第9話「訓練とスキンシップ」
シルビア先生にボコられたて剣術スキルをゲットした翌日、今日はユミナ先生の授業のはずだ。しかし、訓練場に現れたユミナ先生は何故か顔色が悪い。風邪でも引いたか?
「あの、ユミナ先生大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「は、はい…あの、大丈夫、です。緊張…しちゃって、ごめん、なさい」
「がんばるっす、ユミナっち! ファイトっすー!」
「うーむ、ユミナは一回緊張してしまうと何もできなくなってしまうんだ。どうしたものか…」
ただの授業なのにそこまで緊張する必要ないんだけどなぁ。そうだ、ここはユミナ先生の生徒としてそんな緊張は吹き飛ばしてあげなければ! 俺の必殺、5歳児の無邪気なスキンシップで!!
「ユミナ先生ー♪」
俺はユミナ先生の細い体に正面から抱きついてみる。身長差的にお腹辺りに頭を突っ込む形だ。ユミナ先生のお腹はぷにぷにしていて予想以上に抱き心地がいい。このまま抱き枕にしたい程だ。
「ぅえ!? ク、クロードくん!?」
「ユミナ先生、そんなに緊張しなくたっていいんですよ? 俺なんてただの5歳児ですし」
「う、でも…私、人に教えるのなんて、初めてで、なにを教えてあげればいいのか…」
「んー…ユミナ先生、先生のステータスを見せてもらっていいですか?」
「えっ、ステータス? なんで?」
「俺も一応魔導師なので、先生とどのくらい違うのかなって思って。ダメですか?」
「ダメじゃない、けど…『ステータスオープン』」
名前:ユミナ
年齢:53歳(人間換算で14歳程度) 種族:エルフ
称号:精霊魔導師 Dランク冒険者 銀月の誓いの守り手
加護:魔法神の加護
レベル:41
HP:335/335
MP:2190/2190
筋力:52 体力:46 魔力:363
精神:170 敏捷:66 運:38
魔法スキル
【水魔法”LV8”】【風魔法”LV6”】【地魔法”LV4”】
【無魔法”LV5”】【精霊魔法”LV5”】【魔法制御”LV6”】
【魔力操作”LV6”】
技能スキル
【護身術”LV3”】【杖術”LV3”】【料理”LV8”】
【魔法耐性】
…そういやユミナ先生ってエルフだったな。まさか50代だとは思わなかった。エルフの成熟は遅いってどこかで聞いたことあったけどマジだったようだ。魔法適正の数は俺と同じ4つだが、俺とは使える属性が違い水魔法のLVが高い。それに精霊魔法を使えるとかさすが現役エルフ魔導師。ていうか料理スキルのLVがめっちゃ高い。料理好きなのかな?
「ほら、魔法スキルは俺なんかより格段に上なんだから、俺が教わる事なんていっぱいあると思いますよ? 魔法だけじゃなくて料理だって教わりたいです」
「料理…好き、なの?」
「はい。たまに作って家族に振舞ったりしていますよ。でもあんまり上手じゃないんですよね。この前なんて砂糖と塩を間違えてしょっぱいハニートースト作っちゃったし、目玉焼きを作っても黒炭みたいになっちゃうし…」
するとユミナ先生はクスッと笑ってくれた。くっ、ユミナ先生…笑顔がめっちゃ可愛い。惚れそう。
「そうなんだね…お料理が好きなら、私、いっぱい教えられるよ?」
「お料理も教えて欲しいですけど、魔法もいっぱい教えてくださいね」
「えへへ…うん。魔法もがんばって、教えるね。私も、頑張るから」
「はい、一緒に頑張っていきましょう! よろしくお願いしますユミナ先生♪」
そんなこんなでやっと始まるユミナ先生の授業。この日は中級水魔法を教えてもらった。
シュゴオオォォン…シュゴオオォォン…
地面に設置された魔法陣から間欠泉のように大量の水が吹き出している。魔法を使っている時のユミナ先生はいつもの小動物的な可愛さがなくなり、一流の魔導師らしく凛々しい感じに見えるから不思議だ。
「これが、中級水魔法『
「なる程。勉強になります!」
