第17話「クロードと不思議なダンジョン その3」

 階段を下りて地下へと侵入した俺達を待っていたのは、全身がいい感じに腐敗しているアンデッドの群れだった。何故か武装しているアンデッドも紛れていたが、俺の『業炎放射インフェルノエミッション』で片っ端から焼き尽くしていく。汚物は消毒だヒャッハー。


「なぁ、あのアンデッドの鎧に見覚えが有るんだが……ここに入る前の冒険者の列で並んでいなかったか?」


「シルっちもっすか? わたしもあのアンデッドの装備、さっき見たような気がするんすよねぇ」


「冒険者達が、アンデッドに、なっちゃった?」


 ユミナ先生の予想は多分正解だろう。俺も先ほど燃やした冒険者の装備には見覚えがある。先行してダンジョンの中に入っていった冒険者達はどこへ行ったのかと思えば、地下に落とされてアンデッドにされていたようだ。もしかしたらあの最初の三叉路で右を選んだ冒険者達の末路なのかも知れない。


「まぁ、アンデッドになってしまった冒険者達には申し訳ないですが、俺達はさっさと先に進まなきゃいけないんです。ここでの情けは無用ですよ。『業炎放射インフェルノエミッション』!!」


 続々と出てくるアンデッド達を問答無用で燃やし尽くしていく。なんかちょっと楽しくなってきた。


「よ、容赦ないなクロード」


「さすがクロっち。女の子以外には冷酷っすね!」


「あんまり虐めちゃ、ダメだよ?」


 2人の評価が酷い。あと別に虐めてるわけじゃないんだが…。

 アンデッドの猛攻を焼却処分して先に進むと、ドーム状の広い空間の部屋に出ることが出来た。しかし俺達が全員その部屋に入ると同時に、俺達がやってきた通路の上から鉄製の扉が降りてきて完全に帰り道を塞がれてしまう。どうやら閉じ込められてしまったようだ。


「うぇ!? し、閉まっちゃったっすよ!!」


「くっ、罠か!」


「…えぇ。俺達は嵌められたみたいです。そして、どうやらここにこの罠を張った張本人が居るみたいです。さっさと出て来い! 『火球ファイヤーボール』!」


 目視では確認出来ないが、脳内で展開している【探索魔法サーチ】にはしっかりと反応がある。そこに向かって『火球ファイヤーボール』を放つと、その対象に当たる直前で掻き消されてしまった。


「消された!?」


「ほっほっほっほ、まさか普通の人間の中にワシの潜伏魔法を見破る奴がいるとはのぅ。大したもんじゃ」


「何者だ! 姿を見せろ!」


 シルビア先生が剣を抜きつつ前に出て問いかけると、ドーム内の壁に取り付けてあった松明が一斉に灯り始める。その明かりに照らされて現れたのは、黒いローブを着た魔導師風の白髪に白髭を生やした老人だった。


「ほほほ、元気のいいお嬢さんだ。お初にお目にかかる。ワシはこの迷宮の主にして錬金術師、グリュンストン=マスカレイドという者じゃ。以後お見知りおきを」


「迷宮の主? お前がダンジョンマスターという奴か」


「その通りじゃ。ワシはこのダンジョンで長年『魂』の研究をしておってのう。今日は若い魂が大量に手に入ってウハウハじゃったわい」


 大量の若い魂? …それってまさか。


「もしかして、このダンジョンに入った冒険者達をアンデッドに変えたのは…お前か?」


「そうじゃよ。わしの仕掛けた試練を突破できなかった者、死の試練に挑み魂が抜き取られた者はアンデッドとなり、ワシの忠実な配下となるんじゃよ。お主達は知の試練を通ってきたようじゃが、なかなか洒落た問題だったじゃろう? あの問題は以前このダンジョンにやって来た転生者の記憶を解析して翻訳した物なんじゃよ」


 …やっぱり転生者が絡んでいたか。日本の知識がないと『なぞなぞ』なんて出せる訳がないからな。


「その者も今はわしの可愛いアンデッドじゃよ。この様にな。『召喚、死霊の虜達レイスグリード』」


 ダンジョンマスターが召喚魔法を使うと地面に黒い魔法陣が現れ、完全武装したアンデッドが大量に現れる。そのアンデッドの中には、先程俺達と別れたばかりの『烈火の盾』の面々の姿があった。


「…シルっち、あのアンデッドってもしかして…」


「ブ、ブライト=ローウェル…だと!?」


「あれって、『烈火の盾』の人達、だよね?」


「おや、この者達とは知り合いじゃったかな? ダンジョンの中をフラフラ歩いとったからこちらにお招きしたんじゃよ。多少抵抗されたが、今では可愛いアンデッドの仲間入りじゃ。よかったのぅ」


