第10話「カムラの森での初クエスト(前編)」

先生達から指導を受け始めてから3ヶ月が過ぎた。訓練は結構ハードだが、可愛い女の子達との手とり足とりのマンツーマン授業はそれだけでもやる気が漲るというものだ。その甲斐もあって、スキルもかなり充実してきた。


 今のステータスがこちら。【真眼】!


名前:クロード=グレイナード 

年齢:5歳 種族:人間 

称号:グレイナード子爵家3男 魔導師 リューネの弟子 ゴブリンキラー

    銀月の誓いの弟子

加護:転生神の加護 武神の加護 恋愛神の加護 魔法神の加護

 レベル:23

   HP:316/316 MP:1885/1885

      筋力:81 体力:73 魔力:264 

      精神:198 敏捷:91 運:300

EXスキル 

  【魔法創造】

   @【念動魔法】@【魔法融合】@【隠蔽魔法】

   @【探索魔法】@【変形魔法】@【着色魔法】


魔法スキル

   【火魔法”LV6”】【水魔法”LV7”】【雷魔法”LV7”】

   【無魔法”LV6”】【魔法制御”LV6”】【魔力操作”LV7”】

   【収束魔法】【詠唱短縮】【並列思考】

技能スキル

   【無限収納】【真眼】【言語理解”極”】【剣術”LV4”】

   【隠密”LV3”】【索敵”LV2”】【体術”LV3”】

   【短剣術”LV4”】【盾術”LV2”】【罠解除”LV2”】

   【物理耐性】【魔法耐性】【異性誘引】【料理”LV3”】



 まず前衛スキルが結構増えた。まぁシルビア先生に毎回ボコられてるからね。そりゃスキルも増えるってもんです。【隠密】や【索敵】、【罠解除】はフラン先生との隠れんぼの成果だ。

 あとユミナ先生からは水魔法と料理を教わった。ユミナ先生の料理はかなりうまい。その辺の素材で、前世の美味いレストラン並の味がする。さすが【料理】LV8だ。ぜひあの領域に近づきたい。



 さて、今日も先生達の授業の日だ。先生達が来るまで自分の部屋魔導書を読みながら待っていると、窓の外から誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。カーテンを開けて確認すると、フラン先生が元気よく手を振りながら、大声で俺を呼んでいる声が響いていた。


「クロっちー!! 来たっすよー!! 今日も修行っすー!!」


 かなりの大音量で呼んでくるので近所迷惑もいいところだ。俺は部屋の窓を開けて、ニッコリと微笑みながら【念動魔法サイコキネシス】でフラン先生のほっぺを両方引っ張ってあげた。


「この前も言いましたけど、毎回毎回屋敷の前で大声出すの止めましょうね?」


ほ、ほへんははいっふご、ごめんなさいっす!」


「まったく…。今行きますからちょっと待っててください」


「了解っすー!」


 修行用の服の上に革鎧を着込み、練習用の剣と剥ぎ取り用のナイフを腰に下げてから部屋を出る。先生達は家の門の前に集まって待っててくれていた。


「すいません、お待たせしました!」


「いや、こちらの方こそうちのバカが申し訳ない」


 フラン先生は頭を押さえて地面にしゃがみこんでいた。シルビア先生に怒られてゲンコツ喰らったんだね。全て自業自得だ。


「今日も訓練場で鍛錬ですか?」


「いや、今日からは趣向を変えて冒険者としての活動をしようかと思っている」


「えっ!? いや、俺は嬉しいですけど…」


 勝手に冒険者活動なんて父さん達がなんて言うか分からないぞ? 俺はまだ5歳だし、一応貴族の子息だ。修行とは言え外に出ての冒険者活動なんて認めてくれるのだろうか?