「それじゃ、やってみて? 最初は、慎重にね」
ユミナ先生の優しい指導のおかげで、今日だけで俺の水魔法LVが1つ上がった。指導してくれている最中は緊張している素振りもなく、伸び伸びと教えてくれていた気がする。緊張が解けてよかったね。
さらに翌日、家庭教師生活3日目、今日は虎人族のこの人である。
「やっと私の出番っすー!! たっぷり教えちゃうっすから覚悟するがいいっす!!」
「よ、よろしくお願いします、フラン先生」
「うむうむー。それじゃ、今日は隠れんぼするっすよ!」
「隠れんぼって、あの隠れんぼですか?」
「うん、そうっすよ! あのお子ちゃま達がよく外でやる隠れんぼっす! 範囲はクロっちの家の庭限定で、わたしが隠れるっすからクロっちはどんな手を使ってもいいから見つけ出して欲しいっす!」
なんで隠れんぼなのかはよくわからないが、フラン先生にはフラン先生なりの考えがあるに違いない。ここは俺も全力で隠れんぼするべきなのだろう。
「これも修行なんですね。わかりました!」
「それじゃこの木の所で100数えて欲しいっす! その間にわたしは隠れるっすよ!」
「了解です! それじゃ行きますよ! い~ち、に~…」
俺の側からダッシュで立ち去るフラン先生。…隠れんぼか。そういや俺って索敵スキルとか持ってなかったな。持ってないなら作れば良いじゃない! ってことで【魔法創造】起動!
《魔法創造起動。
術式構成:自分の周囲にあるものの魔力を探索し、その結果をモニターに表示する。脳内に表示することも可能。探索する範囲によって魔力消費量が変化する。
術式名:
※
これもまたコストが結構デカイなぁ。まぁ使い方によっては色々便利だし、今後は必ず必要になるだろうから問題なしだ。YESっと。
体内から一気に魔力が消費され、【
とりあえず探索範囲は半径500mで生物のみを探索。俺の目の前に探索結果が表示されたモニターが現れる。せっかくだから3Dマップをイメージして表示させているので、周囲にいる生物の位置が詳細に分かる様になっている。
(フラン先生だけ識別色を赤に変更)
これでさらにわかりやすい。どうやらフラン先生は、現在庭の一番高い木の上にいるようだ。
「・・・99、100!! それじゃ行きますよ~!」
100まで数え終わると、俺はそのまま真っ直ぐにフラン先生がいる木の方へ向かっていく。このまま木に登るのも面倒なので、
どごおおおぉぉぉん! という音と共に、フラン先生が木の上から降ってくる。
「にゃあああああああああああ!!」
さすがにこのまま地面に叩きつけられたら可愛そうなので、落ちてきたところを衝撃を殺すようにお姫様抱っこで受け止めてあげた。
「よっと、フラン先生みーつけた!」
「え、あ、う、うううううにゃあああああ! なんでっすか!? なんでそんな簡単に見つけられるんっすか!? 何したんすかぁぁぁぁ!!」
ふしゃあああ! と猫が威嚇でもするかのように尻尾を立てて怒るフラン先生。あぁ、そのピンっと張った尻尾を撫で回したい。
「俺オリジナルのちょっとした魔法ですよ。フラン先生が何してもいいって言うから」
「お、オリジナル魔法っすか!? ず、ずるいっすよそんな魔法ぉ」
「でも、その魔法使わないと今日中に見つけられなかったかもしれませんよ? それだと訓練にならないじゃないですか」
「うーーーん、じゃあ今度は逆にするっす! 私が鬼でクロっちが隠れるっすよ。これならその魔法を使われても関係ないっすからね。気配を殺してわたしから隠れきる訓練っす!」
「…まぁ、別にいいですけど」
「それじゃ100数えるからしっかりと隠れるっすよ? い~ち! に~!」
フラン先生が木に腕を当て、目隠ししながら数え始めた。なぜか尻尾がフリフリして俺を魅了する。正直ここから離れないでずっとその光景を見ていたいが仕方ない。さーて、何処に隠れるかな? 倉庫の前にある樽の中でいいか。樽の中って狭くて暖かくてなんか好きなんだよね。
