第11話

 続いて2本目のゲーム。

 タイトルは《Dust planet》。直訳すれば《ホコリの惑星》だ。

「自らを危うい目に遭わせるでないわ。両親を泣かせる気か」

「ごめんなさい……」

「それに、ああいうのは夏の夜にやるのが良いのだ。人を集めたらまたやろう」

「うううう……ホラーの風情もわかっているとは」

 乙女から説教を受けながらも、羽菜はゲームの初期設定を終える。

「……これはほらーではないな?」

「うん。探索と工作のゲームで……キャッチコピーは『世界を散歩する』。人類が滅んだあとの世界を気ままに歩くシンプルなゲームなんだよ」

「あ。だからこのタイトルなんですね」

 崩れた建物や瓦礫の間を砂塵が舞っている。退廃的ながら幻想に満ちた光景で、好きな人にはハマるのだろうと思われる。

 実際、悠真も自分のパソコンに買って入れようかと思う程度にはぐっときている。

「見ての通りの美麗なグラフィックと、限られた素材で創意工夫する楽しさで大ヒットしたゲーム。オープニング詐欺じゃないよ」

「ああ……オープニング詐欺って許されませんよね」

 高校時代に鳴り物入りの3Dシューティングを買って後悔した悠真も頷く。

「そう、許されないぜ……」

「おーぷにんぐさぎ?」

「いろいろあるんだ、乙女ちゃん……詐欺るしかなかった悲哀とか、騙されたユーザの憤りとか。特に納期と予算に無理があったんだろうと思えるときは悲しくて悲しくて」

「ようわからんが、人間はいろいろと大変なのだな」

 羽菜と悠真の悲憤をあっさりいなして、待ちきれない乙女はコントローラを持ち上げる。

「げーむすたーと!」

 オープニングが始まり、スタート画面では地球を周回していた宇宙船が地表目指して降下を始める。大気圏突入が再現されており、乙女のみならず悠真も感嘆の声を零す。

 危なげなく着地した宇宙船から主人公が降り立った。先ほどのゲームとは異なり、主人公を中空から見守る俯瞰の視点だ。

 宇宙服を着ているため、主人公の顔立ちや体型はわからない。

「むう……? 悠真と見たあぽろ11号で出てきたような」

「趣味全開だね、悠真くん」

「うちにDVDがけっこうあるので……」

 同居初めの頃は間がもたず、夜には科学技術のドキュメンタリーをよく見ていた。

「そゆことね」

 なんだかんだで乙女も慣れたもので、ダッシュ・しゃがみ・ほふくなどの各種操作を習得していく。

「印が出たぞ?」

 瓦礫の山に浮き出るグローブのマークを指差す。

「そのマークはクライミング……でっぱり掴んで登る技能を習得したらできるよ」

「ふむ。この向こうに行けるのは少し先か」

「そ。だから今は矢印のほうに進んで」

 目標地点の開けた丘にたどり着き、チュートリアルは終了。キャラメイクとコスチュームチェンジがメニューに解放される。

 操作を変わった羽菜が、乙女に似た女の子をあっという間に作成した。

「もしや先輩、このゲーム持ってます?」

「持ってるよん」

「道理で手慣れていらっしゃる……」

 画面内でぴょんぴょん動く自分の偶像を見て、乙女は花開くように笑う。そして悠真が独りでにKOされる。

「面白い! 良い!」

「喜んでくれて私も幸せだぜ」

「何やら基地を建設しろと言われているのだが、どうしたらよいのだろう?」

「乙女ちゃんの人差し指が当たってるボタン。そう、そこ押して……押したまんまスティック右に動かしてみ?」

「こ、こうか?」

 ドラッグの要領で地表に長方形が伸びていく。

「そうそう。……んで、ボタンをはなーす!」

 ファンファーレが鳴り響き、拠点となる基地が出現する。

「おおおお……し、新鮮であるな。何かを作るというのは……」

「これは最初だから超お手軽だけど、これ以降は複雑なものを作ることもできるよ」

「悠真も作れるのか?」

「どういう発想よ?」

「……悠真と一緒に遊びたい……」

「あ、ごめん……可愛い理由だったんだね」

 恋人の可愛さに呼吸を整える悠真をつつく。

「悠真くん、悠真くん」

「はい……なんでしょう?」

「このゲーム、通信できるから、自分のパソでストアからインストールして。乙女ちゃんとチャットしたいでしょ?」

「はい今すぐに!」

 悠真は即座にパソコンを起ち上げた。

「乙女ちゃんはフレンドコード発行してみよっか。基地の前でスティック倒したら入れるよ」

「うむ、入れたぞ。……パソコンがある! 銀次郎と名付けよう」

「銀太郎の息子か弟かは知らないけど、シルバーで良かったね。そのパソコン、カラーはランダムだし」

「らんだむ……そうか、乱数のことだな? 悠真が信仰する神の名だ」

「なんかとんでもないもの信仰してる」

「いえあの……すごろくゲームで祈祷をしてしまいまして。その時に、乱数のサワリを教えたんです」

「夫が乱数を信じるのならばわたしも信じる。サイコロを振るたび祈りを捧げよう」

「乙女ちゃんは信じないでいいからね! 清らかなままでいて!」

「そういや悠真くんは、理論と計算をもって乱数に挑む系の廃人だったねえ」

 悠真の育成ゲームのデータを見たことがある羽菜は、しみじみと呟いた。

「……このゲーム、乱数絡むところありますか?」

「悩むなよ……完全ランダムは基地の外観とパソコンの色くらいだから安心しとけ」

「よ、良かった……」

 悠真に続いて羽菜も自身のパソコンでログインし、3人での探索は大いに盛り上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る