第15話「クロードと不思議なダンジョン その1」
「クロっちクロっちクロっち~!!」
商業ギルドでオセロの権利を売り払ってから暫くして、今日は休日かと思って朝からゆっくりしていたところに、窓の外からフラン先生の俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
窓を開けると、そこにはなにか慌てたようなフラン先生の姿があった。
「どうしたんですかフラン先生? そんなに慌てて」
「大変っすよ! すぐに冒険者ギルドに来るっす!!」
大変って…まさか、ユミナ先生に何かあったのか!?
「わ、わかりました、すぐ行きます!」
慌てて着替えてから、フル装備で家を出てフラン先生と一緒に冒険者ギルドに走る。くそっ! 一体何が起こったって言うんだ!!
「フラン先生、一体何があったんですか! ユミナ先生は無事なんですか!?」
「ユ、ユミナっち!? ユミナっちは無事っすけど…それよりファルネス領に新しいダンジョンが発見されたんすよ!! 新発見っす!」
「ダ、ダンジョンですか!?」
ダンジョンで大変な事と言えば……まさか、
「そうっす! 早く行かないと他の冒険者に先を越されちまうっす!!」
「……ん? どういうこと?」
「だからぁ! ダンジョンのお宝が他の奴らに回収されちゃうかも知れないんすよぉ! 急がないと貴重なお宝がぁ!!」
「あの、
「そんなの発生してないっすよ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それじゃ、俺は帰って寝ますね」
「わー! 待つっす待つっす帰っちゃダメっす~!!」
そのまま帰ろうとしたがあっさりと捕まり、フラン先生の体(胸)を使った必死の説得に懐柔されてしまったので、とりあえず冒険者ギルドに赴き新しく発見されたというダンジョンの状況を確認することにした。
冒険者ギルドの中は、新ダンジョン発見の報告を聞きつけた大量の冒険者で溢れかえっていた。その集団の中にシルビア先生とユミナ先生を発見する。
「おぉ、来たかクロード。おはよう」
「おはよう、クロードくん」
「おはようございますシルビア先生、ユミナ先生。フラン先生に無理やり連れてこられました」
「ははは、それは朝から災難だったみたいだが、いいタイミングで来たな。ちょうどこれからギルドの公式発表があるようだぞ」
「公式発表?」
前の方を見てみると、用意された演台にハルファウェンさんが登っていくのが見える。周囲を確認してから声を拡張する魔道具を口に当てて話し始めた。
「冒険者の諸君、集まってくれて感謝する。先日行われたギルド遺跡調査隊の手による大規模探索で、ファルネス領の南にあるクルーエル遺跡の内部にダンジョンが発見された!」
「「「「「おお~~~!!」」」」」
「なお、このダンジョン周辺にいる魔物の強さから考慮して、挑戦するのはDランク以上の冒険者に限らせて頂く。挑戦する者は受付でダンジョン探索者名簿に登録してから、各自入念に準備をして挑んで欲しい! ダンジョン内で得た拾得物はギルドで買い取りをする予定なので、ダンジョン内の調査の為にも売ってくれることを期待する。私からは以上だ。では、解散!」
そう言うと周囲にいたDランク以上の冒険者達は受付に殺到していく。それを見て満足したように、ハルファウェンさんは壇上を降りていった。
「くぅぅ! 燃えるっすね新ダンジョン! クロっち、早速登録しに行くっす!」
「んー、ダンジョンか…どうしようかな。シルビア先生はどう思います?」
「そうだな。折角の機会だし、初のダンジョン探索に挑戦してみるのもいい鍛錬になるかもしれないぞ。それに、フランをこのまま放っておいたらそのまま一人でダンジョンに行き兼ねないからな」
「あはは、確かにそうですね。それじゃみんなでダンジョン探索に行ってみましょうか。何かお宝があるかもしれませんからね」
「やったーっす! ありがとうっすクロっち♪」
そんなわけで、これからみんなでダンジョン攻略に乗り出すことになった。とりあえずダンジョンの探索に必要な物資を揃えなきゃいけないな。キャンプ道具とかでいいのかな?
「それじゃ準備しに中心街に行こうか。買い揃えなきゃいけないものも多いからな」
「何を買うんですか?」
「野営の道具やロープにスコップ、あとはカンテラも必要だな。それと回復薬や解毒薬、その他の薬品類も揃えておきたい」
「それじゃグレゴリオちゃんの店に行くっすよ。あそこなら大体揃うっすからね」
「そうだな。そうしようか」
グレゴリオちゃんの店??
