第14話「商業ギルド」


「クロード、あれが商業ギルドだ」


「わぁ…おっきい建物だね!」


 中央通りの一角に3階建ての大きな赤い施設が建っていた。正面の扉の上には、黄金の天秤の絵の上に商業ギルドと大きく書かれた看板が掲げている。自己主張激しいな商業ギルド。


 サムソンに馬車を任せ、父さん達と共に商業ギルドの中へと入る。広いエントランスの中には、商業ギルドなだけに商人っぽい人が多く、冒険者の姿はあまりない。受付まで行くと、赤いチャイナ服を着た青い髪の猫耳お姉さんが対応してくれた。


「商業ギルドへようこそにゃ! ご要件をお伺いしますにゃ」


 ……ご、語尾に…にゃ!? 異世界だし、どこかには存在しているだろうと思ってはいたが…こんなところに実在したのか! もしかして猫人族ってみんなそうなのか!?


「クロードどうした? そんな驚いて」


「ううん、何でもないよ父さん…はぁ、はぁ…」


「そ、そうか。まあいい。領主のガルシア=グレイナード・ファルネスだ。商業ギルド長との約束があるのだが」


「りょ、領主様にゃ!? 申し訳ありませんにゃ…領主様とはつゆ知らず。今ギルド長を呼んできますにゃ!」


 フリフリと尻尾を振ってギルドの奥に走り去っていく猫娘。どうやらあの猫娘は領主がどんな外見なのかを知らなかったらしい。まぁ知ってたら領主様って自分から言うもんな。猫娘を待っていると、白く長い髭を生やした老人が共にやってきた。


「これはこれは、お待たせしましたなファルネス子爵」


「いや、大して待っていないさ。クロード、この人が商業ギルドマスターのジュブナイルだ。挨拶しなさい」


「初めまして、グレイナード家三男のクロード=グレイナードです! よろしくお願いします!」


 元気よく挨拶し一礼する。初対面は第一印象が大事。婆ちゃんが言ってた。


「おやおや、行儀良い子だ。私は当商業ギルドのギルド長をやっているジュブナイル=ガーランドと申します。以後お見知りおきを。それではこちらへどうぞ」


 ギルド長に案内されて、ギルドの奥にある来賓室へ通された。俺と父さんがソファーに腰掛けるのと同じタイミングで入口の扉がノックされる。誰か来たのかな?


「失礼しますにゃ。お茶をお持ちしましたので、よろしかったらどうぞにゃ♪」


 先ほど出会った受付の猫娘がお茶を運んできた。猫口で笑顔を浮かべる猫娘は色んなところがキュンキュンしてしまうレベルで可愛い。うおぉぉぉぉ!! モフモフしたいよ!! モフモフ!!


「ありがとうリンダ。あとは私がやるから下がっていいよ」


「はいですにゃ。失礼しますにゃ」


 猫娘の名前はリンダ。覚えておこう。要チェックや!


「それで今日のご用向きは、この間の…」


「いや、その話の前に見てもらいたい物がある。クロード、オセロを出してくれ」


「はい」


 【無限収納】から一般向けの木製オセロを取り出し、テーブルに置く。


「ギルド長、まずはこれを見て欲しい。これはクロードが作ったオセロという遊戯盤だ」


「遊戯盤…ですか。これは一体どうやって使うのですかな?」


 ギルド長はオセロを手に取り、細部まで眺めだした。この世界では珍しい色の遊戯盤に興味津々といった感じだ。


「使い方を説明しよう。取り敢えずテーブルに置いてくれ」


 ギルド長にオセロのルールを説明し、物は試しにと実際に俺と父さんでプレイしてみる。すると徐々にギルド長の目の色が変わっていった。


「ふむふむ、これは大変素晴らしい物ですな! ルールが簡単だから子供から大人まで楽しめる上に戦略性も高い。娯楽に飢えている貴族達もこぞって買いに来ますぞ!」


 父さんと同じこと言ってるな。そんなに飢えてるのか貴族連中。


「ああ、俺もそう思ってここに持って来たんだ。さらにもう一つ、これは一般向けに販売する為のオセロだが、貴族用に販売する為のオセロも作って貰ったんだ。クロード、もう一つのも出してくれるか」


「わかりました父さん」


 今度は【無限収納】から貴族用の純銀オセロを取り出してテーブルに置く。それを見たギルド長は更に目を輝かせた。


「こ、これはっ!」


「クロード、説明を頼んでいいか?」


「はい父さん。そのオセロは全て不純物なしの純銀で作られています。盤面と石には魔法で着色してありますので、滅多なことでは剥げません。あと、横に描いた龍は私が以前読んだ書物に掲載されていたものを参考に掘らせて頂きました。石の国旗の模様も同様です」


