第11話「カムラの森での初クエスト(後編)」
「クロっち~。薬草集まったっすか?」
「集まりましたよ。ただこの辺にコバルト草が結構生えているみたいなので、もうちょっと持っていこうかと」
「了解っす! 私も採取するから指示して欲しいっす」
「んじゃ、あっちの方に生えてるんでお願いできますか?」
「了解っすよ~」
コボルトとの初戦から1時間が経過したが、そこそこ順調に奥に進んでいると思う。ここに来るまでに戦ったのがゴブリンが3体にウルフが5匹、オークが6匹といったところだ。意外とゴブリン出てこないな。
「クロっち、コバルト草採ってきたっすよ!」
「ありがとうございますフラン先生。それじゃ預かりますね」
採取品は全部まとめて【無限収納】に入れておく。もうすでに依頼の数は揃っているが、出来ればもうちょっと採取して稼いでおきたい。
「それにしてもクロっちのアイテムボックスって超便利っすよねぇ。わたしも欲しいっす!」
「雑貨店にアイテム鞄が売ってましたけど、買わないんですか?」
「いやいやいや、あんなバカ高いの手が出ないっすよ! 空間の広さが縦横3mしかないのに白金貨1枚っすよ? 全然割に合わねーっす…」
あー、そりゃ無理だわ。そのぐらいの広さしかないなら、無理してでも自分で持った方が金が掛からない分得かも知れない。自分で作れたらいいんだけどね。
「まぁ、俺のアイテムボックスは神からの贈り物みたいな感じですから」
「羨ましい限りっす。まぁ無いものねだりしても仕方ないっすから、荷物持ちはクロっちに頑張ってもらうことにするっすよ♪」
フラン先生とそんな話をしていると、休憩所の方からユミナ先生が作る昼食の美味しそうな匂いがした。この匂いは…。
「みんなー、ご飯できたよー」
その可愛い声に反応して、すぐに全員がユミナ先生の元に集まる。今日のメニューは…ステーキか!
「今日のお昼は、ウルフのもも肉ステーキとパン、それとトーマットの実の冷製スープだよ」
「ごっはんーっ、ごっはんっすー♪」
「すいませんユミナ先生。お昼の用意を任せてしまって」
「ううん、ご飯作るの好きだから、大丈夫だよ。いっぱい食べてね、クロードくん」
そう言って笑うユミナ先生の笑顔が眩しい。きっとユミナ先生の半分は優しさで出来てるんだろうなぁ。こんな優しくて料理が上手で可愛いお嫁さんがいたら生涯幸せ一直線だろう。
「全員揃ったな、それじゃあ」
「「「「いただきます!!」」」」
早速ウルフのステーキを食べてみる。う、美味い! 肉が柔らかくなるように叩いて伸ばし、筋切りまできっちりするという念の入れ様。その柔らかさを楽しめるようにミディアムレアで焼かれている。そしてこれにかかっているソース。これはまさか!
「ユミナ先生。ステーキにかかっているタレって…」
「うん、さっき森の中で見つけた、ブルーリーの実のソースだよ」
ブルーリーの実はブルーベリーによく似ている。この酸味と甘味…前世で高級ステーキショップである”不意打ちステーキ”で食べた時に付いてきたソースと同じ味だ。調味料が少ないこの世界でこの味を出せるとは……ユミナ、恐ろしい子!!!
「クロっち…さっきから何でそんなに悶えてるんすか?」
「このステーキの美味しさを噛み締めていたんですよ。まるでユミナ先生の愛情が肉のひと切れひと切れに詰まっているようです。最高としか言いようがない!」
「そ、そうっすか。なんかクネクネしてキモかったっすよ?」
「その辺は気にしたら負けです。というかフラン先生には言われたくないです」
フラン先生美味しいもの食べたらもクネクネしてるじゃん。
「えっと、クロードくん……おいしく、なかった?」
「えっ!? いえいえいえ、めちゃくちゃ美味しいですよ!! おかわりください!」
「えへへ、ありがとう。今焼くね♪」
やっぱりみんなで楽しく食べる美味しい食事の時間って大切だよね。ちなみにシルビア先生は俺達を放置して黙々と食べ続け、結局ウルフのステーキを8枚は食べていた。それでもまだ腹8分目らしい。
昼食を終え、片付けてからさらに森の奥に進むと【
「止まって! 正面に500mにゴブリンが……35匹!? それにもっと大きな反応があります!」
「なんだと!? その規模ということはゴブリンの集落があるのか…」
「じゃあ、その大きな反応ってもしかして…」
「ゴブリン…キング?」
ゴブリンキング。驚異度C+クラスの危険指定された魔物だ。近くにいるゴブリン達を招集し、そのまま配下に加えて勢力を伸ばす。そして数の暴力で村々を襲い、女は攫って苗床にすることでさらに数を増やす病原菌みたいな相手だ。このまま放置していたら近くの村や街に大きな被害が出るだろう。要討伐対象だ。
「シルビア先生、どうしますか?」
「…ここは退いてギルドに知らせるべきだな。我々の今の戦力では危険すぎる」
「そうっすね。流石にゴブリンキングが相手となると歯が立たないっす」
「でも…ほっといたら、被害出ちゃうよ?」
今ここでゴブリンキングを倒さなかったら罪もない人達が被害に遭う。特に女の子が多大な被害を受けるんだ。ゴブリンに攫われた女の子達は、苗床にされた後そのまま喰われるか、助かったとしても精神に多大なダメージを受けて廃人同然になってしまうことが多い。……そんなのを自称フェミニストである俺が許せるわけがない!