「到着っすよ!」
フラン先生達に付いて歩くこと10分程。俺達の正面には2階建ての大きい店が現れた。全体的にピンク色のファンシーな外装、そして丸文字の直筆で書かれたと思われる『グレゴリオ✩雑貨店』という看板を、等身大のファンシーなピンク熊の置物がその逞しい腕で掲げていた。なんだろうこの店。何屋かすら俺には分からない。
「……本当にここなんですか?」
「そうっすよ。早く中に入るっす!」
なんか嫌な予感がしつつ中に入ると、これまたピンクのフリっフリなメイド服を着て、
「いらッッッしゃいませぇん、グレゴリオ✩雑貨店へようこそぉぉぉぉう♪」
嫌な予感が的中したよこんちくしょう!!
「こんにちわっすグレゴリオちゃん! 今日もナイスバルクっすね♪」
「あら、フランちゃんじゃなぁぁい。ありがとぅ、とっても嬉しいわぁ。昨日張り切って8時間ぶっ通しで筋トレした甲斐があるってものだわねぇ。シルビアちゃんとユミナちゃんも久しぶり✩ 元気だったかしらァん?」
「ああ、久しぶりだなグレゴリオ。お前も相変わらず元気そうだな」
「こんにちわ、グレゴリオちゃん」
先生達はどうやらこの屈強の店員に慣れているらしく、普通の反応で挨拶を交わしている。初めて見る恐ろしく濃い外見に、俺が慣れるのはまだしばらく時間がかかりそうだ。
「あら、そちらの可愛い坊やは貴女達の連れ子かしらん? 誰の子誰の子?」
「いやいや、彼は私達の弟子みたいなものだよ。クロード、彼女がこの店の店長のグレゴリオだ。見た目はこんな感じだが決して悪い奴じゃない。仲良くしてやるといい」
「は、はい! 初めまして、シルビア先生達に色々教えてもらっているクロード=グレイナードです。よろしくお願いします!」
「あら、ご丁寧な挨拶ありがとぅ坊や✩ 私はグレゴリオ=アームストロング。このグレゴリオ✩雑貨店の店長にして
ま、
「
「ええそうよ。私達の筋肉信仰はその辺の冒険者に負けることはないわ! クロードちゃんもうちのパーティに入りたい時は言ってねぇ。私が直々に鍛えてあげるわん♡」
「そ、その時はよろしくお願いします…」
絶対に入りたくないパーティ最有力だな。暑苦しさで胸焼けしそうだ。
「それで、今日は何か買いに来てくれたのん?」
「ああ。これからダンジョンに潜るから、その装具を一式揃えようと思ってな。揃ってるか?」
「あら、やっぱり貴方達もそうなのねん。今日はそういうお客さんが結構来るから売上好調なのよん♪ でも安心して。私の店は在庫切れなんて馬鹿な真似は絶対にしないわ!」
「おおっ、さっすがグレゴリオちゃんっすね! それじゃ買い物開始っすよ!」
濃い人との濃い挨拶も程々に、全員でダンジョン探索用のアイテムを選んでいく。ファンシーなアイテムばかりだと思っていたが、意外にもこの店の品物のラインナップは普通に良い物を取り扱っており、値段は多少張ったがそれ相応の品質の物をゲットすることができた。
その中にひとつ、ガラスケースに入れられた商品の中に興味が惹かれるアイテムがあった。キラキラと金色に輝く腕輪だ。
「あの、これってなんですか?」
「それは天神の腕輪と言って、装備した者は全ての状態異常にある程度抵抗する能力が得られるわん。この腕輪自体がオリハルコンで出来ているから、とっっっても貴重な腕輪なのよん」
確かに、【真眼】で確認してもその効果があるようだ。
『天神の腕輪』:装備した者に状態異常耐性スキルを付与する。
オリハルコン製かぁ……これ、欲しいな。今後の事を考えると状態異常耐性は是非とも欲しいスキルだ。特にこれからダンジョンへ行くんだから尚更あった方が良いだろう。前に【魔法創造】の実験で、状態異常無効化魔法を作ろうとしたらコストがとんでもないことになって断念したからな。
「あの、この腕輪っておいくらですか?」
「あらあら、もしかしてこの腕輪を買う気かしらん? そうねぇ……フランちゃん達のお弟子さんだし、特別に安くしても白金貨5枚は必要よん?」
白金貨5枚…500万か。確かにそれくらいの値段の価値はあるだろう。
「わかりました。ちょっと待っててください。先生、ちょっと出てきますね」
先生達に断りを入れてから、俺は冒険者ギルドへダッシュした。今までの依頼で稼いだ分と、オセロのアイデア料を合わせたら確かそのくらいなら口座に入っていたはずだ。
息を切らせて冒険者ギルドに着くと、受付にいるソニアさんのところに行く。
「はぁ、はぁ、ソニアさん、ちょっといいですか?」
「あらクロードくん。どうしたのそんなに慌てて?」
「あの、今、俺の口座にどのくらい入ってますか?」
「え? えっと、ちょっと待ってね。……えっと、今クロードくんの口座には金貨で668枚が入ってるわね」
よし、買える!
