第16話「クロードと不思議なダンジョン その2」

 クルーエル遺跡のダンジョンに先に入っていった冒険者の1人が、全身に火傷を負って命からがら帰ってきて治療を受けている。その光景を見ていた他の冒険者達に、ダンジョントラップへの恐怖心が広がっていた。


「おいおい…ここがそんなに危険なダンジョンだなんて聞いてねぇぞ! 俺は降りる!!」


「お、俺もだ! 命あっての物種だぜ!!」


 恐怖に駆られた冒険者達が続々リタイヤしていく。中にはそれでも果敢に挑む冒険者もいるようだが、俺達はどうしようか。シルビア先生の方を見てみると、何故かちょっと楽しそうな顔をしている。


「シルビア先生、みんな逃げちゃいましたけど俺達はどうします?」


「そうだな。本来なら危険なトラップがあるダンジョンなんて行かない方が良いんだろうが、危険度が高い分、中のお宝には期待が出来るかもしれないな。それに…中々楽しそうじゃないか」


「た、楽しそうですね」


「あぁ、今まで行ったことないだろうから知らなかったかもしれないっすけど、シルっちって実はこういう危険なダンジョン探索とか大好きなんすよ。危険が多いほど攻略しがいがあるとか言って。まぁ危機管理は十分していくから、今までに危険な目にあったことってそんなに無いんすけどね」


「それはまた厄介ですね…」


 そんな厄介な性癖持ちで今まで無事だったのは、多分ユミナ先生やフラン先生が頑張ってカバーしていたからなんだろう。俺もシルビア先生の行動には気を付けないとなダメかもしれんね。


「まったく、お前らは適当な事ばかり言うんじゃない。私は別にどんな危険なトラップがあるんだろうとか気にしちゃいないぞ? 馬鹿な事を言うんじゃあない。うふふふん♪」


 めっちゃ楽しそうやんけ。少しは隠そうとしなさいよシルビア先生。


「ユミナ先生はどう思います? やっぱりこんな危険そうなとこ嫌ですよね?」


「うーん…私はちょっと怖いけど、シルビアちゃん楽しそうだし…行ってみようかな?」


 ま、まさかユミナ先生も賛成するとは思わなかった。残るはフラン先生だが…。


「フラン先生はどうですか?」


「私は行くの賛成っすよ。なんか楽しそうっすし♪ あ、もしかしてクロっち、ビビっちゃってるんすか? ウププ♪」


「ビ、ビビってないですよ! 俺をビビらせたら大したもんですよ?」


 まぁ若干ビビっているのは確かなのだが、みんな行くって言うなら俺も行くしかないだろう。多数決は民主主義の鉄則だからな。…【探索魔法サーチ】でチェックしながら進めばなんとかなるだろう…多分。


「もう列が崩壊して中に入れるみたいですし、さくっと行きましょうか」


「そうだな。よし、行くぞみんな! 警戒を怠るなよ!」


「「「了解(っす)!」」」



 


 シルビア先生を先頭にしてクルーエル遺跡ダンジョンの内部に侵入する。【無限収納】からカンテラを取り出して明かりを灯しながら進んでいくと、途中からヒヤッとした洞窟特有の低温の空気に変わった。

 

「なんかヒンヤリしますね」


「まぁダンジョンだからな。陽の光が当たらない分温度が低いんだ。風邪を引かないように注意しておけよ?」


「了解です」


 壁や床は加工した石材で出来ており、このダンジョンが人の手によって作られた物だということが分かる。しかしこういうダンジョン探索は初めてなんだが、はじめは怖かったが予想以上の緊張感にちょっと楽しくなってきた。所詮俺も男の子だったということか。