なんとか出来ないかを考えていると、ふとある考えが俺の頭を過ぎった。…これなら行けるかも?
「シルビア先生、あいつらにちょっと試してみたいことがあるんですけど…」
「試すって…何をする気だ?」
「新作魔法の実験台ですかね。集落には近寄りませんし、ここからやるから安全性に問題はないですよ」
「まぁ、危険がないなら構わないが……こんな離れた位置からなんとかできるのか?」
頷く俺を見ると、シルビア先生は渋々頷いてくれた。
「わたしも応援するっすよ! クロっち、がんばっす!」
「クロードくんなら…なんとか、してくれるよね?」
「ユミナ先生…はい、どうにかします!」
まずは【
《魔法創造起動。
術式構成:地図で指定した範囲に魔法を使用する。対象との距離と指定した範囲の広さによって魔力の消費量が変動する。
限定条件:【
術式名:
※
これで行けるかな? YESっと。限定条件をつけないとMP不足で魔法を作れないからな。普通の地図で範囲指定して魔法が使えたら世界征服とか出来そうだし。そんな広範囲にやったらどっちにしても魔力足りないけどね。
よし、次だ。
《魔法創造起動。
術式構成:地面に穴を開ける。指定した範囲の広さ、深さによって魔力の消費量が変動する。
術式名:
※
これでYESだ。穴を掘るだけの単純な魔法だからかコストが低くて助かった。俺は地属性の適性を持っていないから、もしかしたら使えないかと思ったけど、【魔法創造】で創る分には属性は特には関係ないらしい。
【
そして【
「ゴブリンキング諸共奈落に落ちろ! 【
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズゴオオォォォォォォォンッ!!!
【
「うわっぷ! な、なんなんすかこの土煙ぃ!?」
「まさか…今のとんでもない音はクロードの魔法なのか?」
「あうぅ…びっくり、した…」
「ぐっ、ごほっごほっ、はぁ、はぁ、す、すいません。とりあえず、様子を見に…行きましょうか」
「クロード!? だ、大丈夫なのか? 顔色が真っ青だぞ!」
「ちょっとキツイですが…なんとか…」
【無限収納】から再びマナポーションを取り出し一気飲みする。もうお腹の中がタプタプだがそんなことは言っていられない。魔力が回復したことで吐き気はだいぶ緩和された。
「ダイジョブっすか、クロっち? フラフラしてるっすよ?」
「無理しちゃ、だめだよ?」
「あはは、ちょっと魔力を使いすぎただけですよ。とりあえずちょっとは回復したんで、もう大丈夫です」
さすがギルド製マナポーション。いい薬です。
その後、みんなで【
「こ、これは…凄いな」
「とんでもないっすねぇ。さすがクロっちっす♪」
我ながら上出来の穴だな。ここまで範囲を広げる必要もなかったかもしれないが、下手に手加減してミスったら目も当てられないからね。
「よっし、それじゃ最後のひと押しですよユミナ先生!」
「え、私? 何するの?」
「はい。一緒にこの穴の中に攻撃魔法を打ち込みましょう。ゴブリンキングにトドメを刺すんです!」
「ああ~、なるほどっす! ここからなら敵に打ち放題っすもんね!」
「一方的な虐殺か…。さすがクロード、えげつないな!」
シルビア先生さすがって…。俺、今までそんなにえげつない事なんてしてないよ?
「そっか。わかったよ、一緒に攻撃だね!」
「はい! それじゃ行きますよ!」
俺とユミナ先生は同時に魔法詠唱に入り、魔力を集中させていく。
『風の槍よ、敵を貫け!
『雷よ弾けて混ざれ!
風の槍と雷の爆撃の混成攻撃の前に、なす術無く殺られていくゴブリンキングとその仲間達。ユミナ先生と交互にマナポーションを飲みつつ、休憩を挟みながら20分ほど打ち込み続けると、【
「……ふぅ。やりましたよユミナ先生! ゴブリンキング、見事打ち取りました!」
「おおっ! おみごとっす! よくやったっす!! めっちゃ卑怯臭かったっすけど!!」
「やったなクロード、ユミナ! 大金星だぞ!」
「えへへ、やった!」
「フラン先生、卑怯でもなんでも安全に勝てればそれでいいんです! それじゃ俺は下に降りてゴブリンキングの死骸を回収してきますね」
【
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