第8話「家庭教師がやってきた」


 冒険者登録をしてから1週間後、ついに我が家に家庭教師が来ることになった。どんな人が来るのか楽しみだな。出来れば可愛い女性を希望します! もしくは獣人の女性!!


『この依頼が達成できたら私の尻尾、モフモフしてもいいわよ♪』


 とか言われたら、俺は命懸けで依頼を達成することだろう。


「クロード様ー! 冒険者の方達がお見えになられましたー!」


「わかった。すぐ行くから応接室で待っててもらって」


「了解です!」


 さて、着替えて会いに行きますか!



 部屋で髪と服装を整えてから応接室に着くと、ノックして中に入る。中には3人の女性が待っていた。


 一人目は腰まであるキラキラとした長い銀髪で、右の目元に縦長の傷のある女性。多分20代中盤。金属のライトアーマーに革のバックラー、腰にショートソードを装備している剣士タイプだ。


 2人目の女性は耳が長いからエルフなのかな? 青い髪をサイドテールにしており、ローブを纏った魔導師風の見た目10代の女の子。大人しそうでかなり可愛い。これからに期待だな。


 3人目は赤髪でボブカットな獣人の女性。縞模様の耳からして虎獣人かな? こちらは軽装の革鎧を着ているが、腰にナイフを二本装備している。職業は多分シーフか何かだろう。年は20代前半に見える。ぼんきゅっぼんなスタイルが素晴らしい。虎耳モフモフしたい。

 

 瞬時に確認を終了し、彼女達の対面に座り挨拶をする。


「はじめまして、今回家庭教師の依頼を出させて頂いたクロード=グレイナードです。先日5歳になったばかりのひよっこですが、よろしくお願いします」


 座りながら一礼しておく。すると銀髪の女性が答えてくれた。


「はじめまして、私はこのファルネスの街で冒険者をしているパーティ『銀月の誓い』でリーダーをしているシルビアという者だ…です。現在Dランクで剣と盾持ちの前衛をしている…ます。隣にいるのが同じパーティメンバーのユミナとフランです」


 次にシーフっぽい赤髪の女性が自己紹介してくれた。


「次は私っすね! はじめましてクロード様。私はシーフで虎人族のフランっす! パーティー内では斥候とか罠解除とか解体とか暗殺とかやってるっすよ! 薬草とかそっち方面も詳しいから色々教えてあげるからよろしくっす!! ほら、次はユミナっちっすよ!」


 最後に3人目の魔導師風の子が挨拶してくれる。


「う、うん! えっとユミナ、です。エルフで魔導師、やってます。よろしくお願い、します」


 印象的にはリーダーと宴会担当にマスコット…かな。先生になってくれる人に失礼だけど、みんな可愛いくて綺麗で優しそうな女性だからちょっと安心した。


「みなさんよろしくお願いしますね。あと、俺のことはクロードでいいですし、別に敬語じゃなくてもいいですよ。俺も普通に喋らせてもらいますので」


「そ、そうか! その方が非常にありがたい。敬語というのはどうも苦手でな。それじゃここからはクロードと呼ばせてもらおう。私のこともシルビアと呼んで構わない」


「私はクロっちって呼ばせてもらうっす! 私のこともフランでいいっすよ!」


「あ、わたしもユミナでいい、です。クロードくん」


 クロっちか…なんかギリギリだな。そしてユミナさんを見ていると、小動物みたいでなんか和む。


「それで冒険者について学びたいと聞いたのだが。クロードはまだ5歳なのだろう? 学び始めるには些か早すぎるのではないか?」


 シルビアさんの質問はわかる。普通遊び盛りの5歳児が冒険者の訓練したりしないよな。でも俺は一刻も早く冒険者になって、その後に続くハーレムへの道を歩みたいのだから仕方ない。


「俺は三男だから領地を次ぐわけでもないですし、以前からずっと冒険者になりたいって思っていたんです。その為に母から魔法とか色々教わっていたんですが、本格的に冒険者のことを学ぶなら現役の冒険者の人達に実践で使える技術を習った方がいいんじゃないかって話になったんです」


「ふむ、なるほどな。それで冒険者ギルドに家庭教師の依頼を出したんだな。それでクロード、私達3人がお前に冒険者の知識と経験を与えるということで問題ないか?」


「はい、それで問題ありません。よろしくお願いしますシルビア先生!」


「っ!! す、すまないクロード、もう一度言ってくれるか?」


「? よろしくお願いします、シルビア先生♪」


「ぐはっ!! くっ……これは、かなり嬉しいものなのだな。先生と呼ばれる事にこんなに気持ちが揺さぶられるとは思ってもいなかったぞ…」


「シルっちだけずるいっす!! 私も呼んで欲しいっす~!」


「わ、私も…」


「フラン先生、ユミナ先生もよろしくお願いしますね!」


「「……じーん」」


 先生って言うだけでこんなに喜んでくれるならいくらでも呼んであげちゃうよ。


「それじゃ契約の話に入ろうか。依頼書の通りならば、契約は3年間で、週に3日間私達と訓練することになる。賃金は月に一人頭金貨10枚…って、本当にこんな好条件でいいのか? 私達は非常にありがたいのだが…」