 【探索魔法サーチ】で洞窟内部を脳内チェックしてみると、とりあえず暫くは一本道で敵の反応はない。


「今のところ敵はいないみたいですね」


「そうか。だが警戒は怠るなよ? ダンジョンではどこから敵が出てくるか分からない。たまに壁から出てくることもあるからな」


「分かりました」


 一本道をしばらく歩いたところで、今度は3つに道が分かれている所に出た。その分かれ道の分岐点には石版が置かれており、それになにか書かれている。


「この石版、なんて書いてあるんすかねぇ? わたしにはこの字は読めないっす」


「私も、ちょっと、わからないかな」


 俺も石版を見てみると、何語かはわからないが読むことはできる。


「えーと、この道を左に曲がりし者には力の試練が、直進せし者には知の試練が待つであろう。右に曲がりし者には死の試練が待つ故、強者のみ進むべし。だそうです」


「クロード、この石版が読めるのか?」


 俺には【言語理解”極”】スキルがあるから、この石版の言語も楽勝で理解できるみたいだ。石版の文字が理解出来なくて右に行く人多そうだな。


「ええ。力の試練と知の試練。どっちが良いですかね? 右は論外ってことで」


「力の試練ってことは何かと戦うってことっすかね?」


「多分そうだと思います。知の試練は何か頭を使うようなことさせられるのかも?」 


「私は力の試練の方がいいな。頭を使うのは苦手だ」


「私もどっちかと言えば力の試練の方がいいっすね」


「私は、知の試練の方がいいな。力無いから…」


「クロードはどっちがいいんだ?」


 力の試練がどういう物か解らないが極力魔力を節約していきたいからなぁ。頭で何か考えて先に進めるならそっちの方がいいだろう。


「俺も知の試練の方が良いと思います。戦闘は今後の為にも極力避けたいですし」


「ふむ、2対2か。こういう時は……くじ引きだな!」


 安易だなー。別にいいけど。シルビア先生に急かされて【無限収納】から紙を取り出し、4枚のくじを作る。先が赤くなっているくじを引いた人に選択権が与えられる。


「それじゃ先生達、先に引いていいですよ」


「わかったっす。それじゃ……わたしはこれっす!」


「私はこれだ」


「それじゃ、これでいいよ」


「んじゃ俺はこれで。いっせーのーせっ!」


 赤いくじを引いたのはユミナ先生だった。


「やった♪」


 くじ引きの結果、ユミナ先生の選択した知の試練を受けることに決定したので、3つ又の道を真っ直ぐ進むことにした。【探索魔法サーチ】には相変わらず魔物反応は出ていない。


 再び5分ほど歩いたところ、俺達の目の前に大きな扉のようなものが現れた。その扉の前には、巨大で透明な水晶のような物が台座の上に置かれて鎮座している。…なんぞこれ。罠か?


 するとそこに、少し訛った男性の声が聞こえてきた。どことなくCV若本っぽい。


『知ぃの試練を望みし者よぉぉ。正ぅ面の水晶にその手を置きし時ぃ、試練開始のぉ合図とするぅ。試練に失敗せし時はぁ、汝らにぃ炎の裁きが与えられるであろうぅ』


「ななっ、どこかから声が聞こえたっすよ!?」


「敵か!? クロード!」


「いえ、敵では……ないみたいですけどね。その水晶に手を置いたら知の試練スタートみたいですよ。失敗したら燃やされるみたいなこと言ってますけど」


 さっきの火傷した冒険者って、多分ここで失敗して殺られたんだろうなぁ。


「…そうか。ここは頭脳派の2人に任せる。頼んだぞクロード、ユミナ!」


「了解です。ユミナ先生、一緒に頑張りましょう」


「わかった。頑張る」


 俺とユミナ先生は手を合わせて、同時に水晶の上に手を乗せる。すると、先ほどの声が再び俺達に語りかけてきた。


『それでは知ぃの試練を開始するぅ。これから出題するぅ10問の問いにぃ全て答えよぉ!』


 思わずゴクッと喉を鳴らす。一体どんな問題が出るんだろう?


『それではぁ第一問ッ! お城のまわりにある 食べられないかきって な~んだ?』


「お城のまわりに、柿があるの?」


 ……これってもしかして……なぞなぞ??


「い…石垣?」


『正解ぃぃ!!』


「クロードくん、どういうこと?」


「あー、あとで説明しますよユミナ先生」


『第2問ッッ!! お店でせっかくかったのに そのままお店においてきちゃうもの な~んだ?』


「……髪の毛」


『正解ぃぃぃ!!』


「おー、すごい、クロードくん」


 その後も謎の声からはなぞなぞの問題が出題され続ける。なんでここでなぞなぞなんだとか、いったい誰が問題考えたんだとか色々と疑問は尽きないが、とりあえず試練は試練。きっちり正解を答えていく。

小学校時代、なぞなぞ大魔人と呼ばれた俺に挑もうとはいい度胸だ。

 

 そして最終問題。


『第10問ッッ! 肺は8 箱は40 花はいくつ?』


「……56」


『正解だぁぁ!! 賢者よぉ、先に進むがいいッ!』


 ゴゴゴゴゴゴッと音を立てて扉が開いていく。やっと終わったか。


「ねぇねぇクロードくん、どういうこと? 問題、全然解らなかったよ?」


「わたしもさっぱりだったっす。教えて欲しいっすよ!」


「私は聞いてもわからんから別にいい」


「あはは、それじゃ歩きながら説明しますね」




 先生達になぞなぞのメカニズムについて説明をしながら先に進んでいく。出された問題を細かく説明して、ようやく2人は理解してくれたようだ。シルビア先生は最初から考えることを放棄している。


 扉を通ってしばらく先に進むと、今度は開けた広い空間に出ることが出来た。そこでは先行した他の冒険者パーティが魔物と戦闘しているようだ。全身に金属の鎧を身に纏い、巨大な斧を持った3mくらいある魔物と3人の冒険者が戦っている。彼らは力の試練を突破したのかな?


