第12話「報酬とランクアップ」


「それじゃもう戦果は十分だし、街に帰ろうか」


「そうっすね。クロっちの依頼も全部達成したんすよね?」


「はい! このゴブリンで完遂です!」


「よし、それじゃ帰るぞ。いいか、街に着くまでが冒険だ! ここからも油断するなよ!」


 意気込んで家路に着いたが、帰りは特に何事もなく平和に街についた。【探索魔法サーチ】で索敵しながら歩いていたのだが、何故か周囲に魔物の反応が全くと言っていい程なかった。ゴブリンキングが死んだから、ビビって逃げたのかな?




 街に到着してから冒険者ギルドに辿り着く頃には、もう空は夕暮れを照らしていた。ギルドの中に入ると、クエストから帰還してきたらしい他の冒険者達でロビーが賑わっていた。


「クロード、私達は後ろで見てるから、受付で今回のクエスト報告を頼む」


「依頼は報告するまでが依頼っすからね!」


「了解です! 行ってきますね」


 俺はそのままソニアさんの元へと向かう。ソニアさんは何かの書類整理をしていて気づいてくれていなかったので、元気よく挨拶をしてみた。


「ソニアさーん! 帰ってきましたよー!」


「あら、ふふっ、おかえりなさいクロードくん! お帰りなさい♪」


 笑顔で迎えてくれるソニアさん。やっぱりこの人良い人だ。


「それでどうだったの? 依頼は達成できた?」


「はい、全部達成しましたよ!」


「そっかぁ…心配してたけど無事に終わってよかったわ。それじゃ報告お願いできるかしら?」


 俺は早速【無限収納】からフジィ薬草10本、コバルト草10本、討伐の証であるゴブリンの耳38個、それとついでに倒した魔物の耳などが入った袋を取り出す。魔石は別の袋に入れて取り出した。解体した魔物の肉や多めに採取した薬草類は、今後の為に持っておこう。


「これでいいですか?」


「確認します。……ゴブリンの耳が随分多いわね。まぁゴブリンは無駄に増えるゴキブリみたいなやつだから分からなくもないけど…もしかして集落でも見つけたの?」


「はい、森の奥でゴブリンの集落を確認しました。そこで多数のゴブリンとゴブリンキングに遭遇したんですけど、なんとか撃破することに成功しました」


「ゴ、ゴブリンキング!?」


 ソニアさんの叫び声を聞いた周囲の冒険者達がざわざわとざわめき出していた。まぁ、ゴブリンキングは結構な大物みたいだからな。驚くのも無理はないだろう。


「…ゴブリンキングだってよ。冗談きついぜ」

「まったくだ。あんなガキに出来るわけねぇよ」

「あんなのがゴブリンキングを? まさか…」

「ユミナちゃんはぁはぁ」


 周りがうるさい。あと最後の奴これ終わったら説教な。


「ほ、本当に!? えっと…ゴブリンキングの討伐部位はあるかしら? 本物かどうか確認しないと…」


「討伐部位っていうか、丸ごと持ってきてるんですけどここで出していいんですか? サイズが結構大きいんですけど」


 3mくらいあるからなぁ。ゴブリンキング。


「丸ごと!? あぁ、アイテムボックスか。流石にここで出されても困るから、裏にある解体用倉庫に行って出して貰ってもいいかしら? 私はこのことをギルマスに知らせなきゃいけないから…シルビア、倉庫に案内してあげてね」


「ああ、了解した。それじゃ行こうかクロード」


「はい!」


 シルビア先生の案内で、魔物を解体するための倉庫に向かう。そこには解体するスペースの他に巨大な冷蔵庫が設置されており、そこには解体された魔物が大量に置かれていた。


「へぇー、これだけ魔物の死骸があると…なんか凄みを感じますね」


「ここは解体が依頼された魔物を保管するための倉庫なんだ。肉の鮮度が落ちない様にこの特殊な冷蔵庫が設置されているんだ。燃費はかなり悪いらしいがな」


「なるほどです」


「で、あそこに居るのが剥取課長のオズワルドさんだ。種族はドワーフで、剥ぎ取り歴50年の大ベテランだぞ」


 剥取課長……あだ名? 役職?