「安心しろ。冒険者活動については領主殿に条件付きで許可を貰っている」


「ほんとですか!? 一体どうやって…何かの魔法でも使ったんですか?」


 催眠魔法とかがあるなら俺にも教えて欲しい。フィリスに使ってあんな事やこんな事して遊びたい。


「いや魔法なんて使っていないさ。お前の成長ぶりを伝えて誠心誠意説得したに過ぎない」


 交渉事とか出来たんだなシルビア先生。まぁ何にしても冒険者活動が出来るのは素直に嬉しい。


「じゃあホントに冒険者活動ができるんですね! やったぁ!!」


「待て待て、条件付きだと言っただろう」


 あ、そうか。条件ってなんだろう? 先生達が魔物と戦ってる所を見てるだけで俺は何もするな、とかだったら正直冒険者活動の意味がないから勘弁願いたい。


「条件は2つある。一つは依頼等で外泊する時は必ず家の者に連絡を入れること」


 それはまぁわかる。俺も家族に心配かけたくないし。


「そして2つめは、何があろうと絶対にクロードを守ること。側を離れるな! だそうだ」


 過保護ですね…うちのお父さん。


「わかりました。先生達に付いていきます! 絶対に側を離れません!」


「ああ、それでいい。それじゃ早速依頼を受けにギルドへ行こうか」


「はい!」


 やっと冒険者として活動できる時が来た! 純粋に嬉しい。野生の魔物との戦いはちょっと怖いけどリューネ母さんの訓練地獄ブートキャンプよりは数段マシだろう。




 先生達と徒歩で冒険者ギルドに向かうその途中、中央通りにある屋台から香ばしく肉を揚げる匂いと火にあぶられた濃厚なタレの香りが漂ってきている。これ絶対美味いやつの匂いだ。


「クロードくん。ここのウルフ肉のからあげ、美味しいよ?」


「そうなんですか? それじゃ折角なので買っていきましょう! おじさん、からあげ2つください~」


「あいよ! 銅貨4枚だ!」


「クロっちクロっち~、わたしもお腹すいたっすよ~? からあげ食べたいっす~!」


「…フラン先生は自分で買ってください。前に結構な額稼いでるって言ってたでしょ?」


「えー! ひ、酷いっす…っ! ユミナっちだけ依怙贔屓っすよ~! あ、もしかして…惚れたんすか?」


 フラン先生の予想外の言葉に俺とユミナ先生はお互い見つめ合ってしまう。突然そんなことを言われたユミナ先生は顔を赤くして俯いてしまった。ユミナ先生マジ可愛い。


「なっ! ちっ、違うから! そんなんじゃないですよ!?///」


「あう…///」


 ユミナ先生が照れてくれているのは丸分かりだが、少しは俺のことを意識してくれているのかな? ……5歳児相手にそんな訳ないか。俺はもう女の子に惚れられているなんていう思い込みは絶対にしない。前世ではその思い込みで酷い目にあったからな。KOOLに徹するんだ俺!


「にゃはは、2人して顔真っ赤にしちゃって可愛いっすね♪ おっちゃーん、私にもからあげ6つ欲しいっす! 出来れば揚げたての美味しいやつが欲しいっす!」


「わははは、まったく若いってのはいいもんだなぁ! よっしゃ! 姉ちゃんとそっちの2人には少しサービスしてやるよ。甘酸っぱいもんを見せてくれた礼だ。たーんと喰いな!」


「えっと、ありがとうございます…」


「ありがと、ございます…」


「一体何をやっとるんだお前らは?」


 出店で買ったからあげを食べながらギルドへと先を急いだ。からあげは肉がとてもジューシーで濃い目のタレがいい仕事をしている。7イレ○ンに売っているナナチキより美味かった。




 冒険者ギルドの中はこの前来た時と変わらず今日も賑やかだ。様々な格好をした冒険者達が、わいわい騒ぎながらギルドボードの前で依頼を見繕っているのが見える。


「それじゃクロード、折角だからお前が依頼を受けてみろ」


「え、いいんですか?」


「ああ、こういうのも経験だからな。お前のランクで受けれる好きな依頼を選ぶといい」


 俺は勧められるままにギルドボードの前まで行き、ボードに貼られている依頼内容を確認する。自分で選ぶのはいいけど、俺が受けれるのはEランクまでなんだよな。出来れば討伐系か採取系の依頼がいいんだけど、一個だけ受けるっていうのも効率が悪い気がする。


「あのシルビア先生、依頼ってまとめて受けるのはありなんですか?」


「受けた依頼をこなせるのなら問題ないぞ。こなせる自信がない依頼は受けるなよ。依頼失敗にカウントされて悪い評価が付けられるからな」


「わかりました!」


 そういうことならEランクのゴブリン10体討伐と、フジィ薬草とコバルト草の採取を受けようかな。フジィ薬草はポーションの原料に。コバルト草は毒消しの材料になるらしい。採取依頼は【探索魔法サーチ】があればなんとかなるだろう。3つの依頼書をシルビア先生のところへ持って行って確認する。