「あれは、ここを守るガーディアンですかね?」


「あぁ、どうやらそのようだな。見るからに冒険者側がヤバそうだ。みんな、あいつらに加勢するぞ!」


「「「了解(っす)!」」」


 劣勢に追い込まれている冒険者達を救援すべく、雷魔法で援護する。


『雷よ戒めの鎖となれ! 雷縛鎖ライトニングバインド!』


 俺の放った雷の鎖が、冒険者の男に斧を振り下ろそうとしていた魔物の右腕に絡みつき、そのまま上半身を雁字搦めにして動きを拘束する。だが魔物の力が予想以上に強く、あまり長くは持ちそうもない。


「なっ!? あんた達は…」


「Dランクパーティ『銀月の誓い』だ。勝手ながら加勢させてもらう!」


「おぉ、ありがたい! こちらはCランクパーティ『烈火の盾』だ。加勢に感謝する!」


 シルビア先生達が冒険者達を救出してその場を離れると同時に、縛り付けていた雷縛鎖ライトニングバインドが引きちぎられてしまった。力強いなこの魔物。


 『烈火の盾』のメンバー達は全員満身創痍という状態だったため戦力には期待出来ない。ここは俺達だけでやるしかなさそうだ。フラン先生とシルビア先生が速度を活かして手持ちの武器で攻撃しているが、魔物の鎧には傷ひとつ付いていない。


「くっ、硬いな!」


「この魔物めっちゃ硬いっすよ!? 手が痛いっす~」


「2人共! 魔物の鎧が覆っていない関節部分を狙ってください!」


「「了解(っす)!!」」


「ユミナ先生、俺が今からあの魔物を炎の魔法で燃やすので、その後すぐに水魔法で急速に冷やしてください!」


「うん、わかったよ」


 俺は気合を入れて魔法を詠唱し、そのまま収束を掛けていく。普通に火魔法を打ったところであの鎧には通用しないからだ。十分収束させたところで、前衛の2人に声をかける。


「シルビア先生、フラン先生、魔物から離れてください!」


 俺の声を聞き、2人は即座にその場を離脱した。魔物が足を止めている今なら!


「喰らえ! 『業炎放射インフェルノエミッション』!!」


 俺の手から放たれた強烈な火炎放射を魔物の全身に余す所なく浴びせていく。突然自分を襲った急激な熱に耐えられなかったのか、魔物が大きな咆哮を上げた。


「GUOOOOOOOOON!!!」


 火炎放射の勢いで壁際まで押し込み、鎧が熱で十分に赤くなったところで火炎放射を止め、魔法の詠唱を終えていたユミナ先生に指示を出した。


「ユミナ先生、今です!」


「うん! 『水龍陣リヴァイアサークル』!!」


 中級水魔法、水龍陣リヴァイアサークル。対象の足元に魔法陣を配置し、そこから急激な勢いで間欠泉の如く大量の水を吹き上げさせる魔法だ。壁際に追い込まれた魔物には避ける術はない。

 

「GUUUUUOOOOOOON!!」


 魔物の鎧が急冷されて水蒸気が立ち込めている。今がチャンスだ!


「シルビア先生、フラン先生! 魔物の鎧に攻撃を!!」


「「了解(っす)!」」


 焼入れされた魔物の鎧は強度が極端に下がり、2人の物理攻撃によって脆くも破壊されてゆく。そこからは先生達2人による一方的な蹂躙劇が開始されていた。


「あの硬い鎧が無くなったらこっちのモノっす!! 死ね死ね死ねっすー!!」


「はははははっ! 喰らえ『黄龍連牙斬』!!」


「GUOOOO…OOO…」


 テンションの上がった2人に徹底的にボコボコにされた魔物は、為す術無くその場に崩れ落ちた。よし、新しい魔物肉ゲット。晩飯はバーベキューだな。


「やった、勝ったっす~!」


「ふっ、我々の勝利だ!」


 最後の方は虐めてるみたいになっていた気もするが、まぁ勝ったからいいか。魔物を倒したことに反応したのか奥へと進むための扉が開き、その奥に地下へと降りる階段が見える。


「あそこから下の階に行けるみたいっすね」


「そうみたいですね」


 するとそこに、戦線を離脱して回復に集中していた『烈火の盾』の人達が話しかけてきた。


「すまない、俺はCランクパーティ『烈火の盾』のリーダーをやってるブライト=ローウェルという者だ。後ろのはジュリアとトーマス。救援に来てくれて助かった。本当に感謝する」


「礼には及ばない。私はDランクパーティ『銀月の誓い』のリーダー、シルビアだ。そっちの2人は大丈夫だったか?」


「ああ、なんとかな。だが俺達はもう限界が近いから脱出することに決めた。もし君達がここから先に進むのなら注意して進んだ方がいい。さっきの魔物でも分かるように、ここはこれまでのダンジョンとは別物みたいだからな。街に帰ってきたら声をかけてくれ。助けてくれたお礼に酒でも奢ろう」


「わかった。気をつけて戻ってくれ」


 『烈火の盾』メンバーはダンジョンを引き返していく。確かにこのダンジョンはなぞなぞといい、さっきの巨大な魔物といい、何かがおかしい気がする。気を引き締めて進んでいこう。


「さて、それじゃそろそろ先に進もうか」


「「「了解(っす)!」」」



 俺達は階段を下りて地下へと向かう。この先何が待っているのやら。



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