5. 豹変

 光司が振り返った先には、青白い顔色をした男がいた。その目にもはや生気はなく、ただ呟いている。


「わっ!!」


 光司は驚いて、勢いよく前に倒れる。持っていた銃がドアの前まで転がっていく。


 男は明らかにおかしかった。やや内股で歩くたびに足音が響いては、体が傾いたりしている。怠そうに上半身からぶら下がっているように腕がぷらぷらしている。


 ヤバい、こいつ絶対ヤバい。光司は直感でそう思った。光司がその場から少しずつ後ずさっていくと、男の目から涙が流れてくる。


「......って......待って」


 男が微かにそう言うのが聞こえた。光司はそれを聞いて止まる。


 ......意識がある?でもこいつ何だかアレに似てる。ゾンビに。


 そう思った瞬間だった。男はいきなり立ち止まって、大きな唸り声を上げた。頭を急に抱え出して、自分の手の爪で顔面を引っ掻いている。引っ掻いたところからは、血が綺麗な線を引くように流れてきている。


 唸り声に怯んだ光司は、体が思うように動かせなかったが決死の思いで、自分の足を殴って立ち上がる。


 やがて唸り声は止んで、男は天井を見て体をビクンと何度も震わせては、くねらせている。


 光司は急に吐き気を催した。男を直視できずにいた。男の震えが止まると、上げた顔から血が垂れてくる。血が地面に落ちた時、男は光司の方を勢いよく向いて、叫び声を上げた。


 こっちを向いた男は両目から血を流しながら、迫ってくる。


 光司はドアの先へ逃げようとするが、地面に落ちていた何かに躓いて、転んでしまう。


 男はそれを見るな否や、光司に飛びかかってくる。光司は体を回転させて、ドアの真横に回避する。


 男の息は荒くなっていた。その姿はまさしくそれだった。


「......ゾンビ」


 光司は男を見て、ボソッと呟く。男は全身を光司に向けて、再び迫ってくる。


 光司は叫び声を上げて、丸くなりながら両手で顔を覆いながら、男から背ける。


 その時、空間に重く響く一瞬の音が聞こえた。その音に続いて、次は何かが地面に倒れる音が聞こえた。


 ゾンビが来ない、光司は不思議に思った。


「大丈夫?」


 女性の声が聞こえて、光司は覆っていた両手をどかした。まず一番初めに目に入ったのは、ビクビクと震えている倒れたゾンビだった。


「ねぇ、君大丈夫?」


 光司は声のする方を振り向く。そこにはジーンズを履いて、白い肌着のようなものに、黒いブルゾンを羽織った女性が銃を持って立っていた。黒と金を織り交ぜた髪色に、薄い青色の瞳。光司はその女性に見覚えがあった。


 ......何でゲームのキャラが目の前に立っているんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る