「それじゃ白金貨5枚分引き落とさせてください」
「…わかったわ。それじゃ冒険者証を預かるわね。何か大きな物でも買うの?」
「ええ。これからの俺に必要なものを買います!」
ソニアさんから白金貨5枚を受け取り、礼を言ってからすぐにギルドから踵を返してグレゴリオ✩雑貨店に戻ってきた。ここまでずっとダッシュだったから流石に疲れたな。
「はぁ、はぁ、グレゴリオさん…これで、いいですか?」
グレゴリオさんに白金貨5枚を渡す。俺の少ない人生の中でも最高級の買い物だ。
「…まさか本当に用意してくるなんてねぇ。わかったわ。私の店の目玉商品だったんだけど、クロードちゃんに売ってあげる。大切に使ってねん?」
「ありがとうございます!」
グレゴリオちゃんからショーケースから出された天神の腕輪を受け取り、早速装備してみる。サイズがちょっと大きいかなと思ったが、装備した途端にサイズが縮んで、俺の腕の大きさにピッタリと収まった。
「その腕輪にはサイズ自動調整の魔法が掛けられてあるから、誰が使ってもピッタリ嵌って安心なのよん」
「これはすっごくありがたいですね。助かります!」
「ただ、注意してね。絶対に状態異常に掛からなくなった訳じゃないし、腕輪の能力を超えた状態異常攻撃は勿論喰らっちゃうわ。ダンジョンでは油断は死に繋がるってことを忘れちゃダメよん?」
「……はい。ありがとうございます!」
その後、全員の買ったテントなどの野営道具や食料品等を【無限収納】へ入れてから俺の家に戻った。外泊をする時は父さんの許可を取らないとダメだと約束させられたので破るわけには行かない。
書斎にいた父さんに、『これからダンジョンに潜りに行くから、泊まりになるかも?』と告げると訝しげな表情に変化した。
「新しくダンジョンが見つかったとは聞いているが、そこにクロードが潜って大丈夫なのか? 中にどんな危険があるかわからないのだろう?」
「ギルマスからダンジョンに潜れるのはDランク以上の冒険者と告げられているので、クロードの今の実力なら問題ないかと思われます。それに私達も一緒に潜りますので、何かあった時はこの身を呈してでもクロードを守ります。ご安心ください」
「父さん、俺だってもうDランク冒険者なんだから頑張って乗り越えるよ!」
父さんは腕を組んで悩んでいたが、やがてため息を吐いて首を縦に振った。
「………正直まだ早すぎると思わなくもないが…まぁ、いいだろう。これもクロードの貴重な経験になるはずだ。雇用主としてお前達に命じる。何があっても必ずクロードを守れ。いいな?」
「「「はい!」」」
父さんになんとか許可を取り、俺達はダンジョンのあるクルーエル遺跡へと向かった。
クルーエル遺跡に到着すると、数多くの冒険者が遺跡の外に列を作って並んでいるのが見える。どうやら洞窟に入る順番待ちをしているようだ。ダンジョンの中って狭いのかな?
「なんか…入れる様になるまで結構時間かかりそうですね」
「まぁ仕方あるまい。新しく発見されたダンジョンと言うのは人気が高すぎて入場規制が掛かるものなんだ。もし大人数が一気に入ってしまったら、内部で詰まって魔物と遭遇しても戦えなくて全滅した、なんて話も聞くからな。素直に並んで待つしかないだろう」
「そうっすね。とりあえずわたし達も並ぶっすよ」
「うん。並ぼう」
というわけで、俺達も冒険者の列の最後尾に並ぶことにした。時間が経つごとに列は少しずつ動いているが、先を見るとまだまだ長い行列が出来ている。暇つぶしにその場に座ってフラン先生とオセロをやっていると、突然何かが爆発したかのような激しい音がダンジョンの中から聞こえてきた。
「な、何事っすか!?」
「先生、あれ!」
ダンジョンの中から全身が黒焦げになった人が飛び出してきた。息も絶え絶えになったその負傷者を、列を管理していたギルド職員が救助に向かう。
「おいどうした! これは酷い……ダンジョンの中で何があったんだ!?」
「わ、訳わからねぇよ…。変な問題出されて……それに答えられなかったら……突然、火炙りにされたんだ。俺の仲間も、他の冒険者達も、みんな……グフッ」
「おいしっかりしろ!! 救護班、救護班!!」
変な問題? 何らかのトラップに引っかかったってことなんだろうか? …どうやらこのダンジョンの攻略は一筋縄では行かないらしい。気を引き締めないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます