6. ジャッキー

 ジャクリーン・ストライプ。愛称はジャッキー。光司がやっていたゲーム、『デッドエンド』のヒロイン的立場のキャラだ。言動はクールで身のこなしがすごく、頼れるサポートキャラだ。


 今、光司の目の前にそのサポートキャラに瓜二つの女性が銃を持って立っている。


「立てる?」


 ジャッキーによく似た女性は、少し屈んで光司に手を差し出す。


 だが光司は差し出された手に気付かないくらいに頭の中が混乱していた。


 コスプレ?それにしては声もそっくり過ぎる。更にはあの人は銃を撃った。あのゾンビを。


 光司はゾンビの方をそーっ、と見る。ゾンビは床にうつ伏せに倒れていた。頭からは血が出ている。それを見て光司はヒェッと声を上げる。


 ジャクリーンに似た女性は、ゾンビの方を見て言う。


「あまり見ない方がいいわ。一応そいつは元人間だしね」

「......元?」

「ええ。......まさか知らない訳ないわよね?」


 光司は状況が飲み込めていなかった。ゾンビに襲われて、ジャクリーンに似た女性に助けられて、ゾンビは元人間。そんな急展開ついていけるわけがない。


 だが光司にも引っかかる部分はあった。まるでゲームだ。この世界は、と思った。光司は戸惑いながら目を泳がせた。


 ジャクリーンに似た女性も、少し不思議そうな表情になりながら髪を後ろにかきあげた。


「あなた、もしかして向こう側の人?でも向こう側の人でも、この事は知ってるはずよね?」

「あ、あの!向こう側って何のことですか?」


 光司は女性に逆質問をぶつけた。軍服の男が言っていた“あっち側”と女性が口にした“こっち側”。光司はこれが気になっていた。


 だが女性は光司の問いに、思わず口もとが緩み、笑みを浮かべる。


「ふふっ、それ冗談?」

「......いえ」


 女性は光司の一言で、顔から笑顔が消えた。


「笑っちゃうわね。今この状況を知らないって言う人間がいることに」

「......え?」


 光司の頭は更に謎が深まっていった。眉間にしわを寄せる光司を見て、女性をため息をつきながらゾンビを指差す。


「そいつよ」


 光司は女性が指差す方を見ては、また女性の方を見て、ゾンビを指差して首を傾げる。


「今ワイルシティが滅茶苦茶になってる原因よ」

「ワイルシティ?......ワイルシティ!?」


 光司にとっては聞き覚える単語だ。光司は昨日、その街は訪れていた。だがそれは『デッドエンド』の中での話だ。


 という事はここはゲームの中?いや、考え過ぎだ。いくら何でも現実的じゃない。もしそうだとしたら、俺はとうとうおかしくなった。悪い夢を見ているだけに決まっている。


「ちょっと大きな声出さないでよ」

「ずびばぜん」


 声を張り上げた光司の口を、女性は両手で塞ぐ。光司も両手で塞がれたせいで、発した言葉も聞き取りにくくなっていた。


 女性は光司の口を押さえながら、周りを見回す。店の外から聞こえてくる雨の音が聞こえてくる中、ゆっくりと光司の口から両手を離していく。


「早く立って、ここから離れるわよ」

「え、どこー」


 光司が聞く前に、女性は無理やり光司の手を引っ張りあげて立たせる。光司が少しスウェットを叩いていると、女性はドアの前に落ちていた大きな銃を、光司に渡しながら言う。


「ジャッキー」

「......え?」

「ジャクリーン・ストライプ。私の名前。ジャッキーでいいわ。あなたは?」

「......月城......光司です」

「珍しい名前ね、ツキシロがファーストネーム?」

「いえ、光司の方です」

「そ、じゃ行くわよコウジ」


 光司はジャッキーの後をついて行き、雨が降る外へ出て行く。

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