第13話「商売の相談」
今日は俺も先生達も訓練の休みの日。俺は先延ばしにしていたオセロの売却を相談するため、父さんの書斎の前に来ている。商業ギルドに持って行くにも父さんの許可は必要だろうからね。というか5歳の俺が1人で商売をするのは難しいだろう。書斎のドアをノックすると父さんの声が聞こえてきた。
「誰だ?」
「父さん、クロードだけどちょっといいかな?」
「クロードか。入りなさい」
「失礼します」
ドアを開けて中に入ると、父さんは休憩中なのかお茶を飲んで寛いでいた。今日もオリビア母さんはいないらしい。どこかにお出かけ中かな?
「どうしたクロード、お前がここに来るとは珍しいな」
「うん、実は父さんにお願いしたいことがあって来たんだ。これを見てくれるかな?」
そう言ってソファに座ってから、テーブルの上に【無限収納】からオセロを取り出す。
「ア、アイテムボックスだと!?」
あれ、そこから? そういえばまだ家族には【無限収納】が使えることを言ってなかったかも知れない。最も、【無限収納】のことは言えないので、周囲にはこれはアイテムボックスだと言い張っているのだが。
「最近使えるようになったんだ。便利だよねこれ」
「そ、そうか。だが無理はするなよ? アイテムボックスは魔力消費が激しいと聞くからな」
俺の【無限収納】はMPを使わない省エネ設計だ。物を入れ続けても特に何かが消費されるようなことはない。この点もバレたら面倒だから注意しているつもりだ。
「うん、大丈夫だよ。それでね、今日来たのはこの遊戯盤についての話なんだ」
「遊戯盤? これはなんなのだ?」
「これはオセロって言って、みんなで遊べるように作った娯楽道具なんだよ。この国って娯楽が少ないと思ったから試しに作ってみたんだ」
オセロのことをルールとともに説明する。父さんはオセロの石を触りながら興味深げに聞いてくれていた。結構悪くない反応なんじゃない?
「それで商業ギルドから販売して貰おうかと思ってるんだけど、その辺の商売のことが俺には何もわからないから、こういうことに詳しそうな父さんに相談しに来たんだ」
俺の説明を聞いた父さんは、顎に手を当てて考え込んでいる。
「ふむ…話はわかった。確かにこれなら売れるだろうな。今日は私も午後から商業ギルドに用事があって行くことになっている。お前も一緒に行くか?」
おお、ありがたい。渡りに船ってやつだ。
「うん! 一緒に行きたい!」
「わかった。時間になったらお前の部屋に呼びに行かせるから待っていろ」
「わかった! それじゃ待ってるね」
ウキウキしながらソファを立とうとすると、父さんにガシッと肩を掴まれて阻止される。
「なぁクロード、この商品が売れるかどうかを検証する為に、実際に遊んでみた方がいいと思うんだが?」
…要はやりたいってことですねわかります。
「そ、そうだね。それじゃ対戦してみようか、父さん」
それから父さんと3回勝負して全部俺が勝利を収めた。これでも前世ではオセロは得意だったからね。『もう一回勝負だ!』と言う父さんの横には、いつの間にか笑顔のオリビア母さんが立っていた。
「…あなた。何を遊んでいるのですか? 休憩時間、終わっていますよね?」
「オオオオオオオリビア!? いつの間に!」
父さん動揺しすぎだろ。
「さっきからあなたの横に居ましたよ。クロードと遊んでいる途中からね。それで、その四角い物はなんなんですか? 初めて見ますね」
「あ、あぁ、これはクロードが作った遊戯盤でオセロという物らしい。今日の午後に商業ギルドに行くから、そこでこれを販売したいそうだ。それで本当に売れるかどうか実際に使って検証していたんだよ。決して遊んでたわけではないぞ! そうだろクロード! 遊んでないよな!?」
「アッハイ。ソウデスネ」
全力で遊んでいないことを主張する父さん。どれだけオリビア母さんが怖いんだろう?
「はぁ…まぁいいですけどね。それで、このオセロというのは売れそうなんですか?」
「ん? ああ、これは売れるな。実際遊んでみてわかったが非常に奥が深い。それに戦略が求められるから頭の運動にもちょうどいい。娯楽に飢えている貴族連中にも人気が出るかも知れないな」
「貴族にもですか!? それは凄いですね」
「ああ、だからクロード。これを売る時は一般用と貴族用、2つの種類の物を売り出したらどうだ?」
「貴族用かぁ。でも貴族用の物ってどうすればいいの? オセロ盤を豪華にすればいいのかな?」
キラキラ光る煌びやかなオセロってどうなんだろ。やってる最中に目がチカチカしそうだ。
「そうだな。貴族は華やかさを求めるから豪華に見せた方がいいだろう。尚且つ誰も見たことがないデザインにしたらさらに価値が上がるだろうな」
それなら全ての部品を金属製にして装飾施す感じかな。でも材料がないぞ?
「父さん、豪華なのはいいんだけど材料がないと作れないよ?」
「ん? クロードが自分で作るのか?」
「うん。金属の加工も魔法で出来るからね」
「そうか…凄いなクロードは。金属か……それなら丁度いいのがあるぞ。オリビア、先日アシュトレイ鉱山から取れた銀鉱石の塊があっただろう。あれを持ってきてくれ」
「わかりました」
そう言うとオリビアママは退出する。銀鉱石って結構高いんじゃないのか? そんなのをオセロに使って大丈夫なのか??
「父さん、銀なんて使っちゃってもいいの? それってすっごく高いんじゃ…」
「何を言っている? 銀はそんなに大した価値のない金属だぞ。相場的には金の8分の1くらいだ」
そ、そうなのか。この世界では銀の価値って低いんだな。日本じゃ純銀とかそこそこ高級品なのに。
「あなた、これでよろしいですか?」
オリビア母さんが、サムソンに頼んでバスケットボール大の銀の塊を2個持ってきてくれた。これだけの量があれば何枚かのオセロ盤を作れるだろう。
「どうだクロード、このくらいで足りるか?」
「うん、これだけあれば充分作れるよ! ていうか貰っちゃっていいの?」
「かまわん。この金属は少々余り気味だからな。有効に活用してくれた方が助かるよ」
余ってるんだ銀。シルバーアクセサリーとかに結構使いそうな気がするけど。
「わかった。ありがたく使わせてもらうね。午後までには貴族用のオセロ作りも間に合うと思うから、それも一緒に商業ギルドに持っていくよ」
そう言って銀鉱石の塊2個を【無限収納】に仕舞う。その光景を見てオリビア母さんとサムソンが驚いたような顔をしていたが気にしない。今はオセロ優先だ。
「そ、そんなに早く作れるのか!? …まぁ、そこはクロードに任せるよ」
「了解! それじゃ部屋に戻るね。オリビア母さんとサムソンもありがとう!」
「い、いえ、問題ないわクロード。頑張ってね」
「お役に立てて光栄です、クロード様」
そう言って足早に書斎を出て部屋に戻る。装飾も考えないといけないしね。
~父視点~
「…アイテムボックスなんて使えたんですね。クロード」
「ああ、他にも隠し玉があるみたいだな。あの金属の加工を午後までに終わらせるそうだし」
「金属の加工ですよね。そんな魔法どうやって…」
「わからん。だが、クロードなら簡単にやってのけそうな気がする。俺の子だしな!」
「あなたも相当親バカですねぇ。まぁリューネとの子なのだから魔法の才能があるのは分かりますけどね。それじゃ、そろそろ仕事を再開しますよ。まだ処理しないといけない案件が溜まっているんです」
そう言って脇に抱えていた書類の束をドンッと机に置いた。
「お、おぅ、了解だ。クロードの為にも頑張らんとな!」
~クロード視点~
部屋に帰ってから先ほどの銀鉱石を2個取り出す。原石だし、このまま加工しても不純物が多くて綺麗に出来ないかもしれないな。魔法で不純物を分離出来るかな? 【魔法創造】起動!