「シルビア先生、これだけ受けようと思うんですが大丈夫ですよね?」


「いや、どれを受けるかはクロードが決めていいんだが…3つも受けて大丈夫か?」


「はい! 俺には物を探索する魔法があるので問題ないですよ」


「そうっすよねぇ。あの魔法はかなーり反則っすよ! ぷんぷん」


 隠れんぼで苦渋を飲まされた人がなんか言ってるが気にしない。早速依頼を受けに行こう。依頼書を持って受付へ行くと、ソニアさんが笑顔でお迎えしてくれた。


「こんにちわクロードくん。依頼の受注ならこちらの窓口へどうぞ」


「ソニアさん! こんにちわ~」


 俺はソニアさんの受付にダッシュする。ソニアさんは長い銀髪を後ろで纏めた明るい褐色美人さんだ。目の色は金色で、よく見ると耳元が尖っているからダークエルフというやつなのだろうか。笑顔の褐色美女・・・いいよね。


「今日は初めて依頼を受けに来たんです! よろしくお願いします!」


「はいはい、こんなに喜んじゃって可愛いんだから♪ それじゃ依頼書を預かるわね」


 ふむふむ、とソニアさんが依頼書を読んでいる。だが、その表情が次第に顔が曇っていく。


「あの、クロードくん。この依頼全部1人でやる気なの? 多くない?」


「1人っていうか、俺の先生達も一緒ですよ。ほらあそこ」


「先生?」


 俺がシルビア先生達の方を指差すと、フラン先生がこちらに向かって手を振っていた。


「ソニア、その依頼は私達全員で受けるから問題ないぞ」


「あぁシルビア達がクロードくんの先生なのね。それなら安心だわ。それじゃ依頼内容を確認するわね。ゴブリン10体の討伐にフジィ薬草20本の採取とコバルト草20本の採取で間違いないかしら?」


「はい、問題ありません!」


「それじゃ受理しちゃうから、全員の冒険者証を出して頂戴」


 言われた通りみんなの冒険者証を渡す。ソニアさんが冒険者証を受け取ると、その横に置いてあった魔道具に通して何かを記入していく。俺の手に冒険者証が帰ってくると、そこには今受けた3つの依頼内容が記載されていた。


「依頼の期限は1週間です。それを過ぎたら失敗になっちゃうから気をつけてね」


「わかりました、がんばります!」


「よし、それじゃ行こう。クロードは私達から離れるなよ」


「了解です!」


 俺達はそのまま冒険者ギルドを出て、街の外へと続く正門への道をまっすぐに進む。すると目の前に巨大な門が見えてきた。あそこの門から一歩外に出れば冒険者のフィールドだ。ちょっとドキドキ。


「そうだクロード。街の外に出る前にこれを渡しておく」


 シルビア先生に渡されたのは、まだ真新しいショートソードだった。


「え、なんで…」


「私から初の冒険者活動に出るお前への祝いの品だ。それに、そんな刃のない練習用の剣を使っていたんじゃ死にに行くようなものだぞ?」


 言われてみれば、今腰に差している剣には刃が付いていない。街の外に行くのに浮かれててそのことをすっかり忘れていた。あぶないあぶない。


「ありがとうございます、シルビア先生!」


 新しい剣を腰に差し、練習用の剣は【無限収納】へ放り込んだ。新しい剣を抜いて振ってみると、重さもちょうどよく手に馴染む感じがした。わざわざ子供用の剣を探してくれたのかな?


「これでクロっちも一端の冒険者っすね! 見た目だけは」


「かっこいいよ? クロードくん」


「ありがとうございますユミナ先生! フラン先生は一言多い!」


「にゃははは♪」




 正門で外に出るための手続きをしてから、ついに外の世界への最初の一歩を踏み出した。異世界に来てから苦節5年。ようやく街の外の空気に触れることが出来ました。なんだか無性に女神様に祈りたくなってきた。神に祈りを~。


「クロード、お前はもう街の外に出ているんだ。いつ何処で魔物に襲われるかわからない。気を抜くな!」


「は、はい! すいません!!」


 思いっきり油断してたらシルビア先生に怒られてしまった。ごめんなさい。周囲の状況を確認するために【探索魔法サーチ】の魔法を使う。今のところ半径500m圏内に敵影はない。