「ええ、シルビア先生達さえ良ければそれでお願いします。慣れてきたら訓練する日数を増やしてもらうかもしれませんので、そこは臨機応変にお願いしますね」


「了解した。それじゃ今日からよろしく頼む、クロード」


「よろしくっす! 頑張っていっぱい教えてあげるっすよ!」


「よろしく、お願いします」


「こちらこそ、ご指導よろしくお願いします!」


 これで契約完了だ。今日からこの先生達と一緒に頑張っていこう。





「さて、それでは早速訓練に入ろうか。ここの家の裏手に訓練場があると聞いた。そこへ行こうか」


「わかりました。案内しますね」


 俺の案内で家の裏にある訓練場へと向かう。3歳から毎日シゴかれていた訓練場だ。倉庫の中には訓練用の剣や他の武器なども常備してある。


「それじゃまずは剣術から見せてもらおう。最初はこの訓練用の剣を使おうか。刃引きしているから怪我をしないで済む」


「はい! よろしくお願いします!」


 俺は訓練用の剣を抜き、正眼に構える。シルビア先生も俺の対面に行き、静かに剣を構えた。


「私は言葉で教えるのは得意じゃない。すべて実践で教えていく。いいな?」


「はい! むしろそっちの方が分かりやすくて好きです。シルビア先生!」


「くっ…! で、では好きなようにかかって来い!」


「はい! 行きます! 『身体強化アクセルブースト』!」


 気合を入れて身体強化アクセルブーストを掛け、シルビア先生の胸を借りるつもりで突っ込んで斬り付けてみる。しかし上段からの切り払い、袈裟斬り、切り上げ等、切り方を変えて攻撃するが全て綺麗に防がれてしまう。今の俺は剣術スキルは持っていないが、前世で小学生の時に剣道クラブだった俺の剣を防ぎきるとは…なかなかやるな!


「ほう、そこそこ剣の基礎は出来ているなクロード。5歳児にしてはいい太刀筋だ!」


「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます!」


 そこからもパターンを変えて斬りかかってみるが、予測でもされているかのように全ての攻撃を簡単に受け流されてしまった。ちょっと…いや、かなり悔しいなこれ。


「よし、そこまで!」


 はぁ、はぁ…くそぉ、結局一発も入れられなかった。


「次は防御の訓練だ。今度は私から攻撃するから防いでみろ! いくぞ!」


「ちょっ!!」


 慌てて防御体制を取る。しかし、シルビア先生の攻撃は確かに剣で受け止めて防いだはずなのに、気付いた時には俺の体に打ち込まれている。フェイントか? 剣で受けてようとしても、その防御が流れるように捌かれてさらに一撃入れられる。これが本場の冒険者の剣か!


「どうしたクロード! まだこんなものじゃないぞ!」


「くっそぉ! まだまだぁ!!」


 身体強化アクセルブーストを全開にして目も強化しているので、シルビア先生の剣筋は確かに見えているはずなのに防げない。攻撃してくる剣に合わせて防御しても、その剣が当たる瞬間に打ち込む角度を変えて的確に俺の体に当ててくる。この変幻自在の剣の前には急所を防ぐので精一杯だ。そして、シルビア先生の剣の速度が打ち込まれるたびに上がっている気がした。


「はははははっ、良い、良いぞクロード! もっと耐えて見せろ!!」


「はぁ、はぁ、このまま…負けられるかぁぁぁ!!」




 防御の訓練が始まって数分後、気付いたらボッコボコにされていました。全身を殴打され、体が悲鳴を上げている。訓練用の剣とはいえめっちゃ痛いなこれ。


「何やってんすかシルっち! やりすぎっすよ!!」


「クロードくん! すぐ回復を!!」


 俺のボコボコ具合に気付いたシルビア先生がその手から剣を落とし、顔を真っ青にしながら自分の両手をじっと見詰めている。


「!! あ、あぁ…私はまた…」


 ・・・昔なんかあったのかな? いやーしかしめっちゃ痛いわー。密かに魔法で回復しながら攻撃を食らっていたが、訓練用の剣でも材質は鉄なので、当たり所が悪ければ死ぬレベルで痛い。でも今は体に鞭打って無理をする時だ。俺は痛む体に心の中で喝を入れながら、なんとか立ち上がる。


「っ!! はぁ、はぁ、大丈夫ですよユミナ先生。もう回復しましたから」


「え、嘘…まだ血だらけ、なのに!」


「これでも体の頑丈さには少し自信あるんですよ俺。さぁシルビア先生! 続きやりますよ!」


「え……いや、しかし…私は…」


「この程度の怪我、俺にはなんてことありません! もっとかかって来てください! シルビア先生に打ち込まれることで何かを掴めそうな気がするんです!!」


 性癖的な意味ではない。多分。ちょっとだけ気持ちよくなってしまったのは秘密だ。


「クロっち、ほんとに大ジョブっすか? さっきまで顔面がボッコボコでちょっと変形してたっすよ?」


「問題ないですよ。もう治りましたから! だから…」


 ビシッと剣をまっすぐシルビア先生に突きつける。これが俺のホームラン予告だ。


「最後まで付き合ってもらいますからね。シルビア先生!」


「…ふっ、ふふ…はははははっ」


 突然笑い出すシルビア先生。しかしその目には少しだけ涙が浮かんでいた。このまま終わるなんて俺が許さない。女性の後悔の涙なんて見たくないんだよ俺は!


「まったく、お前という男は…。分かったよ。最後まで付きあうさ! 途中で投げ出したとしても絶対に逃がさないからな!」


「そんなの当たり前です! 今度はこっちから行きますよ! うおおりゃああああ!!」


 結局、その日は夕食が出来て母さんが呼びに来るまでひたすらシルビア先生と打ち合っていた。そのおかげで無事『剣術LV1』のスキルをゲットできました。

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