9. シナリオ通り
窓から飛び散ったガラスの破片がリビング中に転がっていく。
破片は光司とジャッキーに襲い掛かり、ガラスの欠片が光司の皮膚を
切り裂いた。
大きな音ともに、重くかすれたよな声が聞こえてきた。
生暖かい風が遮って、ゾンビが窓から入ってくる。
大きな体を変形させて、うねうねと窓を潜り抜けようとしてくる。
ジャッキーは手に取った銃で、すかさず照準を窓のゾンビに向ける。
しっかりと頭に狙いを定めてから、ジャッキーは引き金を引いた。
部屋中に響き渡る破裂音は、光司の鼓膜を刺激した。
ジャッキーは一発の銃弾をゾンビに撃ち込むと、すかさず二発、三発目を撃った。
うめくゾンビの声と発砲音に光司が目と耳を奪われて、唖然としているとジャッキーが大声を上げた。
「コウジ!何してるの!早くここから離れて!」
ジャッキーの声にハッと我に返った光司は急いでリビングから離れる。
ジャッキーが銃の全弾を撃ち込むと、ゾンビは窓からずるりと体を滑り込ませて、リビングに倒れた。
ゾンビは頭と目から血が流れてきていて、体がピクピクと動いている。
ジャッキーはゾンビにゆっくりと近づいて、一蹴り入れる。
ゾンビは変わらず、倒れたまま体を震わせるだけだった。
やがて震えていた体も止まって、腐った匂いだけがリビングに残った。
「……コウジ?もう大丈夫よ」
リビングのドアを盾に隠れていた光司が恐る恐るリビングに足を踏み入れていく。
目の前の光景に、釘付けになった光司は未だに信じらない気持ちだった。
「大丈夫?」
ジャッキーが声をかけても光司は返事をしなかった。
心ここにあらずといった表情を浮かべる光司は、その場に立ち尽くしていた。
「コウジ!!」
ジャッキーが光司の肩を掴んで大きく揺らし、声をかける。
光司はジャッキーに声を聞くと、動揺を隠せない中で返事を返した。
「……あ、ああ、ああ、大丈夫です」
ジャッキーが光司の声を聞いて、一息つくと光司の腕に視線が向いた。
「……コウジ、怪我してるじゃない」
「え?」
光司は自分の腕を見ると、綺麗に一直線に切られた皮膚からは血が地面に向かって流れていた。
それを見ると、光司は自分の腕の痛みを遅れて感じ取る。
「……痛い」
ジャッキーはタオルを渡して、光司の腕を押さえた。
「このまま押さえてなさい!急いで包帯を持ってくるわ」
ジャッキーはそのままリビングから駆け足で出て行った。
リビングに取り残された光司はタオルで腕を押さえたまま、立ち尽くしていた。
痛みが引かない腕、そして鼻をつんざくようなこの匂い。そして耳にこびり付くゾンビのうめき声。目の前に倒れている大きな体のゾンビ。
すべての要素が光司の五感を通じて言ってくる、これは現実だと。
目の前に広がっているのはゲームの世界。だが見るもの感じるもの、それは現実のもだった。
ジャッキーがいなかったら確実に死んでいた。光司はそう思った。
光司は倒れたゾンビに目を見やると、不思議に思うことがあった。
このゾンビ、ラウルとジャッキーがゲームの序盤で戦う中ボスなのに、なんでジャッキーと俺の時に襲い掛かってくるんだろう。
本来のシナリオなら、二人が協力して倒すのに。
それに立ち上がってもこないし、二戦目にも入らない。
……二戦目?もしかして……
光司は嫌な予感がして胸がざわつくのを感じた。
もしゲーム通りならこいつはこの後……
そう考えたとき、倒れていたゾンビの体がビクンと大きく跳ね上がった。
白目を向いていた目玉がぐるりと一周して、黄色い目玉が出てくる。
ボコボコと上半身が膨らんでいき、それに伴って体がゆっくりと起き上がってくる。
ふらつくゾンビは、頭がユラユラと揺れながら顔を光司に向けた。
嫌な予感が的中してしまった。やはりまだ終わってはいなかった。
光司は後ろに後ずさる。その時、床に転がっていたペットボトルにぶつかってカタンと音を立ててしまう。
口から息を漏らしているゾンビが膨張した腕を横に広げて、唸り声をあげながら光司に襲い掛かった。
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