~10分経過~
…随分遅いな。そんなに難しいところ隠れてないんだが。
~30分経過~
…………あー、だんだん眠くなってきた。居心地良すぎるんだよなこの中。
寝ちゃダメだ~…寝ちゃ…Zzzzzz
~フラン視点~
「ここっすねクロっち! 見つけたーって寝てるんすか!?」
樽の中を覗くとクロっちが気持ちよさそうに眠っていた。うーん、こうして寝顔を見ていると…やっぱりただの5歳児っすよね。でも、さっき木の上から落ちた時に受け止めてくれた時はちょっとカッコよく見えちゃったっす。なんか、不思議な男の子っすね。
可愛い寝息を立てて眠っているクロっちをじーっと観察してみる。
薄い色の金髪で整った顔に長いまつげ。クロっちはまごう事なき美少年っす。この子が大きく育ったら将来かなりのイケメンさんになるんじゃないっすかね? そしてこれから世話になるであろう先生であるわたしのこのキュートな魅力に負けて告白とかされちゃったりして…むふふふふん♪
よし! これからクロっちの好感度を稼いでわたしの虜にするっす! 今からしっかり懐かせておけば、将来はイケメン彼氏を超ゲットっす! くふふふふっ♡
はっ! い、いけないっす! どれだけ欲望に忠実なんすかわたしはぁ!!
と、とりあえずこのままにはしてはおけないので、いい加減起こすっすかね。起きたら普通に接しなくちゃダメっすよわたしぃ! YESショタっ子NOタッチっす!
~クロード視点~
「――――……うっ…うぅん……あれ、寝ちゃった?」
目を覚ましたらオレンジ色の光が目に刺さってかなり眩しい。どうやら既に夕暮れ時になってしまっていたようだ。ここって訓練場か?
「あ、目を覚ましたっすねクロっち」
「えっ?」
フラン先生の顔が俺の上にある。この状況は……どうやら俺は芝生の上でフラン先生に膝枕されて寝ていたらしい。フラン先生はショートパンツを履いているので、頭の裏に生の柔らかな太ももの感触がする。…可愛い獣人女性からの人生初の生膝枕。俺は…俺はなんで寝ていたんだ!!?
「探してたら樽の中で寝てるからビックリしちゃったっすよ。良く眠れたっすか?」
「…はい、ありがとうございます。っていうかすいません、膝借りちゃってたみたいで」
「にゃはは、気にしなくていいっすよ。クロっちの寝顔、超可愛かったっすから! わたしからしたら役得もいいところっす♪」
にひひっとフラン先生が笑う。夕日に照らされたフラン先生の笑顔は、なんだか凄く綺麗にカットされた宝石のように輝いて見えた。思わず時間を忘れてその笑顔に見惚れている俺がそこにいた。
「・・・・・・」ボー
「ん? どうしたっすか、クロっち?」
「……えっ!? いや、な、何でもないですよ! そ、そういえばシルビア先生達はどうしたんですか? 隠れんぼ始めた時は近くにいたと思ったんですけど」
「2人にはお願いして先に帰ってもらったっす。クロっちの可愛い寝顔を独り占め出来て嬉しかったっすよ♪」
またこの人は…そういうことをそんな笑顔で言うんじゃないっての! 照れるわ!
俺とフラン先生は訓練所を後にして家の正門の前まで移動する。もう夜だから送っていくと言ったら断られてしまった。もう暗くなるから女性一人じゃ心配なんだがなぁ。
「あの、本当に送らなくていいんですか?」
「問題なしっすよ。わたしが住んでる宿って結構近いっすからね。心配してくれてありがとうっす♪」
「んー、わかりました。それじゃまた来週です」
「うん、また来週っす! ちゃんとお風呂入って歯ー磨いて寝るっすよ~」
そう言ってフラン先生は手を振って走って帰っていった。その後ろ姿を見て、今日のフラン先生の夕陽に照らされた笑顔と太ももの感触は、俺の心のDドライブに永久保存しようと改めて思う俺だった。
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