「き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!」


 激昂したシルビア先生がダンジョンマスターに襲いかかる。だが、召喚されたアンデッド達がダンジョンマスターを守るように立ち塞がった。


「ア”ア”~~~~…」


 既に『烈火の盾』の人達の顔には生気がなく、ただ主人であるダンジョンマスターの命じられるがままに行動しているだけという感じだった。完全にアンデッドになってしまった彼等を救ってやる手段はなく、せめてこの手で葬ってやるしか方法がない。仕方ないか…。


「ブライト!? 何故そいつを庇うんだ!!」


「ほっほっほ、無駄じゃよ。アンデッドとなった者には声など届かぬし、ワシの命令には逆らえん。彼等とお主達がどういう関係かは知らぬが、かつての知り合いをその手に掛けてワシに向かってくるか? そんな事を心優しいお主に出来るのか? ほーっほっほっほ♪」


「くっ! この外道がぁぁぁ!!」


「ふん、何とでも言うがいい。さて、そろそろお前達にも彼等の仲間入りをしてもらおうかのぅ。その若い魂をワシに捧げて死ね! 行けぃ、アンデッド達よ!」


 ダンジョンマスターに命令されたアンデッド達が、フラフラとシルビア先生に襲いかかってくる。シルビア先生は知人のアンデッド相手にどうしていいか分からず、ただその場に立ち尽くすことしか出来なかった。


「シルっち!!」

「シルビアちゃん!!」


 アンデッド達の手がシルビア先生に届こうとした瞬間、至近距離でマグナム弾でも打ち込まれたかのようにアンデッド達の頭が吹き飛ばされ、そのまま全身が炎に包まれていく。炎は消えることなく燃え続け、アンデッド達を白い灰へと変えていった。

 

 目の前で知り合いが滅ぼされた光景を呆然と見ていたシルビア先生は、その場にペタンと女の子っぽく座り込んでしまう。


「な、なんじゃと!?」


「…アンデッドなんかにシルビア先生をやらせる訳ねぇだろ。いくらお前がアンデッドを出そうが、全て俺の手で成仏させてやる」


「ク、クロード…なんで…」


 俺はシルビア先生の元に駆け寄ると、その肩を掴み目を見て話しかける。


「立って下さいシルビア先生。あの野郎に魂を奪われてしまった彼らの無念を晴らすためにも、あのゲス野郎ダンジョンマスターはここで始末しなければなりません。俺達がここであいつを殺らなきゃ、また彼らのような被害者が出てしまうかもしれないんです。そんな酷いことを許してもいいんですか?」

 

「クロード…」


「ふっ、まさか自分の知り合いをあっさりとその手に掛けるとはな。小僧、貴様は子供の分際で随分と非情な判断が出来るようだな。そしてそれを実行する行動力もある。気に入った、気に入ったぞ! その魂、是非とも欲しくなってきたわ!!」


「喧しいわ! 俺はお前に囚われた魂達を解放する。それがお前にいい様に利用された彼らへの弔いだ!」


 俺は腰の剣を抜きダンジョンマスターに突き付ける。コイツだけは今倒さなきゃならない相手のようだ。これ以上被害を出さないためにも、ここで確実に殺す!


「…そうだな。わかったよクロード。私も心を鬼にして彼らに報いよう!」


 ゆっくりとシルビア先生が立ち上がる。その目には再び闘志が戻ってきたようだ。


「よし、全員戦闘準備だ! この男を倒すぞ!!」


「「「了解(っす)!」」」

 

「ふっ、いいだろう、そこまで言うならかかってくるがいい。このワシまで辿り着けるのなら相手になってやろう!! 『召喚、死霊の尖兵レイスウォーリアー』!」


 再び召喚魔法が唱えられ、黒い魔法陣の中から武装した大量のスケルトンが出てくる。ダンジョンマスターに魔法で攻撃をしようとしたが、スケルトン達が壁になって妨害されてしまう。しかもこのスケルトン達の剣がかなり鋭く、敏捷性も高い為なかなかダンジョンマスターに近づく事が出来ない。


「くそっ! こんな骸骨に手間取るわけには!」


「つ、強いっすよこの骨ぇ!」


「シルビア先生、フラン先生! そのまま抑えておいてくださいね!」


 俺は【無限収納】から『グレゴリオ✩雑貨店』で大人買いした物を取り出すと、2人が抑えているスケルトンの間をすり抜けながら魔力を込めて貼り付けていく。すると、スケルトン達の口から魂っぽい何かが抜けていくのが見えた。魂を失ったスケルトン達はガラガラと力なく崩れ落ちていく。


