引き出しの中の人形③

 この人形を見ると、凛奈に対する想いが爆発して、いたたまれなくなる。凛奈はもう、この世におらず、思い出の品物も知らぬ間に散り散りになって、捨てられたか、どこに行ったか分からなくなってしまった。だが――この人形だけは、無事に残っている。そう、凛奈がくれた人形!

 俺はそうっと、人形を机の引き出しの中に戻しておいた。君は東京に持っては行けない。俺と、凛奈の思い出の地で、静かに眠れ――


 持ち物の整理が終わったら、近所の寺へ行き、凛奈の眠る墓へとおもむいた。何の変哲も無い『佐藤家之墓』と書かれた墓石。でも何故だろう、それが特別な重みを帯びる。墓誌には、十歳と一人だけ際立きわだって享年きょうねんの若い『佐藤凛奈』の名が。もっと生きたかっただろうに。

「ありがとう、凛奈」

 俺は墓石をそっと撫でた。心なしか、凛奈が喜んでいるように感じた。今は無理でも、泉下せんかで君とまた会えれば……良いな。今でも、いつまでも、大好きだよ。

 太陽の光は暖かく、空は青くみ渡っている。優しい光に包まれながら、俺は墓を後にした。

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引き出しの中の人形 加藤ともか @tomokato

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