「そういう言い方もありますね。いやあ、いいですね、個性って」
朗らかに笑う二人に、少しむくれた清音が言う。
「あのー、二人ともあたしのことを、バカにしていませんか?」
「バカに? まさか」
「そうそう、娘さんには癒されます」
「うー、やっぱりバカにされている気がします」
「気のせいですよ、娘さん」
「西園寺さん。君のギフトのことを聞かせてくれないかな?」
「何だか、話を逸らされた気がしますけど……」
そう言って、清音は自身の二つのギフトについて語りだした。
「――――困ったことに、五感共有のギフトは資料がないそうです」
神官たちが五感共有を指して、勇者特有のギフトではないか、と話していたのを蔵之介は思い出していた。
清音の説明が一段落したところで、蔵之介が聞く。
「魔物の魔石を体内に取り込むことで、魔物の持つ力の一つをランダムに手に入れられる。それが吸収のギフトで間違いないんだね?」
「はい、間違いありません。ルファさんから貰った説明書にもそう書いてありました。吸収を所有している指導員の人もそう言っていました」
「ルファさんから貰った説明書には、何度でも繰り返し吸収が可能だとあった」
蔵之介が確認するような口調で聞いた。
清音の説明通りなら、吸収した能力は何度でも上書きできることになる。
「そうです。納得のいく能力を手に入れるまで何度でも吸収ができる。そう書いてありました」
「指導員は二度目の吸収で、いまの能力を手にした」
「そうです。本人も『運が良かった』と言っていました」
「普通は一つの能力しか使える状態にないが、西園寺さんは三つの能力を使える状態にすることができる、はずだ、と?」
「はい。ルファさんから、そう教えられました」
清音はそう言うと、沈んだ表情で付け加える。
「魔力が感知できるようになったら、魔石を用意して貰えることになっています」
「西園寺さん、魔石なんて吸収しなくてもいいよ」
蔵之介が身を
「え?」
「魔石なんて未知のものを体内に取り込む。危険過ぎる」
「危険、なんですか?」
「可能性だけどね。もし何の弊害もないなら、それこそ十回でも二十回でも、吸収を試みるはずだ」
「吸収する回数を増やすのは、危険が伴う。そう考えた方が良さそうですな」
三好の言葉に清音が身震いをした。
自分の両肩を抱きかかえて言う。
「あの、そうすると、あたしは五感共有一つしか、使えなくなってしまいます」
「別にいいんじゃいないかな? 吸収の危険性が分かるまでは、吸収のギフトは封印する。それで行こうか」
「私も刑事さんに賛成です」
「足手まといですよ、あたし」
「いまは魔力感知ができるように頑張ろう。で、五感共有が使えるようになればラッキーだ」
蔵之介の安堵の表情を浮かべ、
「はい、伊勢さんの言う通りに頑張ります。三好のお爺ちゃん、一緒に魔力感知ができるように頑張ろうね」
笑顔を三好に向けた。
「娘さん、もう一つ謝ってもいいですか?」
「え?」
キョトンとする清音と苦笑する蔵之介を見比べて、三好が白髪頭をかきながら頭を下げる。
「実は訓練の二日目あたりから、魔力感知ができていたようなんですよ」
「ええー」
清音が泣きそうな顔で驚きの声を上げた。
続いて落ち込む。
「それじゃ、何にもできないのって、あたしだけじゃないですかー。うわー、あたしって、足手まといだ……」
「申し訳ない、娘さん」
「西園寺さん、落ち込まないで」
落ち込む清音と彼女を慰める蔵之介に向けて、三好が話を再開する。
「土魔法と水魔法は部屋で少し試してみました。威力の方は情けない限りでしたが、どちらもそれなりに使えました」
言葉を切った三好に、清音が前のめりに食い付く。
「闇は、闇はどうでした?」
「闇魔法の魔導書は書庫にありませんでした。指導員の人にそれとなく聞いてみましたが、闇魔法の存在は適当に誤魔化されました」
「えー、大丈夫だったんですか?」
「そこは年の功です。日本の小説や漫画だと、『光魔法の対極のようなあつかいで、闇魔法がありますが――』という感じで聞きました」
蔵之介は三好が他にも色々と聞きだしていそうだと、密かに期待を含ませる。
「詳しいことは後でお聞きしますが、闇魔法を所有していることは
「まったくです」
三好の笑い声が響く。
「それで明日から、あたしたちはどうするんですか?」
快活に笑う三好を少し恨めしそうにみると、清音が蔵之介に聞いた。
「表向きは勇者らしく、ギフトを使いこなせるように頑張る。でも、魔力感知ができても、絶対にそれを知られちゃだめだ」
「なぜですか?」
「指導員たちが魔石を抱えてきたらどうする?」
「嫌です! 絶対に嫌です! 魔力感知ができても黙っています!」
清音が首と手を振って、全身で拒絶した。
次いで三好に視線を移す。
「三好さんは明日の午後を目処に、魔力感知ができるようになったことにしてください」
「分かりました。土魔法と水魔法の訓練に進む訳ですな」
蔵之介が首肯する。
「できるだけ、上達してください。目くらましと、上達次第では脱出の下準備に協力をお願いします」
蔵之介の発した『脱出』という言葉に三好と清音が息を呑む。
「伊勢さん、具体的に計画があるんですか?」
「聞かせてください」
「具体的というほどではありませんが、大まかには考えています」
感嘆の声を上げる二人に向けて言う。
「計画を説明する前に、もう一つお話しておきましょう。紋章魔法の特殊性についてです」
蔵之介はこれまで仕入れた情報と推理を基に、紋章魔法について語りだした。
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