「なっ!? ワシのスケルトン達が!」


「倒した…のか? クロード、お前は一体何をしたんだ?」


「これですよ。グレゴリオさんオススメの超絶退魔の札です。安かったから大量に買っておいて正解でしたね」


 あっという間に精鋭のスケルトン軍団を失って、ワナワナとその身を震わせるダンジョンマスター。よっぽどスケルトン達が昇天させられたことがショックだったらしい。ざまぁないわ。


「じょ、上等じゃこのクソガキがァ! 子供だからと手加減したのは間違いだったようじゃな! 貴様だけは絶対に許さんぞぉ! ワシの最高傑作で皆殺しにしたあと、その○○を○○にして○○○してくれるわぁ!! 『召喚、死霊の大魔人レイスヴァリアント』!!」


 再度魔法陣が黒く光り輝くと、その中から全身黒尽くめの鎧を身に纏った4mはありそうな巨人が現れた。その身に闇のオーラを纏って、明らかにさっきまでのアンデッドと格が違うのが見て取れる。なる程、コレがあいつの切り札か。

 

 ダンジョンマスターは召喚を完了すると同時に、何を考えたのか奥の部屋へと走り去ってしまった。あの野郎、逃げやがったのか?


「シルビア先生、ここは魔法が使える俺とユミナ先生が抑えます! 2人はダンジョンマスターを追って仕留めて下さい!」


「うん、ここは任せて先に行って! シルビアちゃん、フランちゃん!」


「…わかった、任せるぞ2人共!」


「早く追うっす!!」


 召喚された巨人の脇を抜け、2人はダンジョンマスターを追うべく先を急ぐ。巨人はそんな2人を腕を伸ばして阻止しようと試みるがそうは問屋が卸さない。


「させねぇよ! 『清き水よ降り注げ! 聖なる雨ホーリーレイン』!!」


「GYA、GYAAAAAAAAAA!!」


 巨人の頭上に聖水の雨を降らせると、全身から水蒸気のような煙を吹き出してもがく様に苦しんでいる。どんなに図体がデカくてもやはりコイツもアンデッド。聖水を掛けるのは有効のようだな。

 聖水に苦しみながらも、手に持った大剣で俺達を攻撃してくるが、そんな目標が定まってない大振りな剣が躱せないはずもない。俺はユミナ先生をお姫様抱っこして、身体強化アクセルブーストを掛けてから攻撃を後ろに飛んで回避した。


「ユミナ先生、一気に行きましょう!」


「うん、一緒に!」


『『聖なる水よ! 渦を巻き竜を成して不浄なる者を浄化せよ!! 聖なる竜巻ホーリートルネード!!』』


「GYAAAAAAAAAAAA!!!!」


 水魔法『聖なる竜巻ホーリートルネード』。作り出した大量の聖水を巻き上げて竜巻を作り、それに敵を巻き込んで攻撃する上級魔法だ。アンデッド属性の相手には無類の強さを誇る。この巨人も例外ではなく、俺とユミナ先生の初めての共同作業2対の聖なる竜巻に包まれて、全身を浄化されながら次第にそのサイズが小さくなっていく。上空には巨人に取り込まれていたらしい大量の魂が昇天していくのが見えた。


 頃合を見計らって魔法を解除すると、そこに残っていたのは巨大な黒い魔石だけだった。だがその周囲にはまだ瘴気のようなものが漂っている。


「今ので浄化されないのは大したもんだが、これで終わりだ!!」


「ギャアアアアアアアア!!」


 俺の剣がその魔石を貫くと、魔石は叫び声を上げて瘴気と共に消えていった。


『ありがとう、お前達のおかげで救われた』


 魔石が消滅すると同時に、どこかからそんな声が聞こえた気がした。ダンジョンマスターに囚われていた数多の魂がこれで救われたのかは分からないが、これで成仏して欲しいと心を込めて祈るとしよう。


「クロードくん、今の声…聞こえた?」


「ええ。アンデッドにされた冒険者達がお礼を言っていたのかもしれませんね。それじゃ、俺達もダンジョンマスターのところに行きましょう。一刻も早くあのクソ野郎を倒さないと!」


「うん!」


 俺達はダンジョンマスターと決着を付けるため、シルビア先生達の後を追い走り出した。先生達、俺の分も残しておいてくれるかな?


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