2. デッドエンド
太陽が傾いて、夕暮れ時になった南部高校に西日が差して、昇降口が白く輝いている。
下駄箱を開けて、自分の靴を取り出した月城が上履きから履き替えて帰ろうとした時、声を掛けられる。
「あれ?今から帰るのか?光司」
声を掛けてきたのは、深山だった。深山はバスケ部に入っていて、絶賛部活動中だった。月城は深山の方を見ながら、靴に履き替えていく。
「ああ、鬼教官の補習のせいでな。オマケに山のような宿題まで出された」
「あーあ、まあお前が悪いわな」
「しょうがないだろ!?だってまさかゲームとテストの週が被るとは思わなかったんだ!」
「お前にゲームをやらない選択肢はないのか?」
月城が食い気味に深山に言うが、深山はそれを冷静に返す。
「知哉たちは?」
「先に帰るって言ってた」
「そっか、雄介も部活頑張れよ。じゃあな」
「ああ、また明日な」
月城が手を振って、昇降口から出ていく。深山も月城に手を振って、体育館に戻ろうとした時、窓から見える空を見て呟いた。
「何か雨降りそうだな」
✳︎ ✳︎ ✳︎
家の帰路についていた月城が自宅の玄関のドアを開ける。月城の家はマンションの7階の3LDKの部屋だった。
「ただいま」
「あ、光司。帰ってきたとこ悪いんだけどさ。味噌買ってきてもらえる?味噌」
台所から月城の姉の理恵子が顔を覗かせて、光司にお金を差し出しながら言う。
「また買い忘れたの?」
「いやぁ、ちょっと帰りに美味しいクレープの匂いを嗅いじゃってさ、ついね」
「父さんと母さんは?」
「仕事で遅くなるって」
「はぁ、分かったよ。行ってくる」
「お願いねー」
光司は脱いだばかりのスニーカーをまた履いて、ドアを開けて近くのコンビニに向かう。エレベーターで一階に降りた途端に、風がエントランスに入り込んで、体を震わせる。
「うー、寒い。何かやけに暗いな今日」
エントランスの自動ドアを抜けて、道沿いに歩いていく。コンビニは歩いて五分のところにあった。コンビニの前には傘立てがおかれている。
コンビニに入ると、軽快な音楽が聞こえてくる。程よい暖かさの店内と、この音楽は反則だ、いつも眠くなると光司はコンビニに入るたびに思っていた。棚から味噌を見つけて、レジに向かおうとした時、プリペイドカードが掛けられているラックを見つける。
「あ、そういえば今日だっけ?新しいダウンロードコンテンツの配信。これも買ってこ」
味噌とプリペイドカードを持ってお会計を済ませてコンビニに出た瞬間、どしゃ降りの雨が降り始めた。
「うわ!急に降り出してきたな!」
光司は雨の中を走って、急いで家に戻る。マンションにたどり着いた頃には、既に全身がびしょ濡れだった。
玄関のドアを開けると、理恵子がタオルを持って待っていた。
「ありがとー、外すごい雨だったでしょ」
「急に降り出してきてさ、先に風呂に入っちゃうわ」
光司はそう言って、そのまま風呂場に向かった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
夕飯を食べ終えて、光司は自分の部屋に戻って、ゲーム機の電源を入れる。ゲーム機が立ち上がってメニュー画面になると、すかさずに、オンラインストアを開いてプリペイドカードの番号を打ち込む。それから、『デッドエンド』のメニューを開いて、ダウンロードコンテンツのバーを選択する。
「あったあった。えーと、“ラウルヒストリー”か......主人公のサイドストーリーか?」
『デッドエンド』の主人公であるラウル。彼を操作して迫りくるゾンビどもをなぎ倒して、クリアに導くのがこのゲームだ。光司も久しぶりに熱中したゲームで、とにかくストーリーが長い上に、ボスが強い。光司を徹夜三昧にした要因でもあった。
「よし、早速ゲームを開始して......ダウンロードコンテンツ、と」
光司がダウンロードコンテンツを選択して、ローディングの画面になると、どしゃ降りのの外でいきなり雷が光る。大きい音を立てて、光司は驚く。瞬間、部屋の中の電気が一斉に落ちて、真っ暗になってしまう。
「うわ、停電?マジかよ」
部屋から出て、ブレーカーの元へ行くと理恵子が既にブレーカーを確かめていた。
「あ、光司。何かダメっぽいね、いくらやっても電気が付かないわ」
「マジかぁ」
光司がうなだれながら部屋に戻ると、真っ暗な部屋の中で、カタカタと妙な音が聞こえてくる。光司がその音に気付き、音の方へ視線を向けると、ゲーム機が緑のランプを灯しながら動いていた。
「え......動いてる?」
光司がゲーム機に近づいていくと、やがてモニターの画面がパッと突然つく。
モニターの画面にはローディングの文字が出ていた。
「......停電してるんだよな?」
ゲーム機に触ろうとした時、いきなりモニターが眩い光を放ち、光司を飲み込み、部屋全体を包み込んだ。
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