「オズワルドさんちょっといいか?」


「あん? おお、シルビア嬢ちゃんじゃねぇか! フラン嬢ちゃんも久しぶりだなあ。ちゃんと飯食ってるか?」


「おっちゃんも元気そうっすねぇ。ご飯は毎日5食きちんと食べてるっすよ!」


「あはは、ちゃんと食べてますよ。それで今日は解体をお願いに来たんですが、大丈夫ですか?」


「おうよ! それじゃさくっと剥ぎ取っちまうからここに出してくれ。それで獲物はなんだ? でかいウルフとかか?」


「いえ、ゴブリンキングです。クロード、出してあげてくれ」


「了解です」


 【無限収納】から3m強のゴブリンキングの死骸を目の前に出す。するとその大きさに周囲に居るギルド職員達は言葉を失っていた。剥取課長だけは何故かテンションが上がっているが。


「うおおおおおお! マジでゴブリンキングじゃねえか!! ヒャッハァァァ!!」


 剥取課長はゴブリンキングを見て歓喜していた。なんでこんなにテンション高いんだ??


「おうシルビア嬢ちゃん! こんな大物仕留めるたぁやるようになったじゃねぇか!」


「いや、ゴブリンキングに関しては私は何もしていない。頑張ったのはそこの2人なんだ」


「そこの2人って……このちっこいの2人か?」


 身長はそんなに変わらないんだからちっこいって言うな。ちっこいけど。


「…俺はクロード=グレイナードです。シルビア先生達の弟子をしています」


「ユミナ、です」


「お、おう。俺はオズワルドってんだ。この魔物解体場の管理者をしている。それでクロードとユミナだったか。お前さん達がこいつを倒したのかい?」


「ええ。俺達の魔法で倒しましたよ」


「そうです。でも倒せたのは、クロードくんのおかげです」


 穴開けて攻撃しただけだけどね。


「おお、マジかよすげぇじゃねえか! こりゃ大金星だな!」


「えぇ、久々の大物です。私も詳しい話が聞きたいですね」


 俺達の背後には、いつの間にやらギルマスとソニアさんがやって来ていた。ギルマスはゴブリンキングの側までやってくると、その体を触って何かを確認しているようだ。


「クロードくん…これはまた随分と大物を仕留めたものだね。大変だったでしょ?」


「そうですね。大変でしたけど、倒せたのは先生達が協力してくれたおかげですよ」


「ほんとにゴブリンキングを倒すなんて……すごいわクロードくん!」


「そうだね。今回のゴブリンの集落はまだ小規模だったみたいだけど、長時間放っておけば大変なことになったかもしれない。ギルドマスターとして礼を言うよ。倒してくれてありがとう」


 ギルドマスターが俺達に頭を下げる。子供にも感謝すれば頭下げれる人なんだなこの人。ラノベとかではギルマスは悪党が多いが、この人はどうやら違うらしい。


「それじゃ、討伐状況の詳しい話は私の部屋でしましょうか。オズワルドさん、ゴブリンキングの解体はお願いしますね」


「了解しやしたぜ旦那! 久々の大物だ、腕が鳴るぜ!」


「最優先でお願いしますね。それじゃ行きましょうか。ソニアくん、お茶をお願いしてもいいかな?」


「わかりました。美味しいお茶を持っていくから待っててね、クロードくん♪」


「あはは、はい。待ってますね」


 解体倉庫からみんなでギルマスの部屋へと移動する。その途中で他の冒険者からめっちゃ見られたが気にしない方が良さそうだ。まだザワついてるし。

 ギルマスの部屋に到着すると、座るように勧められたのでソファに腰掛け、ギルマスと対面で向き合った。さっきまでのにやけた顔が真剣な顔に変わったギルマスが俺達に尋ねてくる。


「それじゃゴブリンキング討伐の詳しい報告をお願いします」


「了解した。私達はゴブリン討伐の依頼を受け、カムラの森の奥でゴブリンの集落を発見した」


 それからゴブリンキングの居た集落の細かい場所、その規模と討伐方法を説明する。それを聞いたギルマスは微妙な表情をしていた。


「―――…つまり、巨大な落とし穴を作ってそこにゴブリンキングを落とし、その上からユミナさんとクロードくんの2人で魔法を撃ち込んで倒したと。それで間違いありませんね?」


「はい、間違いありません。…もしかして疑ってるんですか?」


「いえいえ、斬新の方法で倒すなぁと思っただけですよ」


 落とし穴って斬新なのか?