「シルビア先生、500m以内に敵影ありません!」


「よし。外へ出たときは周囲警戒は怠るなよ。自分の命がかかってるんだからな」


「わかりました!」


 そうだった。街の外ではいつ魔物が出てきてもおかしくないんだ。【探索魔法サーチ】はずっとONにして脳内表示しておこう。ついでに魔物は赤、ゴブリンは緑、フジィ薬草は青、コバルト草はオレンジに識別色変更! これで発見すればすぐに分かるな。


 街の外に出てから街道をまっすぐ進み、途中の分かれ道で右に曲がって暫く歩いていくと、森の入口のような所に辿り着いた。ここが今日のアタックポイントらしい。


「これからカムラの森の内部に入る。この中は魔物が多数出没するエリアだ。全員警戒を怠るなよ」


「「「はい(っす)!」」」


 鬱蒼とした森の内部へ突入する。森の中はまだ昼間の時間帯なのに薄暗い感じがして不気味だ。【探索魔法サーチ】に引っかかった薬草類をちくちくと採取しながら奥へと進む。その時、モニターに5体の魔物の反応が現れた。


「! シルビア先生! 前方500mに魔物の反応です! 数は5匹!」


「…了解だ。で、どうするクロード? お前一人でやれるか?」


 俺一人で? …魔物の種類は分からないが、【魔法融合】で一掃すれば・・・いや。


「まだ実践経験が浅い俺一人じゃ無理です。手を貸してください!」


「よし! それでいい。常に冷静さを忘れずに考えて行動しろ! 味方に頼っても恥じゃない!」


「はい!」


「それじゃ作戦を伝える。まずクロードとユミナが遠距離から魔法で先制攻撃。その後、私とフランが前衛で魔物を仕留める。私達が前に出たら、ユミナとクロードは魔法で援護出来るように準備しておけ! いいな!」


「「「了解(っす)!!」」」




 魔物を遠目から確認すると犬顔の魔物、コボルトの群れだった。ゆっくりと接近してコボルトとの距離を近づけていく。残り50m。射程内だ。


「ユミナ先生! 水流槍ウォーターランスで一掃しましょう!」ヒソヒソ


「わかった。クロードくんに合わせるから、一緒に。いい?」ヒソヒソ


「了解です! 3、2、1…」ヒソヒソ


『『水流槍ウォーターランス!!』』


 俺とユミナ先生で計6本の水流槍ウォーターランスを発射した。魔力操作で木の間をすり抜けさせ、それぞれの水の槍がコボルトの腹部や頭部を突き刺さっていく。3匹のコボルトは俺達の姿を見ぬままその最期を遂げた。


「フラン!」


「了解っす!!」


 フラン先生が素早く飛び出し、仲間が急に魔法で始末されたことに動揺しているコボルトに襲いかかる。素早く腰の2本の短剣を抜き、コボルトの喉を切り裂いた。シルビア先生もそれに続き、もう一匹のコボルトの脳天に剣を突き刺している。傍から見てるとかなりエグいな。


「グギャアアアア!」

「ギエエエェェェェ!!」


 断末魔を上げて残りのコボルトも沈んでいく。念のため【探索魔法サーチ】で周囲を確認するが、魔物の反応は近くには存在しなかった。


「やった! 俺達の勝利ですね!」


 野生の魔物戦での初勝利ゲットだぜ!!


「えへへ、やったね、クロードくん」


「…ふぅ、お疲れっすクロっち。ナイスな魔法だったすよ♪」


「お疲れ様ですユミナ先生、フラン先生。ありがとうございます!」


「ほら、また気が緩んでいるぞ! 周囲警戒!」


「は、はい!!」


 怒られたと思ったが、ポンとシルビアの手が俺の頭に載せられ優しく撫でられる。


「…いい攻撃だった。この調子で次も頼むぞ」


「っ! は、はい!」


 シルビア先生は厳しいけど優しい先生だな。前世でもこんな先生がいればもっと真面目に勉強していたかもしれない。その凛々しくも優しい笑顔に思わず見蕩れてしまっていた。


「それじゃ、倒したコボルトの耳と魔石を剥いで次に行こうか」


 コボルトの討伐の証である耳と魔石を剥ぎ取った後、俺達はさらに森の奥へと歩を進めていく。


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