 以前読んだ書物って言っても、ドラゴンボ○ルのコミックだけどな。


「不純物のない純銀!? 一体そんなものどうやって…」


「そこは私の魔法でちょちょっと加工したんです。方法は企業秘密ですよ」


 【魔法創造】の事を言う訳にもいかないからね。


「なる程…これはすばらしいですな。今までの銀細工は不純物が含まれているせいで色褪せている印象でしたが、このオセロにはそれが全くない。それにこの国旗の模様の細かさ、横に彫ってある龍の芸術性の高さ、どれを取っても素晴らしいとしか言いようがありません。あの、これも売っていただけるということでよろしいのでしょうか?」


「ああ。勿論そのつもりだが更に突っ込んだ話をしたい。クロード、このオセロを自分で作って商業ギルドに直接売るのと、オセロの権利を売って商業ギルドに生産してもらい、そのアイデア料として利益を得るのとどちらがいい?」


 んー、正直オセロを自分で作って商業ギルドに売りに来る時間を考えたら、権利を売って作って貰った方が俺的に面倒がないような気がする。それにその方がオセロの普及率が早そうだしね。


「それじゃオセロの権利を売りたいと思います。自分で作るのも結構大変ですから」


「わかった。ギルド長、このオセロの権利を売るから商業ギルドでこれを生産して売り出して欲しい。この商品は平民にも貴族にもかなり売れると俺は踏んでいる。クロードにはアイデア料として売上の20%で取引して欲しい」


 アイデア料で20%は暴利では?


「いやいや流石に20%は厳しいかと。制作費や宣伝費、その他もろもろを考えると10%が適正ですかな」


「流石にそれは舐めすぎだろう。クロードが苦労して考え出した物を安く引き取るつもりか?」


 ギルド長と父さんの交渉は徐々に白熱していく。とりあえず売れればいいかぐらいに考えていた俺はその光景をただ見ていることしか出来なかった。商人との価格交渉なんてしたことないもの。


「……わかった。ではアイデア料は売上の16%でいいな」


「……はい、畏まりました。それでお受け致しましょう。クロードくんもそれでいいですかな?」


「値段交渉は父さんにお任せしていますので大丈夫です。それでお願いします」


「わかりました。それではこちらをどうぞ」


 ギルド長が懐から銀貨5枚と金貨8枚をテーブルに置いた。


「これは?」


「この木製のオセロと純銀製のオセロの代金です。お収めください」


 この世界の通貨はわかりやすい。

 

 銅貨=100円 

 銀貨=1000円 

 金貸=10000円 

 白金貨=1000000円

 黒金貨=100000000円


 ざっくりいえばこんな感じである。つまり木製オセロは5000円、銀製オセロは80000円ってことだ。

高いのか安いのか相場がよくわからないが、横の父さんを見ると頷いていたので大丈夫だろう。俺は初めて、商売として自分で通貨を稼ぐことに成功したようだ。


「クロードくん、こちらでオセロ売り上げた際に発生するアイデア料を支払うに当たって、振り込むための口座を作ってはいかがですかな?」


「口座ですか?」


「えぇ。この商業ギルドに会員登録をすればすぐ作れますので、円滑に取引を進めるためには作っておいて損はないかと思いますよ」


「あの、冒険者ギルドにも口座を持っているんですけど、それと共有とかは出来ないんですか?」


 一応冒険者証を取り出し、ギルド長に見せる。


「な、なんと…その歳でDランクとは…オセロの事といい、領主様は凄まじいお子様をお持ちなのですな」


「ふふーん、そうだろう?」


 めっちゃドヤ顔してるとこ悪いけど、そんな大したことじゃないからね?


「冒険者ギルドと口座を共有することは可能です。しかし、その際にも商業ギルドへの会員登録と手続きは必要ですので、このあと受付の方へ行って頂けると助かります」


「わかりました」


「クロード、父さんはまだギルド長と話があるからここにいる。一人で出来るな?」


「勿論、大丈夫だよ父さん」


 俺との話が終わったので退出しようとすると、ギルド長がハンドベルを鳴らし誰かを呼び出した。現れたのは俺の愛しの猫娘、リンダさんだ。


「お呼びですかにゃ? ギルド長」


「リンダ、こちらのクロードくんがギルド登録するから、キミが受付を頼む。失礼の無いようにな」


「え、あ、畏まりましたにゃ! それではこちらへどうぞですにゃ!」


 分かりやすく『こんな子供が登録!?』って顔してるな。5歳児ですが何か? しかし…リンダさんマジで可愛いな。縞々の猫耳に縞々の尻尾をフリフリして俺の前を歩いている。今すぐ愛でたい。そんなリンダさんの尻をチラ見しながら、父さん達に挨拶をして部屋を出た。




  子供のふりをしてリンダさんと手を繋ぎながら最初に来た受付までやってきた。リンダさんと手を繋いでいるのをギルド内にいた商人に見られると何故か思いっきり睨まれたので、お返しに勝ち誇った笑みと共に鼻で笑ってやった。子供に嫉妬すんなよ大人げない。


「それではこちらにお名前と誕生日、職業をお書きくださいにゃ」


 書類の中身は冒険者ギルドで書いたのと同じ物だな。


「あの、ギルド長から冒険者ギルドの冒険者証と共有できるって聞いたんですけど…」


「えっ!? ぼ、冒険者だったのにゃ!? あ…し、失礼しましたにゃ! 冒険者証があるなら、それを提出して頂ければ大丈夫ですにゃ。お預かりできますかにゃ?」


 素で驚いてもすぐに持ち直すとは、さすがプロの受付嬢だな。俺の冒険者証をリンダさんに渡す。


「……Dランク冒険者にゃんですね。まだ5歳にゃのに…」


「ええ、先日なったばかりですけどね。何か問題ありましたか?」


「い、いえいえ。それじゃちょっとお待ちくださいにゃ」


 それを持って受付の奥に行き、何らかの作業をしてから戻ってきた。


「それではこちらをお返ししますにゃ。では商業ランクとカードの説明を致しますにゃ」


 帰ってきた冒険者証を見てみると、内容がちょっと変わっていた。


名前 クロード=グレイナード

年齢 5歳

職業 魔導師

冒険者ランク D 商業ランク F

クエスト受注数:3  成功数:3 失敗数:0

商業取引回数:1回


「商業ランクと商業取引回数…ですか」


「商業ランクは商業ギルド会員としてのランクですにゃ。ランクが上がれば上がるほど、商人としての信用度が上がりますにゃ」


「信用度、ですか?」


「はいにゃ。商業ランクが上がっていくことで商売をするために立地の良い土地を借りられたり、商業ギルドからの必要な人材の紹介や商品の融通などを優先的に受けることが出来ますにゃ」


 特典を受けるのも信用があるから受けることが出来るってことか。これから商売をするなら積極的に上げた方がいいかもしれないね。


「この商業ランクを上げるにはどうすればいいんですか?」


「商業ギルドへ何らかの形で貢献するか、税金を納めれば上がりますにゃ」


 なるほど。商人の貢献=税金の額。分かりやすい構図だな。


「税金ってどのくらい取られるんですか?」


「税金はお客様からお売り頂いた商品の10%を徴収させて頂いていますにゃ。それ以外にも、何らかの権利を売って頂いた場合、その商品の販売価格から5%を徴収いたしますにゃ」


「…結構持っていきますね」


「そういう規則ですので、申し訳ありませんにゃ」


 まぁそこは仕方ないか。領主の息子として決められた規則を否定することは出来ない。


「商業取引回数と言うのは?」


「お客様と商業ギルドの取引回数のことですにゃ。取引回数が多いほど、ギルドポイントが加算されて行きますにゃ。ギルドポイントが一定数に貯まると、商業ギルド特製の景品と交換することができますにゃ!」


 ポイントカードですねわかります。どんな景品があるのか聞いたが、そこはポイントを貯めた人にしか明かせないとのことなので、気にしなくてもいいだろう。


 そのあとは細かい商業規約の説明を聞いて、口座の説明に入った。


「商業ギルドでも冒険者ギルド同様、お金を預けることができますにゃ。冒険者ギルドと商業ギルドの口座は共通になりますので、どちらのギルドでもお金を下ろすことは可能ですにゃ。口座からお金を下ろすときは、手数料として銅貨1枚を徴収させて頂きますのでご了承くださいにゃ」


 それは便利だね。わざわざ金を下ろすために商業ギルド来なくてもいいし。でもリンダさんに会う為ならここに通ってしまうかもしれない。だって可愛いんだもん。


「以上で説明を終わらせて頂きますにゃ。何かご不明な点はございますかにゃ?」


「いえ、今のところ大丈夫です。ありがとうございますリンダさん」


「はいにゃ! では、何かありましたらまた受付までいらしてくださいにゃ」


「わかりました。ところでリンダさん…唐突なお願いなんですが、その猫耳…触っちゃダメですか?」


「え…えっ!?」


 気合を入れて交渉してみたが、残念ながらリンダさんには付き合い立ての彼氏がいるらしく、その人以外には触らせられないと断られてしまった。猫耳娘と付き合えるとか羨ましいなちくしょうめ!!


 とりあえずこれで会員登録とオセロ流通の手続きは終わったな。あとは放っておいても自然に流行りだすことだろう。今回のオセロの代金、それとゴブリンキングの討伐報酬と素材を売ったお金で、結構良い武器と防具を揃えられそうだな。手に入れたゴブリンキングの装備も売りたいし、近いうちに鍛冶屋に行くことにしよう。



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