「話はわかりました。ではクロードくん。キミは今日からDランクに昇格です。おめでとう」


「「「「はい!?」」」」


「驚異度C+のゴブリンキングを倒した冒険者をFランクのまま置いておく訳にはいかないんですよ。冒険者ギルドとしての体面とか、他にも色々ありますからねぇ」


 いきなり2階級特進かよ。Eランクどこいった?


「そんないきなり2階級もランクを上げて大丈夫なんですか? ていうか5歳の俺がDランクって…色々と大丈夫なんですか?」


「年齢は問題ではありませんよ。5歳児だろうが実力があれば評価する。それが冒険者ギルドですから」


 そんなキメ顔で言われても反応に困る。


「先生達のランクは上がらないんですか?」


「シルビアさん達は現在全員Dランクのパーティですからね。今のところは現状維持です。もちろん今回のゴブリンキング討伐は多大な評価をした上で報酬も出しますので安心してください」


「わかりました。ありがとうございます」


 コンコンと扉をノックする音がした。ソニアさんかな?


「お待たせしました。お菓子もありますよー」


「わーい、お菓子っすー♪」


 全員分のお茶とお菓子を置いたところで、ギルマスがソニアさんに指示を出す。


「ソニアくん、クロードくんのカードを更新してあげてください」


「えっ!? じゃあ…」


「ええ。ゴブリンキング討伐はクロード=グレイナードとパーティ『銀月の誓い』が果たしたと認め、クロードくんはFランクからDランクに昇格とします」


「わぁ、おめでとうクロードくん! 5歳でDランクって歴代最速だよ!」


「あはは、ありがとうございますソニアさん」



 俺はその日のうちにDランクになり、今回の3つの依頼の報酬とゴブリンキングの討伐報酬+解体後の買取額は俺達4人で山分けにした。シルビア先生からは『何もしていないからいらん。ユミナと分けろ』と断られたが、クエストは4人で受けたんだからと押し切った。報酬額は合計で金貨800枚。一人頭200万円相当の大金を手に入れた。


「これでまた買い食いが捗るっすねぇ! 前から食べたかったあれも買いに行くっす!!」


「もうちょっと計画的に金を使えないのかお前は?」


「「まぁまぁ…」」



 精算も終わり、冒険者ギルドを出る頃には辺りはもう夜になっていた。4人で帰り道を歩いていく。


「あ、ゴブリンキングの武器とか防具ってどうしましょう?」


「それは君が持ってていいんじゃないか? 今日一番の功労者なんだし」


「異議なしっす! クロっちが使ったらいいっすよ。使わなければ売ればいいっすし」


「うんうん」


 こんな馬鹿デカイ剣と鎧、使えないんだが…。


「わかりました。ありがたく貰っておきますね」


「それじゃ家まで送って行こう。あんまり遅くなったらご両親に心配掛けるからな」


「はい、お願いします!」


 そのまま先生達と報酬のお金を何に使うか相談しながら家路へと着いた。


 家の門の前で先生達と別れ、部屋に戻ると【無限収納】から新しくなった冒険者証を取り出した。Dランクに上がり、冒険者証の色が青から緑色に変わっている。


「Dランクは緑か。…なんかあんまり実感ないけど、ランクアップ出来て良かった」


 冒険者証をコンコン小突きながら確認する。


 (これでCランクの依頼が受けれる。先生達のお荷物にならないで済むんだ)


 今回はEランクの依頼受けたから、Dランクである先生達にゴブリンキングの分以外の貢献度は入っていない。俺はそれを気にしていたのだが、明日からは先生達にも損をさせずにDランク以上の依頼を受けられる。それが純粋に嬉しかった。


「明日、何の依頼を受けるかみんなと相談しないとね」


 訓練以外での初めての強力な魔物との戦闘とランクアップ。二つの出来事で興奮してこの日はなかなか寝付くことが出来なかった。



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