《魔法創造起動。
術式構成:対象に含まれる不純物を分離する。
術式名:
※
YESっと。そこそこのコストで魔法を創造できた。これで金属と不純物を分けることが出来るはずだ。それじゃ早速やってみるか。銀鉱石に手を置いて魔力を集中する。
「【
銀の鉱石が淡い青色の光に包まれ、銀鉱石から不純物を分離していく。暫くすると、純銀の塊といくつかの金属に分離していた。
【真眼】で見てみると、『銀』『銅』『鉄』。他にもあるが、金属に関する知識がないから『パラジウム』とか言われてもよく分からない。まぁ分からないのはどうしようもないので、とりあえず【無限収納】に入れておこう。純度100%の銀が出来たから問題なしだ。
「これで材料は出来たから、次は…【
純銀が緑色の光に包まれてイメージ通りのオセロ盤と駒の石に形を変えていく。前回違う素材で作っているので、オセロ盤のイメージはバッチリだ。
さて、問題は装飾の部分だがどうしよう? とりあえず横の部分を厚めにして龍でも掘っとこうか。ドラゴ○ボールの○龍みたいな龍をイメージしながら、穴を開けるというよりも叩いて凹ませる感じで刻んでいく。
「………うん。なんとなくそれっぽく出来た。次は色か。【
盤面の色はそのまま銀色で。マス部分のラインは赤にする。石の表はエメラルドのような輝く緑、裏はサファイアのような深い蒼に仕上げてみた。成金趣味っぽいが貴族にはウケるかも知れない。ふと思いついたので、【
これで乾いたら純銀製オセロ貴族仕様の完成だ! 純銀が余っていたので、予備品として同じものをもう一個作っておいた。
ちょうど作業が終了したところで、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「クロード様、旦那様がお呼びですよー! エントランスで待っているそうですー!」
どうやらもう商業ギルドに行く時間になっていたらしい。作業に集中してて全然気付かなかった。
「わかった! すぐ行くよ!」
貴族用純銀オセロ2組を【無限収納】に仕舞い、出かける準備をしてエントランスへと向かう。出来るだけ高値で売れるように頑張って交渉てもらおう。
「お待たせ父さん。オリビア母さんも行くの?」
「私は行かないわよ。まだ仕事も残っていますからね」
なら何でここに居るんだ??
「来たなクロード。それで、貴族用のオセロは出来たのか?」
「うん。一応作ってみたけど、これでいいか分からないから確認お願いしてもいいかな?」
そう言って【無限収納】から純銀オセロを1つ取り出す。陽の光を浴びせると、横に彫った○龍が白く輝いていた。こうやって見ると、結構カッコイイかも知れない。
「ふむふむ……こ、これは!?」
「まぁ…これは綺麗ですね。このような彫り物を初めて見ました。それにこの石にもクリスティア王国の国旗の模様が掘られているようですね。芸が細かいです」
2人共純銀オセロ、特に横の○龍の彫り物に目を奪われているようだった。
「これは凄いな。クロード、この横の模様はどうやって掘ったんだ?」
「そこは魔法でちょちょいっと加工したんだ」
「ふむ、やはり魔法か。しかしこれは凄いな。間違いなく貴族に売れるぞ! 娯楽品の用途だけじゃなく、芸術品としても価値が高いように思う。素晴らしい出来栄えだ!」
「そうですね。ここまで綺麗な彫り物は見たことがありませんから絶対売れますよ」
そこまでの物なのか? ただの○龍ですよ?
「よし、それじゃ商業ギルドへ向かおう。後のことは頼んだぞオリビア。サムソン、馬車を表に頼む」
「畏まりました旦那様」
サムソンが御者をする馬車に乗り込み、父さんと2人で商業ギルドへ向かう。馬車の中では、父さんがずっと純銀オセロを眺めていた。そんなに欲しいなら後であげようかな?
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