第16話 初キス
パパが今日帰ってくる。午後九時くらいになると、朝のおはよう挨拶の中に書いてあった。
お腹が減っても夕飯は食べないで帰って来いと命令してみた。今まで培った料理の腕を全力で振るう時だ。学校の帰りにスーパーで買い物をして帰って、それから料理に集中した。そして七時半頃出来上がった。
――パパ、彩夏頑張ったよ――と呟いたが誰もいない。
パパは予定より早く帰ってきた。
――えっ早いじゃん――
心の準備が出来ていない。驚きと嬉しさで自然と涙が出た。
その代わり、自然とハグが出来た。今までは、後ろから片思いのハグだったが、正真正銘のハグだった。
寂しかった思いをパパに伝えたが、パパからは素っ気ない言葉が帰ってくる。『もしかしたら札幌でほかの女と……』と思ってはみたが、彩夏の心は、直ぐ疑いを打ち消した。『そんなありもしない事を考えたのは、パパを愛している証拠』と思いつつも、彩夏は少し剥(むく)れてみせた。でもパパは、彩夏の料理を食べながら、『美味しい』の言葉を何度も言ってくれた。そして彩夏の顔が――にっこにこ――に変身したのが鏡を見なくても分かった。
さっきフライングはしたけど、改めての密着タイム。たった四日なのに、まるで何か月ぶりの様な気がした。今日は、腕を絡めるだけでなく、パパの右手の指の隙間に彩夏の左手の指を滑り込ませる行動が自然に出来た。パパは少し戸惑ったみたいだが、彩夏の指から逃げる事は無かった。そしてパパは言った。
「彩夏の手、小さくて可愛いね。指も細くて可愛い」
そう言われて私は嬉しくなった。
「そうだよ。前に、他の女子と比べてみたけど、足もそうだけど、彩夏の手は、一番小さくて、指も短くて細いの」
「以前、友達とド〇キ行った時、薬指の測りっこしたら、みんなは八号から十号だったのだけど、彩夏一人だけ七号だったの その時は友達から『わぁ、お子様サイズ』と言われて一寸悔しかったけど パパに『可愛い』と言われてこの指が好きになったよ」
そう言ったらパパの顔が一瞬明るくなった。何故かな?
その後、お土産と言って、抱き枕を貰った。パパ曰く雷の夜とかパパの居ない時に使えると言う事だが、彩夏はその言葉を逆手に取って、いつでもパパを抱き枕に使える方向へ誘導出来た。一寸嬉しい。
そしてパパから、お父さんのCD-ROMを返して貰うときに一緒にパパからの手紙と言って、一枚のSDカードを渡された。
私は一寸吃驚(びっくり)したけど、急いでパソコンのある二階へと階段を上がった。パソコンの起動時間がこんなに遅く感じたのは初めてだ。
そして、手紙を読んだ。
彩夏ヘ
口に出す勇気がなかったので手紙にします
あの日の夜、彩夏が勇気を出してパパに言ってくれた思いは全部聞いているよ
パパも去年の冬に彩夏が来てくれて、最初は戸惑ったけど、一緒に暮らし始めて、今は凄く楽しいです。
その楽しいのが当たり前になってパパの彩夏に対する気持ちがどんな感情なのかごまかしていた様です。
薄々解っていたのですが考えないようにしていました。
今、彩夏のいない生活がほんの少し続いただけで、やるせなさや寂しさに襲われています。これからは自分の気持ちに正直に向き合おうと思います。
それでもパパの心の中は、亡き妻の紗枝が占領しています。でもそれは半分だけです。
後の半分はもう一人のパパです。そのもう一人のパパが、彩夏の侵入を妨げています。
「彩夏はまだ高校生、妻が亡くなってまだ一年も経っていない」などと、色々理屈を並べています。
でもこれからは、パパは頑張ってもう一人のパパを追い出そうと思います。そうすれば、彩夏の入る場所が出来ますよね。
追い出すまでもう少しかかると思いますが、待っていて下さい。でも、彩夏が入ってきても紗枝が心の中に居続ける事を、彩夏が許せるならでの話です。
パパは死ぬまで、心の中の紗枝を追い出すことはできません。
勿論次第にその比率を変化させて彩夏が一杯になる事は間違いありません。
今、はっきり言います。
パパも大人の彩夏が大好きです。
でも、もう一寸待っていてください。
パパより
嬉しくて、嬉しくて涙が止まりませんでした。
涙で階段がよく見えなくて踏み外しそうになったけど、何とか堪えました。
そして、ソファーのパパへとダイブした。
その後の事はよく覚えていなかったですが、
気が付いた時、
私の唇はパパの唇でふさがれていました。
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