第16話 公爵令嬢

地竜トリケラトプスが引く馬車に乗って王都を出ようとした時、呼び止められた。


「そこの地竜を、私に差し出す栄誉を与えるわ!」


この女何言ってんの?

馬鹿じゃ無いの?


そう思いながら俺は馬車から降りた。


街道だったら無視して逃げたけど、門番に止められて、御者の聖騎士リンが、馬車から降りて門番と話しをしていたのでしょうが無い。


「私はフカクオ公爵の次女カノンよ。当家に差し出す事は栄誉です。」

小さい胸を張って俺にドヤ顔の令嬢。


フカクオ公爵?

何処かで聞いた事があるな?


俺はジト眼で令嬢を見る。

どう答えようか考えて返事はしない。


令嬢の馬車から2名の男が令嬢と一緒に降りて来ていた。


初老の執事らしい男と体格の良い従者らしい男。


「お嬢様の問い掛けに答えないのは失礼です。」

初老の男が俺を睨む。


失礼なのは、お前等だろう。

と思いながら。

「お断りします。」


「何!お主は見たところ平民。平民風情が公爵家のお嬢様の心優しいお許しを断れるはずはあるまい。」


何だその理屈?


「爺、地竜が欲しいわ。公爵家の馬車が馬で、平民が竜の馬車に乗っているのは我慢が出来ないわ。」


「そうで御座いますな。平民風情が竜の馬車を持つ等言語道断。公爵家に譲るべきです。」


そこに門番と話していたリンが戻って来た。


「カノン様、私は聖騎士リン・パーシヴァルと申します。この地竜は教会所有のもの、公爵家と言えども無理強いは出来ないと思いますが・・・。」


「むむ。」

執事は顰め面。


「爺、平民なんて殺しても良いから、何とかしなさい!」

令嬢はプンスカ怒り出す。


「心配御座いません。爺が何とか致します。」


何とも出来ないよ。

譲る気ないし・・・。


「リンとやら、お主は聖騎士。聖騎士は戦いを生業とする者。ここにおわすは、この国に名高い『剛剣』のカイト様だ。


決闘で勝負を着けよう。お嬢様の代理として『剛剣』カイト様が戦う。お主も誉れであろう。」


はは、テンプレの決闘パターンだ。

そうきたか。面倒臭いな。


「おう、俺が特別決闘してやる。誇りに思え。」

従者と思ってたら護衛か。


確かにガッシリした体格だし、レベルも49だ。


騎士隊長よりレベルは上だなぁ。


俺はリンに耳打ちする。

「此奴、強いのか?」


「国で5本の指に入る強者です。」

「ふむ。面倒だ。」


「リン・パーシヴァル、聖騎士長で騎士爵の貴方は、末席とは言え貴族の身。決闘は断れないわよ。」


「決闘を受ける事自体は、吝かではありませんが、地竜は他人の物です。決闘の報酬には出来ませぬ。」


「聖騎士と言えば教会の所属、教会の物を賭けても、誰も異存あるまい。」

またこのジジイは、変な理屈を持ち出して来やがった。


「同じ理屈なら、お嬢様は公爵家の財産全てを報酬に賭けられるのか?」

俺はジジイに聞いてみた。


「ふん。当家を脅して決闘から逃げようとする腹積もりか。『剛剣』に勝てる者などおるまいに。」


「もう、それでいいわ。当家が勝ったら地竜を貰う。貴方が勝ったら公爵家の財産全てをあげましょう。その替わり決闘は今直ぐよ!」


「お嬢様、そ、それは・・・ちょっと不味いかと・・・。」


「『剛剣』カイト様が負けるわけ無いでしょう!」


公爵令嬢は両手を腰に当てて小さな胸を張る。

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